異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第20節

「…………」


「…………」


 気まずい沈黙が流れる。
 俺とクロが二人並んで黙って歩いているからだ。
 どうしてこうなったのか、振り返ってみる。


 昼前頃に猫とクロがこの部屋に戻ってきた。
 まず、ククが猫を連れて外に食事に出て行った。
 そして、少し時間を置いてからブラッドとファットも外に食事に行こうとした。その際、ブラッドは財布から一万円札を取り出してクロに渡し、これで二人で好きなもんでも食ってこいと言った。


 そして、二人きりになった俺達はぎこちない空気のまま外に出て食事をとることにした。


「クロさんはどこがいいかな?」


「どこでもいいですよ」


 まぁ自己主張強いタイプじゃないっぽいし、年下な訳だしな……。でも、能力者としては先輩になるわけだし、俺としても同振る舞えばいいのか分からない。
 とりあえず、適当に店を選ぼうとするが、女の子と一緒なのにハンバーガーや牛丼といったチョイスも選びにくい。


「クララ、こういう時はどういう店がいいんだ?」


 魔人とは言え、女の子の容姿をしていたクララに助けを求めた。


「この先に女性に大人気らしいお店があるわよ」


 思った以上にすんなり答えてくれた。


「なんでそんなの知ってんだ?」


「ニュースで見たの。カズキがあの本を読んでる間に」


「ああ、そういうこと」


 まぁニュースバラエティってやつか。まぁこういう時は助かるな。
 俺はクララの案内で店に向かった。
 俺の後を付いてくるクロ。一応、歩幅には気を付けないと。


 着いた先はスイーツ専門店だった。生クリームたっぷりのショートケーキやシュークリーム、果物でデコーレションされた発音が難しそうなお菓子。可愛く造形された糖分の爆弾だ。


「……ここでいいかな?」


「はい」


 断ってくれても良かったんだけどな。


 中に入り、扉を開ける。甘い香りが店内中に充満していた。
 いらっしゃいませと若い女性店員の声がかけられる。
 俺はチョコレートケーキを一つとアップルティーを頼み、クロは良く分からないケーキを三つとこれまた聞いたこともない紅茶の類を頼んだ。
 テーブルに座り、対面にクロが座る。


「クロさん、ケーキ好きなんですか?」


「……普通です」


「そっか、普通かー」


「……はい」


「…………」


「…………」


 沈黙がつらい。
 周りの人達はわりと年配の女性が多く、こちらをチラチラと見ては何かボソボソと話していたりする。平日の昼間に学生風の男女でケーキを食べに来ている。しかも片方はセーラー服を着ているんだから注目を集めるのも無理はないかもしれない。よくよく考えれば、補導されたっておかしくはない。
 ククはクロの事を人見知りするって言っていた。人見知りする女性が男性と二人っきりになれば、それは警戒されてもおかしくないか。
 何か話題を探そうとして、クロの身に着けている物に目星を付ける。すると、クロのカバンにサボリスのストラップが付いていた。
 大人気脱力系マスコットキャラクターのサボリス。


「クロさんってサボリス好きなんですか?」


「……わりと」


「そうなんだ。俺もサボリス好きなんだよね。ご当地サボリスとかあるから、気になったら買い集めたりしてるし」


「……そうなんですか」


 あまり食いつきが良くないかな?
 もうちょっと話を堀り下げてみる。


「うん。少し前に県外まで温泉旅行に行ってさ、そこの売店で温泉サボリスとかも買ったんだよね」


 俺は随分前に撮ったそのストラップを見せてみた。


「これこれ。隣に写ってるのが温泉マイヤーさん」


 クルミすら割らないサボリスのために世話を焼くクルミ割り人形のマイヤーさんも温泉に浸かってリラックスしている。


「あ、可愛い」


 ポツリとクロがつぶやいた。


「ん? どっちが?」


「いえ、なんでもないです」


「その子、そのマイヤーの事を見ていたわ」


 クララがフォローしてくれる。


「もしかして、マイヤーさんが好きなの?」


「…………」


 黙っちゃった。
 折角広げれそうな話題なのに無理矢理聞き出してもダメだし……そうだ。
 俺は本を取り出し、手をギュッと握る。


「カオス、魔石でマイヤーさんの人形とか作れない?」


「やってみよう」


 握った手の中で何かが形作られるのを感じる。
 広げてみると俺が想像した以上に良くできたマイヤーさんのストラップが出来ていた。しかも各種宝石を組み合わせてか、色も高いレベルで再現されている。


「これ、あげるよ」


「……いいんですか?」


「うん。あ、でも紐がないな……どうしよう」


 ストラップでもぶら下げる紐がないとカバンに付けられない。


「それなら大丈夫です」


 クロは自分の髪を力を入れずにスッと抜き、マイヤーさんの背中のネジの二つの穴の一方に髪の毛を通し、紐代わりにする。


「もしかして、その髪って能力の?」


「はい。ただの紐よりずっと強いですから」


「そうなんだ。それなら平気だね」


「ありがとうございます」


「気にしないで。俺の周りでサボリスとかマイヤーさんが好きって人あんまりいなくてさ。なんか俺と同じ物が好きな人がいるって分かったらちょっと嬉しくなってね」


 自分が好きな物が相手も好きだって知るとやっぱり嬉しい。


「ニーサンもマイヤーさんが好きなんですか?」


「うん。サボリスがボケだとしたらマイヤーさんってツッコミだからさ、鋭いツッコミとか見て良く笑ってる。ほら、サボリスとマイヤーさんの動画とか結構あってさ、これ見てよく笑ってた」


「それ、私も見たことあります」


「本当!? こういった動画を見るまではサボリスしか知らなかったんだけど、こんな動画見てからマイヤーさんのキャラとか知ったら好きになったんだよね」


「私と同じですね」


「本当?」


「私もサボリスの事しか知らなかったんですけど、友達に動画の事とか教えてもらって、そうしたらマイヤーさんが可愛くて面白かったんです」


 わりと話が弾んだ。しかも普通の雑談だ。能力者同士で能力以外にもこうやって他愛無い話ができることにちょっと感動を覚えた。
 俺は更にサボリスとマイヤーさんの話を振り、クロは話を聞いてくれた。そして二人でマイヤーさんの魅力をあれこれと語り、昼食を終えた。
 会計の時になって気が付いたが、俺はケーキ二つでギブアップしたが、クロは五つも食べていた。

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