異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第26節

 ゴリファントが争った形跡はコンクリートのひび割れとして現れる。
 振り下ろされた拳で床はモザイクアートのように断片化し、突き出された拳で柱は細くなっていた。
 それでもファットは無傷だ。見た目で分かるほど細くなってもいない。このまま数分、数十分と戦っても問題なさそうにも見える。


「そんな頃から能力者っていたのか」


「遡れば、第二次世界大戦の頃には既に能力者は存在していたらしいわ。私が知っている限りの範囲だけれど」


「六十年以上も昔か」


「それは置いておいて。オリンピックともなれば海外からたくさんの外国人が入ってくるよね? その中には能力者もいたの。その当時、バブル景気が崩壊して日本の経済はガタガタ。そんな弱った日本を付け狙ったのが、当時世界中で暗躍していた組織。秩序の死神アポトーシス


「アポトーシス?」


「ニーサンは工学だから生物の授業は受けてないんだっけ。アポトーシスは生物用語で細胞が死んでは再生することで常に健全な状態を保つ仕組みの事」


「ってことは自分達は正しいことをしているって勘違いしてる連中の集まりなのか?」


「身も蓋もない言い方だけど、そういうこと。その当時はコードナンバーが3000まで発行されていて、二千人以上の能力者達がアマテラスに所属していたの」


 3000番までコードナンバーがあって、二千人しか居ないってことは残りは死んだってことか。


「今は何人ぐらいいるんだ?」


「四千人ぐらい」


「え……」


 思わず声が漏れた。
 俺のコードナンバーが10032だ。コードナンバー3000が発行された当時にアマテラスは二千人の規模で、コードナンバーはそこから7000番分も発行されている。なのに能力者の人数は二千人しか増えていない。


「…………」


「分かるでしょう? こうやって実戦訓練をするのだって自分の身を守るため。それだけ私達能力者の世界って厳しいの」


「馬鹿野郎、なんでそんな……」


 そんな危険な所に……。


「ニーサン。今年の最大のイベント、覚えてる?」


 今年は2020年だ。


「……まさか」


「そう。先月、何があったか」


「東京オリンピック……」


「そうよ。そして、オリンピックが終わった今、どれだけの外国人が国内に滞在しているか分かるかしら?」


「いや、でもさ。もうあれから一ヵ月が経ってるんだぜ? それならほとんどが自国に帰ったんじゃ――」


「観光ビザで滞在できる日数は最長で三か月。まだ・・一ヵ月しか経ってないの」


「それじゃあ……」


「アポトーシスはまた国内にいる可能性が高いわ」


「アオトーシスって22年前に日本に入ってきてアマテラスと戦ったんだろ? で、またアポトーシスがやってくるのかよ」


「私も詳しくは知らないけど、戦いの結果としてアポトーシスは日本から逃げたって聞いてるわ。その当時のアマテラスにいた能力者の三分の二を犠牲にして」


「…………」


「アポトーシスだけじゃない。能力を


「ニーサン。この世界に連れ込んだ私が言うのもおかしいけど、死なないでね」


 死なないでね。
 まさかこっちの世界で知り合いに言われるとは思わなかった。


「バカ。俺が死ぬわけないだろ」


 自分の褐色の腕をまじまじと見る。


「俺は二回、死の淵から蘇ってるんだから」

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