異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第66節

 ブラッドがどこかへ連絡をした後、ブラッド、ファットは車。猫とククはタクシー。クロは俺と空を飛んでそれぞれ目的地に向かうこととなった。
 今回、相手の拠点は民家ということもあり住宅街に位置する。つまり、周囲に人気が有るため周囲にどう異常を感知されない注意する必要がある。
 そこで出番となるのが俺だ。俺の能力であの異空間を作り出し、対象となる人間全員を異空間に放り込む。そしてブラッドとファットが敵を襲撃し、クロが捕縛。仮に異空間が解けた場合、猫やククが偵察をする。万全な布陣だ。
 俺は空から住宅街へ向け、ゆったりと杖を進める。


「あの……ニーサン。これって本当に大丈夫なんですか?」


「大丈夫だって。そんなにスピードも出してないし」


 今のスピードは地上でのサイクリング程度だ。遮蔽物がないため風を強く感じるが、このスピードで車と並ぶ。
 こっちは遮蔽物もなく信号もなくカーブもない。なのでこのスピードでも十分間に合うはずだ。


「あの、もう少し低く飛べないんですか?」


「低すぎたら見つかっちゃうから、これ以上は下げられないかな」


 滑るような等速直線運動を続ける杖に跨る俺とクロ。掴まるものがないので、必然として俺の腰に手を回すクロ。もしも今が夏だったなら薄手の衣類で楽しい時間を過ごせたであろうことを想うと残念でならない。


「ニーサンはずっとこの街に住んでるんですか?」


「どうしたの? 急に」


「その……ずっと、この街に住んでるならもしかしたらどこかで会ったことがあるかもしれないと思って」


「そういうことか。俺は長い間ここに住んでるかな。元々親父と二人暮らしだったけど、大学に入る時に一人暮らしを始めたんだよ」


「大学ですか」


「うん、大学。クロちゃんは大学に進学する? それともアマテラスに就職?」


「分かりません。今年は大学受験で本当なら勉強をしなきゃいけないんですけど……」


「あれ? クロちゃんって高校三年生だったんだ」


「そうですよ。一月になったらセンター試験がありますから毎日受験勉強なんです」


「……少し立ち入ったことを聞いてもいいかな?」


「なんですか?」


「クロちゃんって平日でもこっちに来てるけど、学校の方は大丈夫なの?」


「そのことですか。アマテラスの方で色々と手を回していただいたようで私だけ少し早目の自由登校期間になってるんです。だから私、卒業式まで学校に行かなくてもいいんですよ?」


「そういうことだったんだ。そういや俺にもあったな」


 本来はセンター試験が終わって二次試験のための受験勉強期間みたいなものだけど、クロちゃんは既にその期間に入ってるって扱いなのか。


「猫さんに聞いたんですけど、ニーサンはK大学に通ってるって本当ですか?」


「ああ、まぁね」


「現役ですか?」


「うん。一応ストレート」


「凄いですね。あそこって頭良くないと入れない大学って聞きました」


「そんなことないよ。俺が入れるぐらいだから」


 留年しまくりの俺でも入れるんだ。きっと運が良かったんだろう。今ではそう思っている。


「さてと、そろそろ目的地だ。クロちゃん、降りるから掴まってて」


 俺はクロと一緒に近くのマンションの屋上に降り、見下ろす街並みの中の一点に視線を注いだ。


「少し遠いけど、行けるだろう」


 このシチュエーションに相応しい情景に心当たりがある。
 丘から臨んだ緑の平原。俺が起こした白炎の海によって焦土と化したあの平原。
 俺の体内から放出される魔力は徐々に広がりを見せ、この住宅街に満ちていく。そしてその魔力は朧げな幻影から明確な影形を持ち、俺を中心にコンクリートとアスファルトによって構成された凹凸の世界が緑一色の平面へと塗りつぶされていく。

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