異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第59節

「俺らにも飯を食う時間ぐらい無いのかね。まったく」


 ハンドルを握った男は辟易とした表情で前の車を睨みつける。


「そんなに空いてるならそこのコンビニにでも寄ればいいじゃない」


 助手席に座る女は携帯を扱いながら適当に答えた。


「あっちが焼き肉食って、俺達はアンパンでも齧ってろってのか? そんなのまっぴらだね。俺達だってあの店に入れば良かったじゃねぇか」


 男はウィンカーを出して車線を左車線から右車線へと変え、アクセルを踏んでカズキ達の車を追い越す。


「仕方がないでしょう? 頭が近寄るなって言ってるんだから、私達はそれに従うしかないの」


「それは分かってるけどさー、なんで俺達がやつらを尾けなきゃいけないんだよ。頭、そこんとこ説明してくんないから、こっちもやる気が出ないんだよなー」


「私もそう思うけどさ、仕方がないさ。そもそも、こんなピンボケの写真に映ってる奴の素性を探れって話がおかしいのさ。もしかしたら、頭だって上から言われて仕方がなくやってるのかしれないしさ」


 女が取り出した写真は女が言うようにピンボケしておりハッキリとはしていない。ただ、短い黒髪の男が映っている事がなんとなくわかるぐらいだ。いや、もしかしたらショートヘアーの女かもしれない。と言われても誰も反論できない程にピントが外れていた。


「でも、さすがに昨日の連中は外れだろ? 白髪のヤンキー風の兄ちゃんに、黒髪ロングのお嬢ちゃん、それから茶髪のお姉ちゃん。どれもこの写真の男じゃねぇ」


「そうね。今の所、一番可能性が高いのはあの車の後部座席に座ってる男。少し髪が長い気もするけど。前の茶髪の女と中年デブに比べたら全然可能性が高いわ」


「ああ、俺もそう思った。たぶんあいつだ」


「今、兄貴達にも聞いてみたけど皆あいつがターゲットだろうって言ってるし」


 女が携帯の画面に映し出された文字を男に見せる。


「兄貴達がそうだって言ってるならそうなんだろ。そういや、頭がターゲットの名前はなんとかだって言ってたけど、なんだったっけ?」


「えーっと、確かダイアって呼んでたかな」


「ダイアねぇ。どこらへんがダイアなんだろうな」


「さぁね。ダイアってのはたぶんダイアモンドの事だろうから、それだけ金になるって話じゃない?」


「ふーん。もしかして、あいつの家がすげー金持ちだったりして」


「まぁその割には服装が安っぽいし、私はその線はないと思うけどね」


「でもさ、この仕事が終わってスゲー大金が入ったらさ。俺らにもおこぼれぐらいくれるよな?」


「頭は機嫌が良いと気前も良いからね~。もしかしたら、一人一束貰えるかもしれないよ」


「一束って百万か?」


「兄貴達も昔貰ったことがあるって言ってたし」


「昔ってどれぐらい昔だ?」


「えーっと、十年前だったかしら」


「……ハァ。周りは景気が良いって言ってんのに俺達の懐はいつになったら良くなるのかね」


「愚痴っても仕方ないわ。ほら、音楽でもかけて元気出しなさい。後一周したら変わってあげるから」


「あいよー」


 それっきり男と女は話さなくなった。散発的に話す事もあったが、それは他愛ない話ばかりでカズキ達に関わる話の一切がない。
 カズキ達が事務所に戻ったらすぐに二人は近くのラーメン屋に向かい、残りの四人と合流した。
 そのまま夕暮れを迎え、酔った男と素面の女が再び乗車し、商店街外れの立体駐車場に車を停めた。


「ほーら、起きなさい。私の腕じゃあんたを抱えられないんだから、シャンと立ちなさい」


「んー、もう少しだけ。もう少ししたら起きるから」


「もー、子供じゃないんだから。あんなにバカみたいに飲んで」


 女は運転席から降り、助手席側に回って男を引き起こす。


「早く戻らないと頭から怒られるわよ」


「頭かー。頭に怒られるのはやだなぁ」


 男はふら付きながらもなんとか立ち上がる。


「ターゲットが絞り込めたんだから、明日は作戦決行よ。早く戻って布団で休みなさい」


「分かったよー」


 男は助手席を扉を閉め、二人は立体駐車場に設けられたエレベーターへと向かった。

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