異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第69節

 振り向けば初老の男と茶髪の男がいた。
 茶髪の男はクロを後ろから関節を極めてナイフを喉元に突きつけ、初老の男はトラスとエイジを引き起こしていた。
 いつの間にかクロの髪による拘束が解けている。やはり、あの茶髪の男の能力は他者の能力を無力化するものらしい。


「おっと、動くんじゃねぇぞ。この嬢ちゃんの能力は今俺が禁じてるからな」


 いかにも三下がやりそうな手段だが実に効果的だ。


「……ニーサン、ごめんなさい」


 クロはナイフを突き付けられながらも俺に謝ってくる。本当ならクララが注意をした時点で俺がすぐに対処できればこうはならなかったはずだ。なのに俺がクララを疑って無駄に時間を使っちまったせいだ。


「以前君とは一度話したことがあったね。まさか、君がアマテラスに属しているとは思わなかった」


 クララが言った通り、あの時ホテルで話した老人に違いない。


「ってことはあの時点じゃ俺が何者か知らなかったわけか」


「そうとも。あの場に居合わせたのはただの偶然。彼女を出迎えた際に偶然にもあのホテルを予約していただけだ」


 ノーはエイジに視線を向けた。


「まさかあの時の女の子か?」


 あの時老人に見せてもらった写真の女の子と目の前にいるエイジの容姿は似ている。姉妹と言われればそのまま信じそうだ。


「そんなことより、君がこの空間の創造主なのだろう?」


「チッ」


 否定した所であのトラスって女にはバレている。ここはイチかバチか猫とククに追跡を任せて異空間を解くべきか?


「そんなことは俺が触ればすぐに分かる事だろう? お前、武器……って何も持ってないか……トラス、あいつが他に武器を持ってないか確認しろ」


「命令しないでくれる?」


 トラスは仏頂面を続けながら俺に視線を寄こす。


「あなた武器は隠し持ってないわね?」


「……持ってるよ」


 どうせバレるんだ。正直に答えてやろう。


「なら捨てろ。いや待て、こちらに背を向けてから捨てろ」


 警戒心が強い男だ。
 俺は男に言われるまま奴らに背を向け武器を捨てる。と言ってもカオスで作った武器だ。いくら捨てようがいくらでも創造できる。


「ほら、捨てたぞ」


「他に武器は?」


「俺の力だと武器はいくらでも作れるんだ。捨てても武器が無くなるってことは無いぞ」


「……貴方の能力は異空間を作る事だけじゃないのかしら?」


 トラスがこちらに確認をしてくる。ということは真実の全容を把握する能力ではなく、一部だけ、あるいは真偽を確かめる能力ということか。


「俺の能力の副産物みたいなものだよ」


 間違ったことは言っていない。俺の能力は異世界に渡る力であり、異世界に渡った結果として魔術が使えるようになった。


「……本当のようね。この人は武器をいくらでも作れるわ」


「チッ、面倒な奴だな。だったら俺の能力で封じるしかねぇわけだ」


 相手に戦闘系能力者がいないのに人質を取られ、そのうえ俺の情報すら取られるとは厄介だ。


「待って。バンの能力を使うと私の能力まで阻害されるわ。もう少し情報を聞き出さないと」


 チッ。あのバンって能力無力化能力者が俺に近づいてくれれば俺の魔術で簡単に倒せるってのに……。


「この上何を聞くって言うんだよ」


「……私達の居場所を突き止めたのは貴方?」


「……イエス」


「本当みたいね。でも、追跡に向いた能力でもなさそうなのにどうやって見つけたのかしら……」


「だったら訊けばいいじゃねぇか」


 バンは無遠慮に言う。たぶん、このトラスの能力は自分の質問したことに対する回答の真偽を見分ける能力。なら、正しい質問をしなければ正しい解答が得られない。漫画とかでよくある能力だ。
 時間をかけてくればもしかしたらブラッドとファットが助けに来てくれるかもしれないが……。
 チラリと二人の様子を窺うがそれは期待できそうにない。それどころか、ファットが少し押され気味にすら見えた。


「……貴方達の他に援軍は居るのかしら?」


「……いる」


「なら、これ以上の問答は無しよ。バン、彼の能力を封じて」


「あいよ。この嬢ちゃんはエイジに任せる」


 そういってバンは簡単にクロをエイジに突き渡す。つまり、バンが一度触れれば暫くは能力を封じ続けることができるというわけらしい。


「動くんじゃねぇぞ」


 バンはそう言いながら助走をつけ、俺の顔を思いっきり殴ってきた。
 俺は自然に任せて吹き飛び、地面に倒れ、タイミングを合わせて異空間も解いて見せる。


「カオス。バックアップ頼む」


 俺は倒れた状態のまま再び魔力を全身に満たしていく。続けざまの異空間を発生させるには魔力の充足が足りない。それをカオスに補ってもらう。


「よかろう」

「異能力で異世界充実 ―非現実の扉―」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く