異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第52節

 胡散臭そうなおっさん連中の相手は疲れた。
 一応俺の肩書が公爵、つまり貴族の中で言えば最上位に位置したことで、いかにもゴマをすりに来ましたといった雰囲気の連中が多かった。
 数が数だけに途中から爵位が子爵以下の相手はハリソンに頼み、侯爵以上の相手を俺が務めることにした。それでも引っ切り無しにやってくるため、疲れる。一年分ぐらいの愛想笑いをしたかもしれない。
 そんな精神的に疲れたところで三人の美女がやってきたのだから、目の保養には間違いなかった。


「――ッ。はじめまして。カンザキ公、私は森の国より参りましたキャス・フォレストと申します」


 一人目は森の国の王女様。トール人なだけあり長身美形の白肌。王女という事もあり、貴賓も持ち合わせ、所作の一つ一つが優雅に見える。が、何故か始めて俺の顔を見た時は何か得体の知らないものでも見るような、率直に言えばビビった風に見えたが、それでもすぐに取り繕っていた。


「私は湖の国のネイ・レイクです」


 二人目は湖の国の王女様。タイン人のためか非常に小柄で長身のキャスと並ぶとより一層小さく見える。ジェイドやアンバーといい勝負だが、これでも成人しているらしい。それでも王族のためか言葉遣いは丁寧で幼少のお姫様といった感じだ。こちらはキャス・フォレストのようにビビった様子は終始見せず、非常に友好的だった。


「私は山の国のイオネ・ヒル。よろしく」


 三人目は山の国の王女。シーク人の特徴である褐色肌に赤髪はフランと同じだ。フランがスポーツ選手のような筋肉の美しさを持っているならば、このイオネ・ヒルはモデルのような細い筋肉の美しさがある。礼儀正しさの隙間から活発さが垣間見え、ドレスを着慣れていないように感じた。


「初めまして。今日はわざわざ俺のために来てもらってありがとうございます」


 俺は立ち上がって三人と握手を交わす。
 キャスの手は細長くて綺麗で、ネイの指は小さくてプニプニしていて、イオネの手は大きくて熱かった。


「立ち話もなんですから、どうぞお座りください」


 三人はそれぞれ椅子に座る。こうやって見てみると、美女三人を面接しているみたいな気になる。


「カンザキ公、少し訊いてみたい事があるんだけどいいかな?」


 最初に話を振ってきたのはイオネだった。


「なんでしょう?」


「カンザキ公が魔王を倒したのってのは本当?」


 イオネの問いにキャス、ネイの両名もずっと気になっていたようで俺の答えを待った。
 そういえば、俺の戦いはサニングの空に映し出されていたため、今まで俺が本当に魔王と戦ったのかと聞かれたことは無かったが、三人はそれを目にしていない。だから改めてそんな問いが投げかけられるのか。


「本当だ」


 俺は確かに悦楽の王にカオスを突き立て、代償に俺は両腕を失った。その証拠に俺の両腕は本来の俺の腕ではない。


「魔王は強かったか?」


「ああ、強いね」


 俺は間髪入れず答えた。
 少なくとも最初の戦いなんて戦いと呼べる様な物ですらなかった。戦いになっていなかった。
 カオスがいたから俺は戦えた。そして勝てた。


「カンザキ公、私からもいいですか?」


 キャスとイオネに挟まれているためより一層小さく見えるネイが口を開いた。


「なんでしょうか?」


「少し気になっていたのですが、カンザキ公は多くの奴隷をお持ちですよね?」


「多くって言っても四人だけだけどな」


 アイリ、ハリソン、ロージー、フランの四人だ。


「クリスと話していた時に気になったのですけど、私の聞き間違えでなければ、カンザキ公は奴隷のために魔王と戦ったという事になるわけですが、間違いないですか?」


「ああ、俺はこいつらのために魔王と戦った」


 俺はポンとアイリの頭に手を置くと、アイリは少し顔を赤くした。それがまた可愛い。


「カンザキ公はお優しいのですね」


「優しいってのとはちょっと違うけどね」


 俺は照れ笑いをしながら水を飲む。


「私からも少しいいかしら?」


 今度はキャスだ。


「いいですよ」


「カンザキ公が保有している奴隷、そこの男性はハリソン・ロウで間違いないかしら?」


「……ああ」


 少し棘のあるキャスの口振りでハリソンから聞いた話を思い出す。
 ハリソンの部下だったヨハンが森の国の王族を殺したという話だ。それを切っ掛けにハリソンは没落し、結果として俺の奴隷となったわけだ。


「カンザキ公は彼がどのような経緯で奴隷の身となったかご存知かしら?」


「もちろん」


 俺はその話を直接ハリソンの口から聞いていた。


「彼の部下が私の弟を殺しました」


「…………」


 王族を殺したとは聞いていたが、まさかこの人の弟とは思わなかった。この人の弟という事はまだ子供ではないのか?


「あの頃は彼を少なからず憎みもしました。ですが、今では私も父も冷静になり、彼を許すことになりました。それだけを伝えたかったのです」


「キャスお嬢様……」


「ハリソン。お父様はあなたの罪に等しいだけの罰を与えたと思っています。ですから、あなたにもう一度森の国へ立ち入る赦しをだすつもりだそうです」


「私がもう一度……」


 感涙するハリソン。


「やっぱり人間って面白いわね」


 唐突にクララが口を開いた。


「どうかしたのか」


「キャス・フォレスト。あまり演技は上手ではないわね。下手でもないけれど」


「演技?」


「ええ、本当は今でも怒ってるのよ。でも許すって口にしている。自分の気持ちと言葉が違ってる。だから面白いわ」


 それもそうか。自分の弟を殺されて、簡単に許せるはずがないもんな。それでも許さなきゃいけないってことは何かしらの理由がいる。勘だけど、俺が関わっている気がするが、その詳細な理由が分からない。ハリソンを許すことで俺の心証を良くする事が目的か? でも、その必要があるのか?


 ドラマチックな演出が行われるが、クララの一言で熱が冷めた気持ちになる。一応、表面上はハリソンと森の国の王族達は和解した形となったし、俺もそのことについて文句はない。
 その後、ぎこちない空気のまま少々のお喋りをして解散となり、晩餐会の時間となった。

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コメント

  • ノベルバユーザー254917

    ヒロインの名前変えたの?

    0
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