異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第33節

 どうしてこうなったのか。
 千人を超える観衆の中、松明に照らされた俺とドーラが対峙する。
 ドーラは戦装束に身を包み、槍を手にしている。それに対し、俺はシャツにジーパンとラフな格好だ。
 傍から見ればふざけているかと思われるが、実際はこれに似た服装で魔王を倒しており、その姿は生中継されている。だからか、俺を馬鹿にする人間はいない。
 手合わせとしてルールはとても実戦に近い形。武器有り魔術有り、その他小道具もありありだ。


「カオス。頼む」


「ああ」


 魔剣カオスを手に緑を基調とした鎧を身に纏い、悦楽の王から得た戦利品の血染めのグローブを手に嵌める。
 一瞬にして装備を身に纏う俺に声があがる。


「魔王を倒したその力、存分に見せないさい」


 二メートルを超える槍を振るい、構え、戦意を剥き出しにする。


「行かせてもらいますよ」


 対する俺もまた剣を構え、身体強化、加重、その他の魔術を並列発動させる。


「来な」


 地を蹴り、ドーラへ肉薄する。槍の間合いこそ長いが柄にさほどの殺傷能力はない。
 ドーラは驚きもせず、刃と反対側の先端、石突で俺を殴り倒そうとしてくる。それを魔術障壁で防ぎ、勢いを殺さず、槍を持つ腕を狙う。だが、魔術障壁によって停止させた石突の先端から刃が生え、俺を貫こうとした。
 咄嗟に避け、間合いを取る。
 どうやら、槍の先端に何らかの魔術を付与したようだ。


 あれは……金属か?


 金属特有の光沢を持ち、周囲の明かりを反射する。


「あれは形状変化の魔術よ。見た感じからして、手にした金属の形状を自由に造形できるって言った所かしら」


 クララの注釈がありがたい。この世界の魔術の種類なんて見ただけじゃ俺には分からないからな。


 無駄口を叩かず、互いに武器を構えなおし、ドーラの槍は元の形状に戻る。
 一息入れ、再びこちらから踏み込む。今度は奇襲にも注意をしながらだ。


 ドーラは俺のスピードに難なく反応し、槍を振って俺を遠ざけようとする。
 さっき、俺が懐に入れたのは招かれたというわけか。
 ドーラの槍をカオスで受け止める。さっきの形状変化が魔術というなら、カオスで受け止めれば問題はない。
 顔を顰めたドーラは俺に蹴りを放ち、それをバックステップで躱す。


「その力、魔王に似た力……吸魔の力か」


「まぁ近いものですよ」


「……カズキ、あんたの素性はこっちでも少しは調べさせてもらった。出身国をニホンと謳い、見知らぬ物品を持ち込むと。一時期はあんたを魔人じゃないかと疑う者まで居た。それも、あの悦楽の王を倒す事で疑いのほとんどが払拭された。だが、その力は何だ? ただの人間の力じゃあるまい?」


 面倒な所に突っ込まれた。仕方ない適当に誤魔化そう。


「まぁそうですね。この吸魔の力は俺の力って言うより、この魔剣の力のおかげです。この剣に触れた物全てから魔力を奪うって代物で、魔力を持たない私だけが使えます。私の事を調べたのであれば、私が自力で魔術も使えない人間ということはご存知でしょう?」


「確かに、どのような魔術を使うのであれ魔石を必要とするとは聞いていた……なるほど。一度は魔王に敗れ、再び魔王に挑み、勝利を掴んだ経緯にはその魔剣が大きくかかわっているようだな」


「そういうことです」


「では、その魔剣はどこで手に入れた?」


「この城でですよ。幻覚を見せる魔術が施されたらしい扉の先にありました。私の場合、魔力を持たないため幻覚そのものを見てはいませんが」


「この城にか……」


「ええ」


 俺の言った事の全ては事実だ。ただ、肝心の魔剣の正体について言っていないだけ。この世界における魔剣の定義とは魔宝石を装着した剣。ただそれだけだ。そして、魔神カオスの魔宝石を装着した剣もまた魔剣の定義に外れない。


「では、その魔剣の力も存分に振るうといい」


 初めてドーラから攻め入ってきた。それも鋭い連撃の嵐。一突き一突きが急所、あるいは戦闘不能にいたる箇所ばかりを狙う。かと思えば、フェイント交じりで仕掛けてきやがる。その全てを弾くつもりで動く。フェイントに引っかかってできた隙は魔術障壁や土壁、水壁で対処、隙を見ては空魔術で反撃する。だが、ドーラはそれも僅かな動作で避けて見せ猛攻の手を緩めない。
 どうにかカオスで魔力を吸い、弱体化させようとするが鍔迫り合いにすら持ち込ませてもらえない。とにかく攻撃の回転数が早すぎる。
 可能な限りカオスで防ぎ、僅かずつ魔力を奪うが終わりが見えない。


「カズキ、気が弱まれば貴様に従う魔力も減る。気弱になるな」


「ああ、分かってるよ!!」


 カオスの叱咤で気を引き締める。とにかく勝ちに行くんだ。
 ドーラの強みはその手数の多さ。そして、勘の良さだ。実の所、一発一発の重みはそこまで重くはない。俺の力が強いという事もあるが、ドーラは突きを主体としている。急所を狙うのであれば、それでいいだろうが軽い。逆に遠心力を乗せた大振りな薙ぎ払いは重さこそあるものの防ぎやすい。


「カオス、形状変化だ」


「どの形状だ」


「鎖鎌だ」


 鍔迫り合いにさせてもらえないなら、武器を絡めとればいい。そうすれば、否が応でも吸魔の力が働く。突きが主体だというのであれば、その間合いは最長だ。その間合いの外から攻撃するには遠距離武器以外にない。弓矢を操る技術がない以上、投擲武器に頼るしかない。そこで遠距離攻撃ができ、武器を絡みとれる代表武器として鎖鎌が上がる。
 そして、カオスの形状変化は衆目に晒されていない。形状変化はあくまでレオ戦で使った苦肉の策だ。中継されたのは魔王戦のみ。
 だが、ドーラはカオスの刀身が揺らめくのを見逃さない。
 先ほどの猛攻が更に増し、連撃が放たれる。
 もはや距離を詰める意味はなく、バックステップで距離を取りつつ、攻撃を躱す。


「完了だ」


 左手に鎌、右手に鎖分銅を手にし、分銅をドーラに投擲する。だが、単純な軌道は容易に読まれ躱される。
 そこで力の限り鎖を引っ張り、無理矢理軌道を変え、ドーラを追尾させる。
 ドーラは不安定な態勢で分銅を槍で弾いた、かのように見えた。


「カオス」


 分銅は通常ならばあり得ない軌跡を描いて槍に絡み、ドーラは咄嗟に槍を手放した。

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