異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第25節

 実戦訓練第二試合はクク対ファット。
 初めからファットが勝つ事は予想できるが、あくまでこれは訓練。どれだけ自分の能力を使いこなせるかという点が重要だ。
 ククはベルトポーチから三つの弾丸を取り出す。どれも赤いため、何の動物の血液かは分からない。
 ククはそれらを合成銃に込め、空中に撃ちだすと銃口から赤い粘液が射出され、みるみるうちに動物の形を成していく。それは象のように巨大でゴリラのような四肢を持ち、分厚い皮膚に黒い毛を纏い、大きな耳と鼻と牙を持ち、細長い可愛いしっぽを持っていた。


「合成獣ゴリファント。ボクが知ってる中でも最強クラスの合成獣だよ」


 確かにコイツは強そうだ。異世界で見た魔獣以上に魔獣っぽい。
 象の脚がそのまま腕になったかのような太さで手もそれに比例して大きく、人間の胴をそのまま鷲掴みできるほどだ。


「クク、そいつでいいんだな?」


「うん。ファットさん相手に出し惜しみはできないもん」


「ファットさんもいいか?」


「ああ、いつでも」


 ファットは黄色を基調とし、黒く太い縦のラインが両サイドに入ったジャージを着ている。あれがファットの戦闘服らしい。


「じゃあ、始めるぞ。制限時間は三分。よーい、スタート」


 ブラッドの適当な合図でゴリファントはファットに突っ込んだ。その巨躯は一歩一歩走る度に地鳴りを起こした。
 俺の記憶する限り、象は全高で五メートル以上、体重にして数トンを超える。あのゴリファントのサイズはまさしく象と変わらない。要はトラックがぶつかるようなものだ。
 ファットも身体強化の能力者とはいえ、純粋な力自慢はできない。身体強化と加重の魔術を使える俺でもあの質量体を相手に力自慢をしようとは思わない。


 というかオイ! あのゴリファント速すぎねぇか!?


 ゴリファントは一歩一歩加速する中で異常な速度を出して見せた。巨躯だからこそ見逃す事はないが、恐ろしく速い。
 ファットはそれを避けて見せるが、対人戦のように見切って躱すというよりも突っ込んできた車を躱すといった感じだ。
 ファットは素早く反転し、鋭い突きをゴリファントの足に叩き込む。だが、ゴリファントにあまり効いた様子はない。
 攻撃されたゴリファントは尻尾でファットを振り払おうとし、ファットは一撃離脱の形となる。


「やっぱり、ククの合成獣に対して近接戦闘は不利だよね」


 そう呟く猫。


「やっぱり?」


「うん。自然の動物ってやっぱり生き残るために色んな進化してるけど、その中でもククのゴリファントは格別だよ」


「なんでさ?」


「単純に強いからね。重いし速いし強いし硬いし。拳銃を持った人間と象が戦ったとして、どっちが勝つと思う?」


 そう言われてみると難しい。象のあの巨躯に対して、たかだか数センチの銃創はあまり有効ではない気がする。逆に象の攻撃は人間にとって防げるようなもんじゃない。


「純粋な動物ってだけでも難しいのに、それを合成獣として生み出すんだから凄く強いよ。それにククの血も入っているから、ただの獣よりもずっと賢いの」


「ああ、そういやククの命令は従ってたし、知能はあるんだよな」


「うん。戦いだけじゃなくて、例えば小動物を操って偵察とかもできるんだよ」


「偵察か」


「一応、ククの能力にも条件があって、今の所分かってる事としては赤い血を持つ動物しか操れないってこと。だから、虫とかは操れないし、タコみたいな軟体動物も操れないの」


「でも、赤い血って条件だけならめちゃくちゃ種類が多いよな」


「うん。だから、動物の種類の組み合わせの数だけ合成獣の種類があるから、かなり強い能力なんだ」


 猫の話を聞きながらも観戦は欠かさない。
 今の所、ゴリファントの攻撃は一撃もファットに当たっていないが、ファットの攻撃もゴリファントに効いている様子はない。互いに有効だがないまま数秒、数十秒と経過する。
 だが、この状態はファットの言い方を借りるなら能力を使わされている状態とも言える。ククは自分の血液というリソースは払っているため、試合中に何かを消耗するという事はない。それに対し、ファットは能力を使い度、速度を上げる度に脂肪を代償とする。


「ファットさんの体重とか体脂肪率って知ってるか?」


「100kgはキープするようにしてるって言ってたよ。体脂肪率も30%を維持してるって」


 変な方向で体重管理してるんだな。いや、能力者としては間違っちゃいないんだろうが……。


「ファットさん、あの調子で能力使い続けても大丈夫なのかな?」


「大丈夫だと思うよ。能力の副次効果で急激な体重の変化にも耐性があるみたいだし」


「やっぱり、脂肪を代償にするのって負荷がかかるのか?」


「そうだね。私もファットさんの能力を借りて戦ったけど、凄く疲れるし使いすぎると本当に気分が悪くなるの」


 そういや、猫は能力の副次効果ってのまではコピーできないんだっけか。


「それでも、耐性があるだけで完全に無視はできないの。大体、体脂肪率が10%を切るとファットさんも体調の変化が出てくるって言ってたし」


 ファットはゴリファントの攻撃を躱しつつ、足に攻撃を加える。今度は突きではなくハイキックだ。それもゴリファントの膝裏を狙い、それを繰り返している。


「ファットさんの能力ってすごく強いけれど、とっても危ない能力でもあるの」


「危ない?」


「ファットさんの能力は脂肪を代償に加速する能力なの。減速は自分でどうにかしないといけない。だから、止まる時って凄く体に負担がかかるの」


「ああ……」


 全力疾走した時に止まるのが難しいアレだ。俺も身体強化をした上で加減速をしているからあまり自覚はないが、普通にしていれば体に負担がかかるのは当然だ。


「ファットさんと同じ能力を使ってるから分かるけど、私の力だとファットさんみたいな速度は出せない。私がファットさんと同じレベルで能力を使おうとすると絶対に自爆するもの」


 ブラッドの言い方を借りれば能力の暴走の一種かもしれない。


「ファットさんって2000番台のコードナンバー持ちだったよな?」


「うん」


「やっぱり、ナンバーが古い程強いのか?」


「そうね。今、アマテラスの中で生き残ってる能力者でコードナンバーが3000より下の人達は間違いなく強いわ。少なくともこの場にいる全員がファットさんに挑んでも勝てないってことだけは分かるわ」


 猫の言葉を少しだけ想像してみた。ファットの本気がどこまで強いのか分からないが、想像するに魔王級だ。
 にしても3000より下という猫の言葉に引っかかる。


「3000って線引きがあるってことはその頃に何かあったのか?」


「ええ、今から22年前よ。私達がまだ小学校にも行っていない頃、まだファットさんがアマテラスに入ったばかりの頃に国外から能力者達が大量に入り込んだの」


「22年前?」


「ええ。日本で冬季オリンピックがあった年よ」

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