異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第39節

 氷結世界。
 俺が動く度にチリチリとした感触が肌に伝わる。それは大気中の水分が瞬間的に凍り、微小な氷の粒ができているせいだ。
 常に周囲を凍らせ、それを耐冷魔術により遮断する。それが思った以上に魔力の消費が大きいことに驚く。ロイスが言っていた通り、裏魔術の魔力消費量は大きい事を実感として覚えた。


「どうかな? 紅蓮さんの能力を再現できてるかな?」


「……はい。びっくりしました」


 俺の周囲をドライアイスのスモークのようなものが覆い、ゆっくりと地面に降りては周囲に拡散する。それは離れているクロの足元にまで広がっていた。
 一度魔術を取り消し、再びクロに歩み寄る。
 耐冷魔術を止めてみると、周囲がかなり冷え込んでいるのが分かる。秋も半ばといった所で過ごしやすい気温だったが、今は冬の朝のように鼻にツンとくるような気温だ。おそらく、氷点下の周囲温度になっているだろう。


「こんな感じで能力の再現はできるよ。もし、誰かを想定した訓練がしたかったら俺が手伝うよ」


 まぁ実際の能力を真似るなら猫の専売特許なんだろうけど。俺の場合は能力のコピー条件を満たす必要がないからな。


「それなら、私の能力の再現もできますか?」


「えーっと、ちょっと待ってね」


 髪そのものを伸ばすことはできないが、動きを再現することは可能だろう。例えば、砂を操ることで動きを真似ることは可能だろうが、同じだけの強度を保つ術がない。
 一応、魔術によって砂鉄を創造し、試しに動きを再現してみる。自分はその場から動かず、砂鉄の動きだけで攻防の両方を使いこなす。


「クロちゃんの髪程の強さはないけど、劣化コピーぐらいならできるよ。動きもまだぎこちないけど、慣れればまだ早く動かせると思う」


「そんな再現の仕方も出来るんですね」


「うん。まぁ、猫だったらもっと上手に再現できるんだろうけど、今の俺にはこれが精いっぱい」


 そういや猫って昔は今より髪が長かったよな。なんで短くしたんだろうか。
 俺は長い髪の方が好きだから、もったいないと思った。


「猫さんの能力は条件がとっても厳しいらしいですけどね」


「クロちゃんは猫の能力条件って知ってるんだ」


「全部ではないですけど、どれぐらい厳しいかというのは聞いたことがあります」


「へぇ。ちょっと教えてよ」


「えーっとですね――」


 クロから猫の能力について聞いてみた。
①対象となる能力者の姿を直接視認する。映像やレンズ越しではなく肉眼である事。
②対象となる能力者の本名を漢字やアルファベットの綴りまで正確に認知する事。
③対象となる能力者の肌に触れること。衣服に触れても条件は満たされない。
④対象となる能力者が使っている能力と能力条件を認知する事。


 他にも条件はあるらしいが、クロが知っている範囲では少なくともこれらの条件を満たさなければならないらしい。俺に対してはこの中では最後以外、全て満たされている。つまり、俺の能力が正確に猫に伝われば、あっちの世界に猫まで来る可能性があるということだ。


「それじゃあ猫ってファットさんの本名も知ってるってことになるよね」


「僕かい? そうだね。猫さんは僕の本名を知ってるよ。実際に呼ばれたことはないんだけどね」


 ファットはお菓子をバリボリと食べながら答えてくれた。


「なるほど」


 今日は訓練だけするつもりだったが、思わぬ情報が入った。

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