異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第32節

 フランを連れ、王城の周りをぐるりと回る。途中、警備の兵士達とすれ違う度に警戒されるも、俺と分かった途端に態度が改まる度につい笑ってしまう。


「主、本当にいいんでしょうか?」


「なにが?」


「アーサー王女の親衛隊といえば、人間が到達できる軍団としての理想を実現していると言われているほどの人達です。そんな場所にいきなり向かうだなんて」


「時間も時間だし、急な話ってのは俺も分かってる。だからこうしてロナルドに紹介状も書いてもらったじゃないか。それに言い方は悪いけど、その親衛隊員達が追い払えなかった魔王を追い払ったんだ。対価として多少の我儘を通してもいいじゃないか。なにも金銭の要求をするわけじゃないんだし」


「主がそういうのであれば」


 フランは渋々納得した形となった。
 俺が動かなきゃ、フランもなかなか動けないだろう。あくまでフランは俺の奴隷という肩書。フランが動けば、どうしても俺に影響が来る。そういったしがらみがあるせいでフランも自由に動けないことがある。そういう時こそ、俺が動かなきゃいけない。
 まぁ俺にはつてがあるといった適材適所な面もあるが。


 数分も歩けばアーサー親衛隊の兵舎が見える。クリス親衛隊の兵舎よりも一回り、二回り程大きい。それだけ隊員数があるということだろう。
 兵舎の近くでは剣や槍、弓や魔術の鍛錬をしている者が何十人といた。こんな時間にまで精が出ている。


「すみません」


「ん? おお!! も、もしかして黒髪の異人さん!?」


 話しかけやすそうな比較的若い男に声をかけてみたが、意外な反応だ。アーサー親衛隊といえばもっと窮屈で頑固で鉄皮面のような連中らの集団化と思ったが。


「ああ、はいそうです」


「こんな時間にどうしたんですか!?}


「クリスティーナ王女親衛隊のロナルド隊長の紹介でドーラ隊長にお会いしたいのですが、こちらが紹介状です」


 俺はロナルドから受け取った羊皮紙を男に手渡す。


「はい。ちょっと拝見させていただきます」


 羊皮紙に目を通す若い隊員。その時もチラチラとこちらを見てくる。


「確かに。では、自分がご案内します」


「お願いします」


 中に入るとこれまた随分と綺麗に清掃されている。中世のファンタジー世界の衛生観念なんてもっと低いだろうと思っていたが、驚くほど綺麗だ。まぁ親衛隊員が不衛生の影響で倒れました。動けませんとなっては恥もいいところだろうけど。
 治癒魔術とかで外傷は治癒できるけど、病気は治癒できないとかあるのかな。


 そんなことを考えながら若い男の後ろをついていく。
 やはり、この兵舎でも俺の顔を知っている人間はそれなりにいて、こちらの様子をチラチラと伺う人間が後を絶たない。


「少々お待ちください」


 若い男は紹介状を持ったまま中に入り、中で微かにやり取りが聞こえる。ドーラという名前からなんとなく予想はしていたが、アーサー親衛隊隊長は女性らしい。
 扉が開き若い男が顔を出す。


「カズキ殿。中へどうぞ」


「失礼します」


 一応初対面ということもあり、よそ様用の外面で部屋に入る。フランもなんとなく俺の真似をしてか、部屋に入る瞬間に会釈をしている姿が少しだけ可愛い。


「あんたがカンザキ・カズキか。黒髪の異人、救国の英雄、万殺者、色んな呼び方をされてるようじゃないか」


 なんかまた新しい肩書が生まれてる。


「初めまして、ドーラ隊長。私は神崎一樹と申します。こちらは私の奴隷のフラン」


「ああ、知ってるよ。あの陰険爺さんの紹介状に大体の経緯は書いてあった」


 ロナルドを陰険爺さん呼ばわりか。


「お話が早くて助かります」


 ドーラは三十代後半から四十代前半程の女性。思ったより細身で筋肉女といった感じではない。若い頃は綺麗だったんだろうなと分かる程度には目鼻立ちが整っており、力強い目をしている。第一印象は気の強そうな綺麗なおばさんといった所か。たぶん、見る人によっては美熟女に分類される。


「この件を飲む代わりに一つ条件を出させてもらう」


「条件ですか?」


「そうさ。その嬢ちゃんの訓練相手を用意する代わりにあんたの力を見せて欲しいのさ」


「私の力を?」


「この国であんたを知らない人間はいないといっても過言じゃない。なんといっても単身で魔王と相打ち、あんた一人だけが生き残った。国民の中には、この国のために命を懸けた異国の剣士、なんて言う者もいる」


「この国のために戦ったわけではないんですけど……」


 自分の動機を勝手に解釈されるのはあまり好きじゃない。


「なんでもいいさ。私の興味はあんたの強さ。魔王に匹敵する人間の力を感じてみたい」


「つまり、ドーラ隊長と私が試合をすればいいんでしょうか?」


「そうさ」


 この国で最も強い親衛隊の隊長か……。この国で最強の代表格は俺の聞く限り、ロトだ。ドーラが強いという話を耳にしたことがないが、さて。どれほどの実力なのだろうか。


「分かりました。時間はいつがよろしいでしょうか?」


「いつでもいい」


「ならば、いまからでもよろしいでしょうか?」


「ほう。手ぶらで来ておきながら、いつでも戦えるというのか?」


「私の場合、武器は自由に取り出せますから」


 俺はドーラの目の前で実際に魔剣カオスを取り出して見せる。


「……それがあの時使っていた黒き剣が」


「俺にしか使えない剣です」


「いいだろう。エリック、隊員達を広場に集めろ」


 俺を案内していた男の名前はエリックというらしい。


「分かりました!」


 エリックは敬礼をし、すぐさま部屋を出て行った。

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