異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第40節

 クロから色々な情報を整理し、特訓の方針としてクロは自分の能力を中心とした訓練。俺は魔術を中心とした訓練をすることにした。互いに遠距離戦をするという訳だ。
 これは俺にとってもこの特訓内容は渡りに船で、前々からカオスには魔術の訓練はするように言われていた。一応、日常生活中でも身体強化系の魔術は自然と発揮できるようにはなっているが、単発の放出系の魔術ならともかく、複雑な魔術に関してはタメが必要なため実戦ではまだ使えない。
 その原因は自分が思い描いた物を具体化するまでの過程が未熟だからだ。
 フィクション上の妄想を現実に則した想像に変換。その想像を魔術によって具体化し、魔術によって創造する。その過程を繰り返し、習得する。それが俺の特訓の目的だ。


「それじゃあ始めるか」


 訓練前にクロに俺自身の治癒能力がどれだけあるか見せておいた。
 魔術で腕を冷やし、感覚がマヒしたところで腕を軽く切って見せ、十秒かからない程度で傷が治る。
 俺の治癒の原理は分からないが、カオスの説明によれば細胞の活性による再生ではなく、腕そのものを元の状態に戻す修復といった具合らしい。裂けているならば、繋げ直し、血を失ったなら補充する。そういった具合だ。
 まぁそんな感じなのでクロが俺に攻撃を当てても問題ないと言っている。
 もし、俺の意識が失うような形になっても俺の中にいるカオスが自動修復してくれるから即死で無い限りは大丈夫だ。


 ブラッドが言っていたが、クロは能力を防御に使う事には長けているが攻撃に使う事には長けていない。逆に俺は防御を疎かにしており、全てのフェイントに引っかかるほど鈍い。
 つまり、クロが攻め手で俺が守り手だ。
 特訓とはいっても死と隣り合わせのような特訓ではなく、クロが俺に一度でも有効打を与えればクロの勝ち。与えられなければ俺の勝ち。制限時間は十分。そういったルールだ。
 ファットにタイムキーパーをしてもらう。


「よろしくおねがいします」


 律儀に礼をしたクロは逆立てた髪を俺に向け、杭状になった髪の束が正面から俺を貫こうとする。
 俺はそれを炎によって迎撃する。
 クロから聞いた話であれば、ライター程の火では燃えないがバーナーレベルの火力であれば燃えると言っていた。
 俺は魔王と戦う直前、魔王軍の中でも屈指の魔術使いだと言われていた魔人の魔石を取り込んでいる。そしてその魔人が操る炎は人を瞬時に燃やし尽くすほどの火力があるとも聞いている。つまり、火葬場以上の火力だ。


 俺は腕を襲い来る髪束に向け、炎弾を放つ。
 炎弾は魔力を燃料にし、高温の熱と光を発しながら髪を燃やし尽くした。あまりの熱力に髪が燃える独特の臭いすらない。完全燃焼だ。
 しかし、クロの髪は燃やした所で際限無く伸びてくる。今度は正面からではなく、左右同時だ。
 俺は腕を左右に伸ばし、同じように炎弾を放って髪を焼却する。


 シュッ。


 俺の首元に何かが這ったような感触がした。そっと首元を撫でてみると血が出ている。


「もしかして、今のクロちゃんか?」


「はい」


 一体何をされたのか分からなかった。能力を使われたには違いないが、どんなタネがあったんだろうか。


「今のどうやって?」


「昨日、私が猫さんにされた事と一緒です。死角から一本だけ髪を伸ばしたんです」


「でも、見えなかったよ?」


「ニーサンのさっきの炎の弾、とても眩しくて大きかったので、あの光の中なら髪の毛一本なんて見えないと思ったんです」


「ってことはさっきの二本の髪束は――」


「半分は囮です」


 やられた。
 やっぱり俺の防御の勘は酷く鈍いみたいだ。
 なんにしても負けは負けだ。


「まさか一分も経たないうちに負けるとは思わなかった」


 チョークを創造して床にクロ:一と書き込む。


「クロちゃん。もう一回いいかな?」


「はい!}

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