異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第30節

 クロと途中で別れ、この雑居ビル内にもIGを仕掛ける。これで通勤時間0分を実現できる。素晴らしい。まさにどこでもドアである。
 そのまま異世界に渡り、屋敷の連中らと話をする。


 アイリスは俺が居ない間はすることが特になく、ハリソンやフラン目的でやってくるロイスに魔術を教わっているらしい。


 ハリソンは俺が貴族となった時のために色々と動いてくれているみたいだ。話を聞けば、魔王を倒した英雄という事で表立った反発こそないものの、異国の人間が土地持ちの貴族となる事に面白く思っていない人間もいる。そういった連中らにオルコット商会を通じ、現代アイテムを贈り物として渡しているらしい。まだ反応こそないが、好感度は稼げているみたいだ。


 ロージーの方は俺の指示通り不足しがちな商品リストを作ってくれている。また、空いた時間を使って街に出ては目利きも兼ねて掘り出し物を探しに行っているらしい。ハリソン曰く、一つの趣味らしい。


 アンバーとジェイドは相変わらずいつも通りに屋敷の家事を一手に引き受けている。あの騒動が起こってからそれなりに時間が経つが、休みもなく働きづめなのもどうかと思い一日だけ暇を出そうかと提案してみると、二人とも喜んでくれた。特にジェイドの方はレオの事が気になっていたらしく見舞いに行くと言っていたので、俺の国の文化だと教えて果物を持たせてやった。するとアンバーが拗ねたので、同じだけの果物をアンバーにもあげた。すると気をよくしてジェイドと分け合って食べていた。とても微笑ましい。


 フランは戦争に参加していた冒険者達の慰労や亡くなった者達の追悼をしていたらしい。俺の屋敷の連中の中でも最も長くサニングで暮らしていただけに繋がりも多かったフランは色々と思う所があるらしい。気が付けば一人で鍛錬をしているとアイリスから聞いている。


 あの戦争の中で一番影響を受けているのはフランだったようだ。


「フラン、ちょっといいか?」


 夜。夕食も終わり、団欒の後、フランの私室に訪れた。


「ああ、大丈夫だ」


 扉を開き、中に入る。剣の手入れをしていたようで部屋の中で剣を抜いていた。


「随分と根を詰めていたみたいだな」


「アタイは元々冒険者ですからね。暇さえあれば体を鍛えるのが普通ですよ」


「俺も少しはフランを見習わないとな」


 フランは俺が見ていない所でも鍛錬を欠かしていなかった。だからこそ、あれ程にまで強いのだろう。


「主は十分に強いですよ」


「いや、俺はまだまだだよ」


 こっちの世界では救国の英雄と言われているが、実際の所はカオスがいたから勝てたんだ。俺一人の実力じゃない。俺一人の実力だけを見れば、未だにフランにも劣る。


「アタイは戦いしか生きる術がないんです。なのに、主のためにと魔王に挑み、負け、囚われ、主に救われた。アタイは主を誇らしく思いましたけど、同時に悔しくもありましたよ。主より弱くてアタイに何ができるんだって」


「…………」


「すみません。少し愚痴っぽくなっちゃいましたね」


「いや……フランがそう考えていたんだと驚いてな」


「アタイは元々負けず嫌いですよ。だから、あの魔王にリベンジできるならリベンジしてやりたい。でも、今のアタイじゃ勝てないってのも分かってるんですけどね……」


 魔王という存在は本当に理不尽な存在だ。あらゆる物理的攻撃を仕掛けても防がれ、あらゆる魔術を吸収し、人間の感情すら操って見せる。フランのように才に恵まれ、努力を惜しまない人間だとしてもだ。逆に俺のような才も努力もしていない人間がただカオスを扱う適性があるというだけで魔王を倒した。運も実力の内とはとてもじゃないが、フランの前では言えない。


「……アタイはもっと強くなりたい。自分の主を守れるぐらい……」


 それはとても切実な願いだった。
 時計を見て時間を確認する。訪問するには非常識な時間だが、ここでフランを放っておくことはできない。


「フラン、俺に付いてこい」

「異能力で異世界充実 ―非現実の扉―」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く