異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第42節

 ファットとの訓練を終え、結局一度も勝利を掴むことはできなかった。だが、悔しい気持ちを抱きつつも確かな手ごたえは感じている。


「カズキ。少しいいか?」


「どうした?」


 他の二人に聞かれないようやり取りをする。


「先ほどの訓練で多くの魔力を消費した。そろそろ魔力を補充したほうがいい」


「昨日、ドーラから魔力をそれなりに吸い取れたんじゃないか?」


「あの戦闘で使った魔力量とで差引ゼロだ。悦楽の王から手に入れた魔力があと半分はあるが、この調子で毎日魔術を使えば一週間と持たないだろう」


「そうか。分かった」


 そういえば、元々魔力は自然回復するのに時間がかかるものだ。確かハリソンがそう言っていた気がする。だからこそ、魔石によって魔力を補填するのが普通の魔術師だ。俺の場合、自分の魔力と魔石による魔力が混ざり合っていてあまり実感が無い。だから、俺の場合の魔力の回復とは時間経過によるものではなく、魔石による補充が普通だ。
 そういえば、俺の手持ちの魔石も随分と減った。そして代わりに魔力を宿していない空の魔石が大量にある。これもどうにか処分しないといけない。


「ファットさん。ちょっといいですか?」


「なにかな?」


「アマテラスの伝手で宝石を売ったりできませんか?」


「宝石を?」


「俺の能力の副産物でこういった宝石が手に入るんですけど、これが少し溜まってきたんですよ。いままでは質屋とかで買い取ってもらってたんですけど、やっぱり能力で生み出したものなんで、アマテラス側に言っておいた方がいいかなって」


「ああ、そういうことですか」


 俺は能力で宝石を生み出し、換金することで金銭を得ることができる。だからこそ、紅蓮は俺を金という報酬で鎖を繋げることはできないと言っていた。
 そして、俺が宝石を大量に市場に流せば容易に相場の値崩れを起こすだろう。
 アマテラスは社会秩序を守ることを目的としている。俺が本気で魔石を宝石と言って放出すれば一時的に市場が混乱してもおかしくない。魔石の成分は普通の宝石と変わらないため見抜くこともできない。
 だから、アマテラス側が俺が売りたいという魔石を買い取らなければ、魔石は直接市場に流れることになる。
 極論を言えば、一種の脅しだ。魔石を買い取らなければこれらを市場に放出する。その結果、市場が混乱してもしらないと。
 あちらの世界では魔石はかなりの大きさで取得できる。宝石の正確な価値は分からないが、俺の手持ちの宝石を全て正規の値段で売れば、億という大金だって手に入れれるかもしれない。


「僕からブラッド君に聞いておきましょう。ところで、どれぐらいの量でしょうか?」


「一部ですけど、これぐらいです」


 魔力が空になった魔石を取り出し、傷がつかないよう宙に浮かせて並べてみる。
 塵も積もればといった感じで今出している分だけでも、質量としては合計で十キロ程はあるだろう。


「……思った以上にありますね。これで全部じゃないのかな?」


「はい」


 先の大戦で多くの魔獣、魔人を屠り、切り倒した数だけカオスが魔石を取り込んでいる。もし、あの七千匹の魔獣の魔石全てを俺が手にしていたらもっと数は増えていただろうが。


「僕から支部長に相談しておきます。回答があったらニーサンに伝えますね」


「お願いします」


 たぶん、質屋よりは高額で買い取ってくれるルートを紹介してくれるだろう。もし、質屋より安い価格ならそちらで売る必要が無いからだ。


「さてと、そろそろお昼ですね。外で食べるのでしたら、僕が車を出しますがどうしますか?」


「俺は何でも。クロちゃんは何か食べたいものある?」


「私も何でも」


「二人とも欲が無いなぁ。もっと食事には執着しないとダメだよ。なら、僕が連れて行ってあげるよ」


 そう言ってファットは俺達を急かし、着替えてビルの前で待つようにとのこと。
 俺とクロは急いでシャワーを浴びてから着替え、ファットが指定した場所で待つ。

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