異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第41節

 クロとの特訓は思った以上に難しかった。とにかくクロの覚えがいいのだ。新しい手を常に打ってくるため、対応が後手後手になり、最後には一本とられるという形になる。
 俺が身体強化ではなく魔術を扱って防御に回っているという事もあり、不慣れな部分が多くあるのは事実だが、それを加味してもクロの上達ぶりは凄い。
 結局、俺は一度も10分を耐えることができなかった。
 最後らへんは大人げなく、360度に炎の壁を作り、襲い来る髪の全てを燃やし尽くそうとしたが、コンクリート内をモグラのように進んでは炎の壁の内側に髪を伸ばし、俺に一撃を与えた。
 最長で8分20秒が俺の最高記録となった。どっちが特訓させてもらっているか分からない。
 10回目の訓練を経て、クロに休憩させることにした。
 俺の方はカオスを宿してから疲労感は覚えるものの、疲労そのものはない。筋肉痛すらない。実に便利な体になった。俺がその気になれば、文字通り24時間戦えるかもしれない。それはさておき。


「ファットさん、俺の訓練に付き合ってくれませんか?」


「今度は僕かい?」


「はい。お互いに武器無し。俺の方は武器以外ありありで、ダウン決着方式で」


「ニーサンがあの黒い剣を使わない以外は普通にやるってことだね?」


「はい。どうでしょうか?」


「いいよ。二人の特訓を見てたら、僕も少し動きたくなったから」


 ファットは立ち上がり、菓子袋を捨てて軽いストレッチをする。
 今度はクロがタイムキーパーを務める。


「制限時間は五分一本勝負」


「うん。分かった」


 ファットは見た目が四十代後半の太った中年のおっさんだ。人当たりも良く、丁寧な話し方。優しそうに見えるが、この人の実力はこのチームの中でも抜きんでている。そして、アポトーシスとの戦争における生き残り。具体的な武勇伝は聞かないが、実力は間違いなくある。


「それじゃあ、行かせてもらいます!」


 悦楽の王から得た血染めの手袋を嵌め、ファットに迫る。
 ファットもまた俺に走り寄る。
 闘志を燃やし、膨大な魔力量を身体強化に注ぎ込み、ファットの速度に対応する。
 先ほどのクロとの特訓のせいか、負けん気が最高潮に達し、操れる魔力量が一桁違う。
 調子は悪くない。ファットに劣らぬ速度も出せている。なのにファットよりも一歩遅れて動いている。同じ速度なのに動きが遅れている。つまり、俺の方が出だしが遅いという事だ。
 高速世界では肉体的速度の他に神経速度。つまり、認識→指令→運動のタイムラグをどれだけ減らせるかという点が顕著だ。俺は前にも言われたことがあるが、考えてから動くタイプ。つまり、考えないと動けない。熟練者ならば経験から自然と体が動くのだろうが、俺は経験がないため動けない。防御こそ本能的に反射で動けるが、攻撃となるとどこにどう打てばいいのかさっぱり分からない。そうして後手後手に回っている。
 一撃ももらっていないから防御に徹すれば負けない、というわけでもなく、これは単にファットが手心を加えているだけだろう。
 それが余計に悔しい。
 ファットの動きは武術の動き。俺の動きは素人の動き。同じ速度でも、一撃一撃の重みが違えば、攻防の転身の変わり身の良さ、攻撃の綺麗な受け流し、そういった実力の違いを見せつけられた気がする。
 それでもなんとかファットの攻撃に全力で対処する。体術で足りない部分は魔術で補い、魔術を発動するための時間を体術で稼ぐ。
 俺の攻防の割合は2:8。体術だったり、魔術だったりで攻撃を加えるが良い結果は得られない。普通の武人ならば、死角から魔術が迫れば対応できないはずだ。だが、ファットは異能力者と渡り合う武人。きっと、俺と同じ戦術を使うような能力者と戦ったこともあるのだろう。俺の攻撃を受けるのは初見のはずなのに、半分は知っていたかのように避けたり受けたりしている。
 時々、炎のような受け流しきれない攻撃を加えてもいるが、あの服の内側に何か金属のようなものを装着していて、それを使って受け流している。たぶん、手甲のようなものだろう。
 そうして高速の攻防の末、五分が経過した。
 結果としては引き分け。だが、勝負としては完全に負けだ。
 

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