異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第35節

 フランのことはドーラに預け、俺は現代に戻り、その日を終えた。
 そして、起きては朝っぱらから溜まったアニメを消化する。出勤するまでは少し時間があるためだ。


「カズキってば、暇さえあればそういうの見てるわよね」


「まぁね」


 アニメは俺の生きる糧だ。原動力だ。
 俺の精神構造に大きく影響を与えたのは間違いなく漫画、小説、アニメ、その他諸々の作品だ。幼少期には空飛ぶパンに憧れ、小学生になればポケットサイズの動物達をバトルさせる作品に影響を受け、小学校高学年になれば小学生探偵に憧れ、中学生に上がって図書館のラノベに影響を受けた。勧善懲悪のハッピーエンド。それが俺のジャスティス。


「俺にとってこういう物はずっと憧れだったんだよ。現代で、異世界で、歴史上で、空想上のキャラクター達がそれぞれに生きている姿ってのがさ。時々苦しかったり、悲しかったり、辛かったりするけど、最後にはみんなで笑って終わるハッピーエンドがさ」


「でも、それって現実でも一緒じゃないの?」


 一緒じゃないのか。俺も時々思う事がある。


「……違うんだよ」


「違うの?」


「俺は意志が弱かったからさ」


 自分に無い物を作品のキャラに求め、憧れる。
 強い意志を持った主人公は一度や二度、絶望に見舞われても諦めずに最後にはハッピーエンドを掴んだ。俺は絶望に見舞われて諦めた。それが俺が主人公に慣れなかった理由だ。


「俺は正義の味方とかダークヒーローとかになりたいわけじゃないんだよ。俺が俺らしく生きられる主人公でありたいんだ。だけど、この世界だと自分を曲げないと生き辛いんだ。まぁそれはあっちでも同じなんだけどさ」


「カズキの言ってることは良く分からないな」


「たぶん、誰にも分からないと思うよ」


 自分の意志を貫くってのは自分や他人を傷つけるかもしれない。きっとその方が多いと思う。人からは自己中心的と思われるかもしれない。白い目を向けられるかもしれない。理解されないかもしれない。でも、自分で選んで生きていきたい。でも――


「結局、俺は貫けなかったんだよな」


 水城と別れ、大学を留年し、精神的に腐っていた。
 毎日アニメを見てはキャラに自分を重ねて爽快感を得ては自己嫌悪に陥る。そんな毎日だった。でも、あの日俺に転機が訪れた。そして、俺はその転機を手放さないために魔王と戦った。


「俺はあの世界でもう一度、自分の意志を貫けるだけの力を手に入れられる気がしたんだ」


「そうなんだ」


「そう。それに主人公ってのは諦めが悪いからね。男ってのはバカなぐらいがカッコいいんだよ」


「バカでカッコいい?」


「ああ。俺の好きなアニメのタイトルさ」


 ちらりと時計を見る。もうそろそろ約束の時間だ。

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