異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第24節

 クロの能力の強さを見せつけられた気がした。
 伸縮自在に動き、鋼鉄のワイヤー以上の強度を持ち、束ねればコンクリートすら穿つほどの威力を持つ。また、髪の毛の本数だけ攻撃もでき、隙が無い。
 猫もその速さを活かし、クロの攻撃から逃れて反撃をしようとコンクリ砲弾を投げるが、クロの能力は攻防一体。網状に織った髪を二層三層とすることで破片の一つすらクロには届かない。


「ファットさん、猫の能力で紅蓮さんの力とか使えないんですか? それならあの髪を凍結させて動きを封じれそうなんですけど」


「猫さんの能力にもいくつか制限があるんですよ。ニーサンの言う通り、紅蓮さんの能力ならクロさんの能力も封じれるかもしれません。ですが、猫さんには使えないんです。いや、正確には使うにはリスクが伴います」


「なんでですか?」


「紅蓮さんの能力は冷気を操る能力ですが、副次的に身体が冷気に対し耐性を持ちます。これはブラッド君の白い髪やニーサンの腕のように能力による身体変化の一種ですね。猫さんも冷気を操る事はきっと可能なのでしょう。ですが、冷気に対する耐性を持ちません。例えば紅蓮さんが触れた物を凍結する能力を発揮したとしても自身の手は凍傷にはならないですが、猫さんは凍傷になります。また、ブラッド君やクロさんのような身体操作系の能力も使えません。使えるのは僕のような代償系スキルや水を操る自然操作系のような能力です」


「万能ってわけじゃないんですね」


「それでも優秀な能力です。条件さえ満たせばきっとニーサンの『創作具現化』も使えるでしょう」


「それは心強いですね」


 まぁ魔術に関しては俺の専売特許なんだけどな。
 でも、話を聞く限り俺の本当の能力の『非現実の扉』はコピー可能な気がする。
 あっちの世界は俺の世界だ。誰にも知られてはいけない。猫には絶対だ。


 クロの攻撃に対し、猫は躱し続ける。


「二分経過。あと一分だ。最後まで自分の能力を使えよ」


 ブラッドが時間を告げる。まだ二分しかたっていないのかというのが俺の正直な感想だ。


 幾条もの髪の槍が猫に目掛け放たれ、それを猫が躱し、コンクリを投げるといった状況再現が幾度となく繰り返される。


「あら、あの猫ちゃん。何か狙ってるわね」


 クララが何かに気が付いたようだ。


「分かるのか?」


「あのブラッドって子が時間を告げたところで動きが微妙に変わったわ。何を狙っているか分からないけど、防御のための回避から攻撃のための回避、言ってしまえばリスクのある躱し方に変わったわ」


「俺には分からないな」


 でも、クララが言うならそうなんだろう。


「例えば今の回避、後ろに下がれば簡単な所をあえて前に出て躱してる。ついさっきなら、あそこは後ろに下がっていたもの」


 クララの記憶力と洞察力は本当にずば抜けている。もしクララが戦闘向きの魔人だったら、あの悦楽の王の部下の中で一番恐ろしい存在になっていたかもしれない。


 猫は前に出つつ、クロを中心として時計回りに動く。
 距離を詰める程に攻撃の頻度はますます増え、猫は反撃する暇もなく回避に専念しているように見える。それでも僅かながら前進する。
 だが、あまりの手数の多さに猫も回避に限界が来たのか、何発か掠っている。そのせいで裾や袖が破れ、少しずつ肌も露出していく。それでも出血していないのは凄い。
 猫はそこから更にもう一歩踏み出し、クロはそれを迎撃する。
 一発。
 鞭のような動きをした一本が猫の胴体にヒットする。猫は衝撃を殺すために自ら飛んだのか、派手に床に転がり、コンクリの柱にぶつかる。
 たった一発で再び距離が開いた。


「あと三十秒だ」


 ブラッドの掛け声に呼応してクロが猫に追撃をかけた。と思った瞬間、クロの体がふわっと浮き上がった。
 何の能力だと思ったが、よくよく見るとクロの胴に何かが巻き付いていた。それは水でできたロープのようなものだ。その出所は猫が転がった先のコンクリの柱の裏だ。


「やるじゃねぇか」


 ブラッドも感心した声を上げる。
 クロは自身を捕縛する水のロープを外そうと髪で切り落とそうとするが、ただすり抜けるだけでロープを外すことはできない。


「ニーサン。今の攻撃、分かったかな?」


「えーっと、あのクロちゃんに巻き付いているあれが猫の能力ってのは分かったんですけど」


 俺は何が起こったのか分からない。まるで手品を見せられて、どうしてそうなったのか理解できないあの状態に似ている。


「まぁ一種の駆け引きだね。クロちゃんは攻撃をして猫さんを追い詰めた。猫さんはクロちゃんに攻撃をさせて隙を作った」


「隙って言ってもあれだけの手数ですよ?」


「まぁ使ってる本人が一番分かってるんだろうけど、髪を伸ばすってことは自分から死界を作るってことだからね。ボクサーがパンチを打つと腕が邪魔になって死界を作るのと同じ話だよ」


「…………」


 俺が思った以上にきちんとした駆け引きがあったようだ。


「今回の戦いはクロさんは十分に頑張ったと思うよ。猫さんに当てた一撃もちゃんと手加減されてたからね。手加減を間違えてたら、上半身と下半身が真っ二つになってたよ」


「いや、あれは猫も上手くやったぜ。あいつ、服の下に水の鎧を着てやがった。だから大した怪我にならなかったってところだ。クロが少しは手加減できてたのは認めるが、それでも猫がガードしてなけりゃ深い傷になってたと思うぜ」


 そしてタイマーが終了を告げた。


「よし、二人とも終わりだ。思ったより良く戦えてたぜ。猫は戦いの駆け引きが前より上手くなってるな。それに能力を組み合わせた攻撃も良かった」


「ありがとうございます」


「怪我が痛むなら上で休んでろ。大丈夫ならこのままお前も見学だ」


「はーい」


「次にクロ、お前は最初の動きは悪いが、後半は悪くなかった。前よりは攻撃手段も増えたし、手加減も出来るようになったからな。もう少し戦いに慣れればお前もネームドになれる見込みがある。頑張れよ」


「……はい」


「それじゃあ次はファットさんとククだ。こっちも同じく三分だ。クク、準備はいいか?」


「うん」


 

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