異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第28節

 俺はクロの後に続く。シャワー室前に俺達に割り当てられた部屋に着替えを取りに来たからだ。部屋の中には誰もおらず、俺とクロだけだ。


「ニーサンさん、お待たせしました」


 着替えを手にしたクロが出てくる。


「ああ、うん」


 なんかニーサンさんって言い辛そう。というか、ニーサンまでが俺の愛称で敬称を付けるとニーサンさんになるんだな。


「クロちゃんもニーサンって呼んでいいから。他の人達もそう呼んでるし」


「そう、ですか」


「うん。それにしても、さっきの実戦訓練凄かったね。クロちゃんの能力があそこまで強いとは思わなかったよ」


 実際、俺達の面子の中であれだけ遠距離攻撃を巧みに扱えるのはクロだけの気がする。他の面子は全員が近接寄りだ。たぶん、ブラッドと猫はその気になれば遠距離戦もでるんだろうけど、専任ってわけじゃないようだし。


「いえ。私なんかよりも猫さんの方がずっと……」


「まぁ猫は自分でも言ってたけど、任務経験があるみたいだしね。それに言っちゃあなんだけど、あいつの能力は一種のチートだし」


 コピー能力とか最強の一角だ。制限もあるし、コピーしても使えない能力があるみたいだけど、それでも汎用性は高い。なにせ能力同士を組み合わせられるんだから。


「それに私より後から来たククも凄く期待されてる。ブラッドさんやファットさんもククに期待してるみたいだし」


 話してみて分かったけど、クロは自分を過小評価している。言ってしまえば自分を卑下している。


「俺もククの能力をきちんと見るのは今日が初めてだったけど、確かにアレは凄いね。あのゴリファントの攻撃は俺でも全部躱せたかどうかわかんないし、生半可な剣戟じゃ通用しないだろうし」


 ああいう手合いは冷気や熱気、そういった絡め手でやらないと面倒くさそうだ。


「でもさ、あのゴリファント相手でもクロちゃんの能力は十分通用すると思うよ」


「そう、ですか?」


「うん。クロちゃんの能力の全容を知ってるわけじゃないけど、コンクリートに穴をあける程の威力があればゴリファントだって倒せるよ」


「そうでしょうか……」


「ブラッドさんも言ってたけど、やっぱり能力に慣れるのが重要みたいだしね。ククと違ってクロちゃんの場合は能力を使う回数に制限があるわけじゃないから、クロちゃんさえやる気があれば訓練だっていくらでもできるわけだし」


「訓練ですか?」


 少しだけ驚いた表情を見せる。


「うん。勉強や運動と同じ。結局、能力は能力であって勉強で暗記が得意だったり、運動で足が速いってのも能力だし、そういうものをどうやって使うか、何に使うかって事じゃないかな。訓練って要は練習のことでしょう? テスト勉強したり、ランニングしたりするのと同じだよ」


「ニーサンにとって能力は勉強や運動と変わらないってことですか?」


「俺だって能力に初めて気が付いた時は自分が特別な能力を持ってるんだって思ったけどさ、アマテラスに入ってから少し考えが変わったよ。俺以外にも能力者はいっぱいいるし、能力に強弱もあって向き不向きもある。そこまで知ったら自分は特別な人間じゃなくて、ちょっとだけ恵まれた人間って思う方が妥当な気がするからさ」


「そういう考え方もあるんですね」


「まぁ参考になるなら参考にして。実際、勉強や運動みたいなもんだとは思うけど、ブラッドさんの言う通り能力の暴走ってのがあるから、安易に同列に考えるってのも安直だとは自分でも思ってるから」


「…………」


「もし、訓練の相手が欲しい時は俺に声をかけてよ。大抵の傷なら自分で治癒できるし、誰かを想定した戦い方もある程度なら模倣できると思う」


 紅蓮やブラッド、猫、ファットの模倣ぐらいならすぐにできるだろう。ククの能力を模倣するには少し頭をひねる必要があるが、時間さえあれば再現はできると思う。


「そこまでしていただかなくても」


「俺もアマテラスに入ってこうやってチームを組んだんだから、新人として役に立ちたいだけだよ。クロちゃん先輩」


「その呼び方はちょっと……」


 わりとマジで嫌そうな顔を向けてくる。


「冗談だって。まぁ気が向いたら声掛けてよ。ああ、一応連絡先を教えておこうか。いざ連絡取りたいときに連絡取れないと不便だろうし」


「えーっと、いいんですか? 私と連絡先を交換して」


「なんかマズい?」


「その……猫さんに悪いかなって」


「なんで猫に?」


「え? いえ……あの……ニーサンと猫さんって……その……」


 ああ、そういう目で見られてるわけか。


「いや、俺と猫は今はそういう仲じゃないから」


「今は?」


「あ、いや。言葉の綾だから今の。気にしないで」


「……あ、すみません」


 女子高生に謝られられた。泣きたくなる。


「謝らなくて大丈夫だから。まぁそういうことだから、気兼ねしないで」


「……はい」


 俺はクロと連絡先を交換する。表示名は愛称の通り『クロ』だ。


「いつでもメッセ飛ばしてきて」


「ありがとうございます」

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