異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第50節

 授与式は直ぐに終わり、貴賓室に戻ってきた。
 一切口を利いていないにもかかわらず喉が渇き、何度も水を要求してアイリを水を注がせてしまった。


「ハリソン、ちょっといいか?」


「なんでしょう?」


 渇きが潤った俺はハリソンに疑問をぶつけてみた。


「俺が公爵の爵位を受けるのってやっぱりおかしいことなのか?」


 元々俺が爵位を授かるってのは分かりきっていたはずだ。なのにあの反応は少し引っかかる。


「そうですね……。私の予想としては子爵、あるいは伯爵の爵位をカズキ様が授かると思っておりました。しかし、カズキ様が授かった爵位は侯爵。つまり、爵位の位の中でも最上位です」


「爵位の最上位って言ってもピンとこないんだけど、どれぐらい偉いんだ?」


「そうですね……。最高位を王として考えますと、王、王妃、王子、王女、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士となります。つまり、公爵は王族に次ぐ権威の持ち主という事になります。そして完全自治領、自国を有する資格があるのも公爵になります」


「それってやっぱり凄い事なんじゃないか?」


「そうです。だからこそ、あの場にいた皆が驚かれたのです。魔王を屠った救国の英雄への対価としては十二分でしょう。少なくとも王族が出せる最大限の報酬と言っても過言ではありません。サニング王はそれだけカズキ様に感謝しておられるのか、何かお考えがあっての事と思われます」


 そういえば、クリスも言っていたな。俺という存在が魔族への抑止力となると。そのために、俺がこの場に留まるために、出せる最大限の報酬を用意したということか。


「まぁ貰えるものはもらっておこう。それに――」


「それに?」


「成り上がり系主人公ってのも味わってみたいからな」


「成り上がり……ですか?」


「ああ」


「しかし、成り上がりとはあまりいい意味の言葉では」


「いや、いいんだ。実際事実だしな」


 平民が公爵になるなんて成り上がりなことこの上ない。そこから領地経営をするのはワクワクする。どんな国にするかも俺の自由だ。完全自治領ってことは本当に俺の好きにしていいってことだ。


 コンコン。


 どうやら、初めの客人のようだ。


「どうぞ」


 初めに訪れたのは意外なことにロトだった。


「やぁ、カズキ」


 なぜだろうか。ロトの雰囲気が依然と少し違って見えた。


「久しぶりです。ロト殿下」


「ああ、こうやって話す機会も作れなくてすまなかった」


 前の野性味溢れた雰囲気ではない。こうやって落ち着いた姿を見ると少しサニング王の面影もある気がする。


「立ち話もなんですから、こちらへ」


「ああ」


 ロトは俺の正面の椅子に腰かける。


「身体の方は大丈夫ですか?」


「なんとか無事だ。魔王との戦いで魔力欠乏症に陥ったが、クリスの所のレオよりはずっと軽かったからな」


「そうでしたか」


 ロトは軽い調子で返答するも、一度言葉を区切って大きなため息をする。


「終戦までの後始末をカズキに全て任せてしまって済まなかったな」


「いえ、最終的には自分のために戦ったわけですから」


「俺も見ていた。彼女らを人質に取られていたようだな」


 ロトはチラリとアイリ達を見やる。


「それでも俺はカズキに感謝をしなくてはいけない。あの後、父上からも強く叱責を受けて自分の思い上がりを反省した」


「反省ですか……」


「ああ、まだ俺に王の座は譲れないとも言われた。父上はまだまだ王を退任するつもりはないようだ」


 まぁ王位継承問題なんてどこにでるあるようだが、ここの親子関係は俺が受けた印象よりもいくらかはいいらしい。なにせロトは叱られたのに笑っている。陰鬱な笑いではなく、何かを吹っ切れたような表情だ。


「とりあえず、しばらくは魔大陸への侵攻の件は無しだ。まずは内政をしっかりして国の基盤をもっと盤石にする必要がある。だから、魔大陸への侵攻のために力を貸してもらうって約束は一旦凍結させてくれ」


「それはいいですよ。でも、今更フランを返せなんて言いませんよね?」


「ああ、もちろんだ。今、カズキが使っている屋敷の名義も俺からカズキに変えさせる」


「ああ、それはいいですね」


 わりとあの屋敷に愛着が湧いている。貰えるなら貰っておきたい。


「俺としてもカズキには恩義を感じてるし、父上からもカズキにこの借りを返すまでは王の座は決して譲らんとまで言われたからな。何か困ったことがあったら俺が相談に乗るぜ」


「ロト殿下の後ろ盾があるとなれば心強いです」


「ああ。今日はその話がしたかっただけなんだ」


 ロトは話は終わりとばかりに立ち上がるが、何かを思い出したように俺の顔を見る。


「俺より先に小国とはいえ王になるんだ。立派な王様になってくれよ。参考にさせてもらうからさ」


 そうか、俺は王様になるのか。
 全くもって実感がなかったが、ロトに言われ実感の芽ぐらいは生えたかもしれない。


「国の名前が決まったら教えてくれ。それとももう決まってるのか?」


 国名か……俺の国は日本。そしてこの国は陽の国。何の偶然か、両国ともに太陽を名を関する国だ。この運命に俺も乗りたくなった。
 安易な選択だが、俺にはこれ以外の選択肢は無いように思えた。


「ヒノモト。俺の国の言葉で太陽の下を意味する言葉です」


「……それはいいな。その名前、俺は好きだぞ」


「ありがとうございます。殿下。よければこちらをお持ちください」


 俺はハリソンに目配せをして一本の瓶を用意させ、ロトはそれを受け取る。


「なんだこれは?」


「俺の国の酒ですよ。日本酒と言います」


「ほう……カズキの母国の酒か、いただこう。では、また晩餐会で会おう」

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