異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第27節

「2回?」


「いや、気にすんな。ちょっと見栄を張っただけだから」


「……もしかして、ニーサンがあの時倒れたのって……」


「いや、その話はいいからさ。もうそろそろ二人の試合も終わるみたいだし」


 俺はゴリファントとファットの戦いを指さす。
 ファットはもう何十発と蹴りをゴリファントの膝裏に入れ、ゴリファントの動きは目に見えて遅くなっている。
 ファットの戦い方は速度こそ人間の域を脱しているが、戦い方そのものは人間のそれだ。俺みたいに魔術を使うでもなく、ブラッドやクロみたいに体の一部を操っての攻撃というわけでもない。近接格闘のみだ。


「あと30秒だ」


 ブラッドはタイマーを見ながら宣言する。
 未だにゴリファントの攻撃はファットに一発も当たっていない。俺なら、たぶん数発は貰っているだろう。
 ファットは躱し方が洗練され、サイドステップからのハイキックがパターン化されている。ゴリファントも学ぶ能はあるようだが、ファットの攻撃が早すぎ、ガードが間に合っていない。
 そしてとうとうゴリファントが膝を地に付いた。
 立ち上がろうとするも片足に力が入らずふら付いている。だが、そこはゴリファント。人間と違い、骨格的には四足歩行も可能だ。
 かと思いきや、ゴリファントの右腕の様子がおかしい。もともと太い腕だったが、肘裏の部分が異様に腫れている。


「クララ、ゴリファントの腕が腫れてるけど、あれもファットがやったのか?」


「ええ。攻撃を躱しながら貫き手でカウンターを合わせていたわ。そのせいであのゴリファントって魔獣も途中から右腕は使えなくなっていたわ」


 ってことはファットはゴリファントが一発の攻撃を入れる度に右腕と左脚を潰す攻撃をしていたってことか。
 ゴリファントは右脚と左腕のみで移動を試みるが、攻撃には転じることはできない。事実上の戦闘不能だ。


「勝者、ファットさん」


 宣言と共にゴリファントの体は崩れ、一切の痕跡を残さなかった。文字通り、血の一滴、毛の一本も残っていない。


「悪くはねぇ戦いだった。ファットさんの攻撃にあれだけ耐えられるなら耐久力には文句はねえ。攻撃力に関してもこの惨状だからな。十分だろう。あとはもう少し合成獣の知能を上げることだな。攻撃が単調で簡単に見切られてたぞ。地形を利用したり、攻撃のパターンを変えたり、フェイントを入れたり、まだまだ伸びしろはあるんだ。お前自身に戦えとは俺も言わねぇが、戦いのカンぐらいはお前が持ってないと合成獣の成長はねぇぞ」


「はい!」


「それじゃあお前はモニタールームでさっきの戦いをもう一回見直せ。ゴリファントの動きで改善できる部分があれば洗い出してこい」


「分かりました!」


 ククはタッタとエレベーターに向かった。


「ファットさんもお疲れさまでした」


「いやー、いい汗かいたよ。三日分ぐらいの脂肪を燃焼したかも」


「どうでしたか? ククの合成獣」


「うん、前より強くなってたね。特に耐久力。前に訓練した時もゴリファントだったけど、あの時は一分と少ししか持たなかったから、それから比べると確実に成長してる」


「もしかしたらククのやつ、本当にネームドになれるんじゃないんですかね」


「どうだろう。まだ実績がないから、ネームドとまではいかないだろうけどブラッド君の推薦があれば昇格もあると思うよ」


「俺にそのつもりはないですよ」


 ブラッドとファットがククについていろいろと話している。


「猫、ククって一目置かれてるのか?」


「この県内で言えば期待のホープだよ。珍しい能力だし、ククが本気になれば合成獣の軍団だって作れるんだから」


「へぇー」


「それでもククはまだ任務経験がないからね。実戦の実力って意味ではまだ未知。この中で任務経験があるのは前にも言ったかもしれないけど、ブラッドさん、ファットさん、それから私。クロちゃんとククはまだ教育訓練中だし、ニーサンもそう。まぁニーサンの場合は任務経験はないのに戦闘経験があるみたいだけどね」


「アハハハ……」


 愛想笑いで誤魔化す。


「さてと、今日の訓練はこれで終わりだ。これで解散するが、猫。お前に少し話があるからちょっと来い。それとクロ、シャワー室使うならニーサンに場所を教えてやってくれ」


 そういってブラッドは猫を連れて地下室を出る。そのあとにファットも続いた。


「えーっと……」


「……シャワー室はこっち」


「あ、うん」


 俺はクロの後に付いていく。

「異能力で異世界充実 ―非現実の扉―」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く