異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第23節

 地下室に俺達六人が集まる。


「それじゃ、お前らの実戦訓練を始める。組み合わせは猫とクロ、ククとファットさんだ」


「えー! ボク、ファットさんとやるんですか!?」


「大丈夫ですよ。クク君。きちんと手加減しますから」


「それとも俺とやるか?」


「い、いえ。ファットさんと実戦訓練嬉しいなー。やったー」


 ククが抑揚のない声を上げる。


「ニーサン、お前は見学だ。他の能力者同士の戦いってやつを見るのに良い機会だろ」


「分かりました」


「それじゃあ、まずは猫とクロだ。一応、医療チームは待機させてあるから治療できるが、瀕死な怪我をさせるなよ。時間はとりあえず三分だ。俺の携帯をタイマー代わりにするから聞き逃すなよ」


 そういってブラッドは自分の携帯を扱いタイマーをセットした。
 猫とクロは互いに相対する。だが、見知った者同士で訓練とはいえ戦うのは抵抗があるのだろう。特にクロは戸惑いを隠せないようでいる。


「それじゃあ、はじめ」


 それでもブラッドの訓練開始の合図が出る。
 初めに動いたのは猫だった。
 俺やブラッドに匹敵する速度でクロに迫り、いつの間にか手に持ったナイフをクロに振るった。しかし、ナイフを振るったクロはそのナイフを急に止めて距離を取った。


「クララ、今何があったんだ?」


「あの猫ちゃん、あのファットって人と同じ能力を使ったみたいね。それにあのナイフはたぶん、大気中の水分を集めて造形したようね。水の魔術に似た動きを見せたもの。それで、あのクロちゃんが数本の髪を束ねた物をナイフ、一本だけを猫ちゃんの腕のそれぞれ軌道上に立てたの。それに気が付いた猫ちゃんが急に距離を置いたの」


「そうなのか」


 言われてみれば確かに数本の髪を束ねた線のようなものが地面から垂直に立っているのが見える。だが、一本だけの髪は見えない。さすがに少し離れると簡単には見えないみたいだ。


「というか、クララは目がいいんだな」


「目だけでは見てないわ。そもそも目がないのだから」


「それもそうだった」


 猫はもう一度距離を詰めようとはせず、その場で地面を抉った。まるで土を掴むように。


「ファットさん、猫のあれって何ですか?」


「あれはたぶん、触れた物を柔らかくする能力だね。こんなコンクリの床でも粘土のように扱うことができるんだ」


 猫はコンクリを手の平で転がし、球体にする。それを何の力なのか小さく圧縮した。


「なんか猫が持ってるコンクリ、小さくなってません?」


「あれは物を大きくしたり小さくしたりする力ですね。自分が持てる物は体積にして八倍から八分の一の範囲で自由に設定できて持っている間から、手放してから約十秒間だけ持続する能力」


「ちなみに重さは?」


「もちろん体積に比例するよ」


 猫は手に持ったコンクリの塊をクロに目掛けて全力投球する。指先を離れる瞬間、コンクリの塊は急速に大きくなり、ゴルフボール程の大きさからドッジボール程の大きさに変わった。
 恐ろしく速い投球。戦闘慣れする前の俺なら視認することすらできなかっただろう。おそらく、ファットの力と併用してるんだろう。
 クロはそれを躱すことなく伸ばした髪で受け止める。薄い鉄板ならば貫通しそうな威力だが、髪は痛むどころかツヤすら失っていない。


「やはり、クロさんの力は強いですね」


「ファットさん、クロちゃんの髪って能力を使うとどれぐらい強くなるんですか?」


「確か、ニーサンは工大生でしたよね?」


「そうですけど」


「なら、炭素繊維は知っていますよね?」


「ああ、炭素繊維ですか。鉄の十倍ぐらいの強度があるっていう……え、もしかして」


 炭素繊維、またはカーボンファイバーとも言われる材料は確かにある。


「そうです。単純に言ってしまえば、クロさんの髪の一本一本がそれに匹敵するだけの能力があります。生半可な攻撃は一切通用しません。その上、物質的特性もある程度制御ができます」


「例えば?」


「ゴムのような弾性を持たせることも」


「便利そうですね」


「ええ。ブラッドさんと同じように身体操作系の能力者は色々と応用できる幅が広いですから」


 猫は近接では身体強化と水ナイフ、遠距離ではコンクリ砲弾と遠近両用で戦えるようだ。それに比べ、クロの方は防戦一方だ。というより、攻撃を仕掛ける素振りすらない。


「コラァァァ! クロ! 攻撃しろ! お前、攻撃できるタイミングすらわざと逃してるだろ!!」


 俺が分かってブラッドが分からないわけもなく、そこを指摘した。
 クロは仕方がないように後ろ髪を更に伸ばし、まるで尻尾のようにブンブンと振っては槍のように猫に放った。
 猫は身軽にヒョイと躱す。
 先ほどまで猫がいた床には穿孔がクッキリと残る。間違いなく即死の威力だ。


「チッ……」


 ブラッドは舌打ちをする。


「ブラッドさん、難しそうな顔をしていますね」


「まぁ実戦訓練では自分の能力の把握と制御が目的だからね。クロさんは防御的な能力の使い方だと悪くはないんだけれど、攻撃的な使い方をすると手加減が出来なくてああなっちゃうんだ。ブラッド君も攻撃しろとは言うけれど、結構危ないんだよ。アレ。猫さんは新人の中でもそれなりに任務経験もあるし、コピーした能力は実際の能力者からアドバイスが貰えるからある程度使いこなせるけど、クロさんは結構危なっかしいんだ」


「なんか上手く使えないんですかね」


「一朝一夕で使いこなせるほうが珍しいからね。ニーサンはそうじゃなかったかい?」


「あー、まぁ俺のはちょっと特殊だから」


 適当に言ってごまかした。


「まぁ確かにそうだよね」


 クロの攻撃は際限なく続いた。髪の毛の本数だけ武器があるようなものだ。一本一本が槍であり刃であり鞭になるのだから。
 それでも猫はなんとか躱していた。水の盾を使ったり、コンクリートの柱を使ったり。だが、数本の髪程度ならばそれでも防げるが、数百本で構成された束は軽々とそれらを貫いた。そういう時は防ぐより躱すほかなく、ファットの力で躱していた。


「ファットさんの能力って脂肪を代償にするんですよね? 実際、どれぐらいの代償になるんですか?」


「そうだね。こういう時、相手が工大生だと説明が楽で助かるよ。『1/2×質量×速度^2=運動エネルギー』って公式は知ってるよね?」


「はい。高校の物理で習いました」


「僕の能力は速度を上げる代償として等価の脂肪を消費するんだよ。まぁこの公式がそのまま当てはまるわけじゃないからおおよその目安だけれどね」


「ってことは、猫があんなにファットさんの力を使ったら……」


「とても危ないですね。女性は元々脂肪を蓄えやすい体質だし、猫さんも僕の能力を使う事を意識してるからダイエットなんてしてないから、瞬間的な使用なら問題ないし、あのコンクリの投擲にように体の一部分だけって使い方なら代償も安いけれど、クロさんが攻撃し始めて、能力を使わされているのはとても良くない状況です」


「マジか……」

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