異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第62節

 俺はイラストを拾って明かりの無い階段を警戒しながら降りる。人の気配は無く、廊下に面した扉から漏れ出る光もない。
 ニョロニョロ。
 俺とは別のルートからやってきたククルカンは俺の体を登って腰に巻き付く。


「この階には誰も居ないのか?」


 コクコク。
 なら、この階に用はない。
 更に一つ下の階に降りて廊下を覗くと、明かりが漏れ出ている扉を見つけた。どうやらあの部屋に誰かいるらしい。
 音を立てないよう忍び足で扉に近づく。
 中からは話し声は無く、その代わりに寝息が聞こえる。時々、寝言も聞こえてくる。
 音を立てないようドアノブをゆっくりと回し、引いてみた。
 中を覗くと六人の男女が全員、ソファーや床に寝転がっている。その中の二人はクララが見た一組の男女に間違いない。
 戦闘になれば最悪、皆殺しも考えていただけに安堵した。
 部屋は事務所らしく机が並べられ、奥には社長という名の組長が座りそうな黒革張りのソファがある。その後ろの壁には達筆な四字熟語が額縁に入れられ飾られているが達筆すぎて読めない。
 そして、この部屋の右奥には更に扉がある。近づくと話し声が聞こえてきたため、聞き耳を立てた。どうやら日本語を話す男、英語を話す女、そして通訳する女の三人がいるようだ。


「柏木さん。もう一度確認ですが、本当にダイアを特定できたのですか?」
「柏木。再確認です。ダイアを見つけましたか?」


 俺自身の通訳能力と通訳された言葉が重複して妙な聞こえ方になる。そして、通訳している人間も微妙に違ったニュアンスで通訳しているのが分かる。


「そりゃあもちろん。俺達の仕事は早いってのが売りですからね」
「私達の仕事は早い事が長所です」


「そう。それなら、早くダイアの情報をください」
「柏木。ダイアの情報をください」


「ああ、まとめた資料はここにある。日本語だが勘弁してくれ」
「これが資料です。日本語で書いてしまい申し訳ありません」


「なら、大事な部分だけ教えてくれるかしら」
「大事な部分だけ話してください」


「ダイアは二十代前半の男。出社、帰宅した様子が無い事から事務所に寝泊まりしている可能性が非常に高い。喫煙者。今日手に入れた情報は以上だ」
「ダイアは二十代前半の男性。高確率で事務所に住んでいる。喫煙者。以上」


 情報のほとんどが間違っていますよと指摘してあげたい。


「柏木さん。本日の報酬はこちらに」
「柏木。今日の報酬だ」


「毎度」
「いただきます」


 金銭の受け渡しをしているのだろう。


「ところで、柏木さんは私達が何のために彼を調べているのか気にならないのですか?」
「柏木。私達の調べものについて興味は無いのか?」


「無いと言えば嘘になりますが、貴女達のことわざにあるでしょう? ……えーっと、何だったかな。余計な事に首を突っ込むと身を亡ぼすってやつ」
「興味はあるが、貴方達のことわざで余分な首を死ぬという物があるでしょう」


「好奇心は猫を殺すね」
「好奇心は猫を殺す」


「そう、私達の世界はそういうものですから」
「私達の世界はそういうことです」


「なるほど。賢明ね」
「納得した。柏木は賢い」


「それはどうも。お帰りならタクシーを呼びますがどうしますか?」
「ありがとう。帰るならばタクシーを呼びましょうか?」


「いえ、大丈夫です」
「大丈夫」


 やばっ。そろそろ帰るみたいだ。
 俺は音を立てず、そして迅速に部屋を脱出した。

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