異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第45節

 その後、紅蓮と交渉を終えた俺は拠点としているビルに戻り、クロとファットを交えて午前中の訓練の反省をし、見回りから帰ってきたブラッド達から要約すると収穫はなかったとの報告を聞き、適当に時間を潰してからその日は解散の運びとなった。
 俺はそのまま皆に別れを告げ、異世界に移動する。
 いつも通り皆に挨拶をし、夕食に集まるが一人だけ欠けていた。


「フランはどうした?」


 俺の問いにアイリが答える。


「フランさんはアーサー親衛隊の兵舎にしばらく泊まり込みだそうです」


「早速やってるのか」


「なんでも、カズキ様が私兵を持って、フランさんがその長となった時にどう統率を取ったり、訓練したりするかといった事までドーラさんから学ぶって言ってましたよ」


「ああ、確かに言ったことがあったな」


 冗談で言ったつもりじゃないが、早急……でもないか。欲しい時にすぐ手に入るってモノでもないだろうし、下地作りは大切か。
 俺は納得して夕食を始めた。
 今日は俺が好きな焼き魚が今日の主菜だ。魚に脂が乗るのはこちらの世界でも同様のようで、塩漬けされた魚を皮がパリパリになるまで焼き、そこに醤油をかけて食べる。ご飯が進むことこの上ない。


「今日の夕食はどっちが作ったんだ?」


「姉さんですよ」


「…………」


 ジェイドが答え、アンバーは黙々と箸を進める。


「そうか。ありがとうな、アンバー」


「…………」


 照れてるのかどうか分からないが、すまし顔は変わらない。


「じゃあ、この味噌汁もアンバーが?」


 この世界では冷蔵庫が使えないため、常温でも保存ができる食材を持ち込んでいる。その中には味噌も含まれている。


「姉さんったら、これを作るまでに何度も試飲してはこれじゃないこれじゃないと研究してたんですよ」


「マジか」


 上手い料理を作るために努力するとは恐れ入った。俺の貧乏舌じゃ味の機微には疎いが、美味い物は美味いと言わせてもらおう。
 それにしても、アンバーは凝り性のようだ。主婦より料理人のほうが向いていると言えばいいのだろうか。一つの物事を突き詰めるタイプと見た。


「ああ、そういやロージー」


「なんでしょう?」


「もう少ししたら、今までよりたくさんの食料やら酒やらをこっちに持ってこれるようになりそうだから」


「そうですか。それは良い報せですね。先の戦争で一時的に魔族に支配されたとの噂が近隣の村々に伝わって、交易商人の方々も警戒しているのか人足が鈍っているようなので、食品が少し高騰気味なんです」


「そうか。なら、相場が激しく動かない程度に今ある物資をオルコット商会に流してくれ。裁量はロージーに任せるから」


「分かりました」


 戦争終結直後にある程度まとまったお金を手に入れ、それを元手に物資を買い込んでは貯蔵している。


「カズキ様、そのことで一つお耳に入れたい事が」


 ハリソンが口を開いた。


「なんだ?」


「カズキ様からということで貴族の方々に贈り物をしているおかげか、カズキ様の評判は悪くないのですが、農村部を領地としている地方貴族の方々はカズキ様が持ち込む品が自分達の利益を損なうのではとの意見が出ているそうです」


「あー……」


 やっぱり、この世界にもあるわけね。既得権益ってやつ。


「オルコット商会としては長い歴史の中で貴族の方々との信頼関係がある一方、カズキ様が持ち込む物にも強い魅力を感じ、板挟みの状態となっているようでもあります」


 正直、俺にとってはどうでもいいことだ。だが、不要な敵を作るのも煩わしい。さて、どうしたものか。


「具体的にはどういった内容なんだ?」


「多くは麦作を中心とした農村を持つ領地貴族からですね。食料高騰期にカズキ様が大量に米を放出した件は覚えていますか?」


「ああ、確かこの屋敷の元の主人が食料を買い集め、意図的に高騰させて、俺が米を放出した結果、首が回らなくなったって話だっけか」


「その時に国民に米がある程度浸透したようで、特に富裕層の国民の一部では割高な値でも買いたいという声もあるそうです」


「まぁ米は俺の国の主食で、品種改良は滅茶苦茶されてるらしいしな」


「また、職人ギルドに所属するパン職人が仕事を奪われる可能性があると危惧し、ギルドに訴えているようでもあります」


「それはまぁ気の毒としか」


 俺は食料が高騰して困る国民のためにとやったことだ。そんなこと言われても知らん。


「では、このまま放置してもよいという方向でよろしいでしょうか」


「あー、ちょっと待った。確か、パン職人が困ってるって言ってたよな」


「あー、はい。そうですけど」


「アンバー、パンは作れるか?」


「……? ええ」


「なら、ちょっと作ってもらいたいものがあるんだけど。足りない食材は俺の方で都合付けるから」


 俺はアンバーにあるレシピを教えた。


「分かったわ。少し時間がかかるから食後のデザートとはいかないけれど、夜食には間に合わせるわ」

「異能力で異世界充実 ―非現実の扉―」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く