異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第53節

 晩餐会は立食形式の食事会であり、タダ飯にタダ酒を楽しむ席でもある。だが、今回の俺は飯や酒を楽しむ暇などなく、常に誰かと話す事を強制されていた。何故かというと、俺の隣にはクリスが常に控えていたからだ。
 今回の晩餐会は俺が主役だが、俺があまり社交的じゃないこともあってあまり他人と話したがらない。そこでクリスが余計な気を利かせ、あの人はドコドコのダレダレですよといって紹介する。紹介されたからには話さざるを得ず、それを何度も繰り返しているうちにみるみる時間が過ぎた。
 酒より飯の俺としてはゆっくりと腰を下ろして飯にありつきたいがそういうわけにもいかない。なので晩餐会にもかかわらず、腹を空かせたまま立ち話という苦行を受けていた。
 それでも、途中までは頑張った。頑張ったが、疲れた。
 切りのいい所で代役としてハリソンを立て、お手洗いに向かうと言って会場を離れた。


 実際、お手洗いはただの逃げ口上でそのまま外で時間でも潰そうかと思っていた。
 化粧室を探す途中、アイリを見つけた。アイリも俺に気が付いたようでこちらに歩み寄ってくる。


「カズキ様、もうよろしいのですか?」


「ああ、ちょっと疲れたから抜けてきた」


「お疲れ様です。何か飲み物でもお持ちしましょうか?」


「いや、それより何か腹に入れたい。適当に選んできてくれ」


「分かりました」


 アイリはそういって俺のために料理を選びに行った。
 今日の晩餐会で提供されている料理は王城に使えるシェフが作ったものだったり、オルコット商会から購入したものだったりする。その中にはもちろん俺が仕入れたお菓子やお酒も当たり前のように並んでいる。そして人も並んでいる。やはり、人は甘味と酒には飢えているらしい。


「カズキ様、お待たせしました」


「ありがとう」


 アイリは俺の好みを踏まえた上で料理をチョイスしてくれた。できた奴隷である。
 俺はそれらを軽く平らげ、ウェイトレスらしき使用人に皿を返す。


「さてと、ちょっと人気のないところに行こうか」


「はい」


 アイリの手を握り、バルコニーへ向かう。


「そういえば、前に屋根に上ったことがあったっけ」


 あの時はアイリが胸中を明かしてくれたんだっけか。あの後から俺は新しい奴隷を手に入れようとは思わなくなったし、現に新しい奴隷は迎え入れていない。


「……ありましたね」


 アイリもあの時を思い出してか少し恥ずかしそうにしている。


「また上ってみようか」


「でも、外は冷えていますよ?」


「大丈夫さ」


 俺はカオスに頼んでマントを出してもらい、それでアイリを包み込む。


「これなら寒くないだろ?」


 小柄なアイリを抱き寄せる。


「……はい」


 俺はアイリの腰に手をやり、しっかりと掴まえてバルコニーから飛び上がった。
 冷たい空気が不思議と心地いい。
 俺は屋根の上に腰を下ろして胡坐をかき、その上にアイリを乗せた。軽くて柔らかくて、甘い香りがする。


「まさか俺が貴族なんてな」


 現代日本では既に廃止され、例外として皇族のみが残るのみ。


「カズキ様は貴族に成りたかったんですよね?」


「どうなんだろう。貴族って称号には少しだけ憧れはあったかもしれないけど」


 切っ掛けは何だっただろうか。自分の領地を開拓し、領民の幸せを願う主人公への憧れだったかもしれない。貴族にないたいわけじゃなくて、その主人公のように成りたかったのかもしれない。


「貴族になるのは目的じゃなくて手段だったのかもな」


「手段?」


「ああ。例えばさ、ジェイドやアンバー、フランみたいに身寄りのない子供でも快適に住める国があったらいいなって思ったとするだろ?」


「そのような国があれば、先の戦争で親を失った子供達にとって救いになると思います」


「ああ。俺もそう思う」


 学校の授業でよく言われる文句だ。『世界平和のためになにができるか』。『恵まれない子供達になにができるか』。結局、その答えはその場凌ぎの、表面上の答えに終始する。だけど、もし俺にそれができるだけの力があるなら俺はどうするだろうかと考えなくはなかった。


「だからさ。俺の理想の国を作ってみたいって思うんだ」


 俺の俺による俺のための国だ。民主主義とは逆行した独裁政治。俺の理想を実現するためだけの国。


「カズキ様が統治される国はきっと素敵な国になると思います」


 俺はアイリの言葉に強い信頼を感じた。

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