異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第67節

 平原の中、ブラッドとファットとは別に六人の男女が平原にポツンといるのが見えた。
 女の方が何かを喚いているようだが正確には聞き取れない。


「クロちゃん、敵は六人。狙えるか?」


「はい」


 クロは力強く応え、地に這わせる形で丘を下り平原へと髪を伸ばしていく。
 その間にもブラッドとファットが五人の敵を相手にする。どうやら戦闘に参加しているのは二人のようで残りの三人は非戦闘員のようだ。戦闘員は男二人、非戦闘員は女二人に男一人だ。


「クロちゃん、戦いに参加していない三人から狙っていこう」


 ブラッドの相手はクララが宿った魔石を拾った黒髪の東南アジア系の男。ファットの相手は体格の良い茶髪の白肌の外国人だ。
 東南アジア系の男はその場から動かずブラッドの攻撃を全て弾いているように見え、拮抗している。ファットの方は互いに高速移動での肉弾戦になっており、すぐに決着がつきそうには見えない。


「ニーサン。そろそろ敵を捕縛できそうですが、今すぐに捕まえますか?」


「ちょっと待って」


 戦況としてはまだ確定ではないが、相手は非戦闘員を気遣いながら戦っている。それに対し、こちらは援護ができる状態だ。現状で拮抗しているのであれば俺が援護に回ればこちらの有利に一気に傾くだろう。
 逆に言えば、敵は見方を守りながら拮抗できているだけにその実力は決して低くはない。あのファットが前線にいるにもかかわらず決着がすぐに付かないだけに少しだけ不安が残る。


「……よし、捕まえてくれ」


 敵を捕縛すれば必然、クロの存在がバレる。そして、クロを守る俺の存在もバレる。そこで俺がすかさず護衛と援護を兼ねるわけだ。俺は遠近両方に能力が使えるわけだから適材適所なのかもしれない。
 クロの黒い髪が三人の非戦闘員の足に絡まり、捕縛しようとする。しかし、男の脚に絡まった髪だけは煙のように消えた。まるでクロの髪が切断された時のように形を残さないように。


「クロちゃん、女二人だけ捕まえて。たぶん、あの男はクロちゃんの髪を無力化できる力を持ってるんだと思う」


「分かりました」


 男が髪に触れた瞬間に髪が消えたという点から触れることを条件とした能力であるように思える。どんな能力かまでは分からないけど。
 捕縛した女二人は凄まじいスピードでこちらに引き寄せられていく。例えが悪いが、掃除機のコードを巻き取るあの感じだ。ただ引き寄せているだけなのに引きずり回される恐怖を覚えるに違いない。
 二人の女は手足を髪によってぐるぐる巻きにされ、簀巻きのように俺達の目の前に転がっていた。


「トラス! なんとかならないの!」


「私の能力は戦闘に役立ちませんので。こういう時はバンさんに言ってください」


「バンなら自分だけ助かってるじゃない! もう!」


「エイジさんの能力も戦闘には役立ちませんし、手詰まりですね」


 話の流れから察するに俺が追跡していた背の高い女がエイジ。ククルカンに追わせていた女がトラス。そして、クロの髪から逃れた男がバンという名らしい。本名かどうかは分からない。


「質問です。私達をこの場に転送したのは貴方ですか?」


 トラスは捕縛され動けないにもかかわらず冷静に質問をよこしてきた。


「答える必要は無いね」


 俺は突き放すように答え、トラス達から一度視線を切ってブラッド達の様子を伺う。
 敵は六人。戦っているのが二人で捕縛しているのが二人、クロの髪から逃れた男が一人で……あとの一人は……?


「ノーさん。彼がこの空間の創造主です」


 トラスの言葉に俺は振り向いた。
 トラスとエイジが捕縛され転がっている。さっきと同じだ。でもなんで俺は今振り向いたんだ?


「カズキ! 目の前に敵がいるのにどうしたの!?」


 突然クララが大声を上げる。


「いや、敵って言っても捕縛した二人だけだろ?」


「二人!? ちゃんと見て! そこにいるでしょう!? 三人目が!」


「三人目?」


 クララは何を言ってるんだ? この場に三人目なんているわけない。敵は五人で平原に三人、この場に二人いる。この場に三人いるなら敵は最初から六人いたということになる。


「ニーサン。このあとはどうしますか? この二人を連れて脱出しますか?」


 俺が戸惑いを見せたせいか、クロも不安気に俺に尋ねてきた。


「いや、このまま俺達は援護をするぞ」


 今や三対六だ。数の上でもこちらが有利。ここは異空間だから相手の援軍が来ることもまずない。これだけの好条件で敵を取り押さえられないならこちらに勝ち目がない。


「クララ、敵は最初から六人居たのか?」


「そうよ。カズキも見てたじゃない」


「いや、俺の記憶だと最初から四人だった」


「四人!? カズキ、大丈夫!?」


 クララがおかしなことを言う。もしかして、俺は幻聴でも聞いているのではないかと疑うほど支離滅裂な会話をしている。


「クロちゃん、敵は最初から四人だったよな?」


「はい。今戦っている二人と今捕まえている二人ですけど、それがどうかしました?」


「いや、いいんだ。ありがとう」


 俺もクロも同じだ。クララだけが敵は最初から六人居たと言う。そして、俺に見えていなかった敵が見えていた。
 ……もしかして、そういう能力者がいるのか? 人の記憶や知覚に干渉する能力者が。

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