異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第71節

 クリスと会食をしたあの日、話の流れからレオと模擬戦をすることになった。あの時案内された庭園はこんな風に綺麗に手入れされていた。思い返してみれば庭師さんに悪い事をしたな。
 レンガで舗装された通路。その脇を低木や花が切り揃えられていた。


「なんだよ! お前、能力が使えないんじゃねぇのかよ!!」


 さっきまでの余裕のあった挑発的な態度とは違ってバンは取り乱した言葉を口にした。
 他の面々も何故だといった表情を浮かべている。


「エイジ! さっきの女――」


「クロちゃんは連れてきてないよ」


 この場にいるのは俺とこの三人……いや、俺が覚えていないもう一人も加えて四人だけ。


「クララ。お前がさっきまで言っていた四人目はまだこの場にいるか?」


「ええ。エイジのすぐ隣にいるわ」


「なら、逃がさないようにしないとな」


 周囲の土やレンガを強引に引き剥がして壁を生み出す。この異空間は全て魔力によって生み出したもの。その産物は全て俺の支配下にある。


「おい、トラス! あいつが異空間の創造主じゃなかったのかよ!?」


「確かにこの人が生み出したわ! それは間違いない!」


「だったら、こいつは何なんだよ! 俺は確かにあいつに触れて能力は封じたはずだ!」


 バンにとっては予想外の出来事だったようだ。さっきまでの余裕のある態度を崩し、喚き散らしている。


「これは能力じゃない」


「能力じゃないというなら、それは一体なんなの!?」


 トラスも困惑して訊き返す。それに対して俺は正直に答えた。


「これは魔術だ」


「魔術? 何言ってんだよ? 魔術みたいな能力ってんなら分かるが――」


「……バンさん。この人が言っていることは本当。この人は能力ではない力を使ってるわ」


 悲痛な表情を浮かべたトラスは半分諦めた声を上げた。俺の言っていることが真実であることは自身の能力が裏付けているからだ。


「な……」


「魔術は他にも使えるぜ。例えば俺はあんたの英語だって魔術を使えば日本語に聞こえる。俺が今話してるのは日本語だけど、あんたにも意味が分かるだろ?」


「エイジさん、本当?」


 トラスは咄嗟にエイジに視線を向けた。


「ええ。てっきりその人、ずっと英語で話しているのかと思っていたわ」


「いや、どう聞いても日本語だろ!」


 三人は互いに言い争っている。


「クララ、四人目はどこにいる?」


「ゆっくりとこちらに近付いてるわ。右斜め前」


「そうか。カオス、鎖鎌だ」


 カオスを鎖鎌に変形させ、分銅を投げて見えていない何かを鎖で捕まえようとする。すると僅かな違和感と共にノーという名前と老人の姿が思い出され、目の前には鎖で捕縛されたノーが倒れていた。


「お前、一体何者なんだよ!」


 一体何者か。まさかこんな三下のセリフを現実に訊く事があるとは思わなかった。まるで虚構上のやり取りだ。だったらここは乗っておかないとな。


「万殺者、白炎の魔術師、救国の英雄、色んな二つ名はあるがこっちではただのニーサンだ」


 身体強化。加重。再生。
 異空間を作った直後にもかかわらず魔力の流れが滑らかに充足している。
 一瞬にしてバンとの距離を詰め、即死しない程度に力を加減して腹に一撃を加えた。
 手応えからして力の入っていない腹筋を貫き通し、内臓にまで衝撃が加わっただろう。
 バンの身体が垂直に五十センチ程浮き上がってはその場に倒れた。


「よくもクロちゃんを恐い目にあわせてくれたな」


 俯せになって倒れたバンを足蹴にして仰向けにする。
 バンは口元から涎と共に赤黒い血を垂らしていた。即死しない程度に加減はしたが、内臓が傷つく程度には威力があったらしい。このまま放っておけば間違いなくこいつは死ぬ。


「意識はまだあるか?」


 バンが握っていたナイフを蹴飛ばしてから軽く脇腹を蹴る。すると痛みと声を堪えるように歯を食いしばった。


「ノーとバンは見ての通りだ。二人はどうする? これでもまだ俺に敵対するか?」


 トラスとエイジは互いに顔を見合わせ手を上げた。


「降参よ」


「降参するわ」

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