異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第48節

 王城へ馬車で向かう。さすがにドレスを着た女性連中に手綱を握らせるのも悪いと思い、今回の御者はハリソンにお願いしている。
 道中、やけに人通りが多く、馬車も多い。晩餐会のための準備のためかと思いきや、荷馬車も多いが普通の馬車も多い。それもわりと上流階級の人間が乗りそうな馬車だ。


「なんか、やけに馬車が多いな」


「今日の授与式に参列される貴族の皆様でしょう」


 ロージーは落ち着いた様子だ。元々貴婦人というのもあるのだろう。緊張はしていないようだ。


「俺みたいな外の人間の授与式になんでわざわざ?」


「救国の英雄の顔を見るため、というのもあるのでしょうが、カズキ様が救った命がそれだけ多かったという事でしょう」


「どういうことだ?」


「親衛隊には貴族出身の者達が多く居ます。その彼らを助けたとなれば、恩を感じる者も少なくないでしょうから」


「あー、そういうこと」


「他にもいろいろとあるのでしょう。純粋な恩義を感じた者、利益を追及する者、好奇心を抱いた者、敵意を持った者。今やカズキ様は時の人、話題に欠く事はありませんから」


「なんだか一気に有名人になっちまったな」


 やっぱり、自分の知らない所で自分の名前だけが独り歩きしているのはなんだか不思議な感じがする。


「今はサニングでカズキ様を知らぬ者はいないでしょうが、いずれは陽の国、湖の国、森の国、山の国、きっと全ての国にその名を轟かせることと思います」


「別に名声が欲しいわけじゃないんだけどな」


 そんな雑談を交えつつ、王城へ到着した後は貴賓として扱われ、貴賓室に通される。
 暫くするとメイドを従えたクリスがやってきた。


「カズキ、久しぶりね」


「お久しぶりです。クリスティーナ王女、ご健康そうで何よりです」


 戦争終結直後は顔色を悪くしており、ひどく疲れていた印象があったが、今ではその面影もない。すっかり体調は戻っているようだ。


「本日はお招きいただきありがとうございます。私が爵位を授与できるのはクリスティーナ王女の口添えあっての事と思っております」


「私の口添えだけではこのように大々的に行われたりはしないわ。カズキがこの国を救ってくれたからこそ、皆がカズキの貴族入りを歓迎しているんだもの」


「そう言っていただけると正直に嬉しいです」


「兄もカズキ様の貴族入りは歓迎してくださいましたし、今回の爵位の授与はお父様が先んじて提案したことでもありましたの」


 クリスの言葉に一瞬詰まる。俺の頭の中ではロトとクリスが約束を果たした結果として爵位の授与があると思っていたからだ。この件に王は絡んでいないと思っていた。


「なんで王様が俺に爵位を授けるって話を?」


「それだけカズキがした事が偉大だってことよ。もし、再び魔王がサニングに侵攻してきたとしたら私達は侵略され、占拠されるでしょう。でも、カズキがいればその可能性はずっと低くなる。カズキがいるだけで魔王達への牽制になるの」


 まるで人間核兵器みたいな扱いだ。まぁ抑止力としての意味合いであれば間違っていないか。


「だから、カズキにはずっとここにいて欲しいの」


 クリスは俺の手を取り、上目遣いに、まるで懇願するようにお願いしてくる。


「それはまぁ……うん……」


 なぜか俺はそこで率直に答えられなかった。
 そして、ロトが言っていた言葉を思い出す。それは俺とクリスをくっつけるといった趣旨の物だったはずだ。
 もし、俺とクリスが結ばれれば結果としてこの国に俺を縛り付けることができるかもしれない。だが、クリスの口振りからして俺と結ばれるという選択肢そのものが無いみたいにも見える。だから、俺の思い過ごしだろう。


「私やお兄様、お父様もカズキのために色々と考えたの。気に入ってくれると嬉しいわ」


 そういってクリスは俺から手を話す。


「ごめんなさい。もっとゆっくり話したかったのだけれど、そろそろ式が始まるわ」


「ああ、もうすぐ始まるのか」


「また後で会いましょう」

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