異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第18節

「ファットさん、俺はまだやれるぜ!!」


「ブラッド君、少し落ち着きましょう。アドレナリンが分泌しすぎています」


 ファットは諭すように語り聞かせるが、ブラッドはフラフラしながらも立ち上がる。戦意は失われていない。


「まだ動けるんだ!! 実戦形式ってんなら、こんなの序の口だ!!」


「……仕方ないですね。一応、僕にはブラッド君を監督するよう支部長から要請されているので、止めさせてもらいますよ」


 ファットは服を脱いで上半身裸になる。実は超ムキムキかと思ったがそういうわけでもなく、タプタプのお肉がズボンからはみ出している。背中には鬼の顔が宿っているわけでもなく、子泣き爺の垂れ下がった顔のような背中が見ていて切なくなる。


「ファットさん、俺とやる気ですか?」


 少しは目が見えるようになったのか、明確にファットの方へ見向くブラッド。


「これも僕のお仕事ですから」


 ファットは徒手空拳のまま構えを取る。傍目で見ればダイエットのために太極拳を習っているおじさんのようで、絵にはならない。


「だったら、まとめて片づけてやる!! ブラッド――」


 ファットはブラッドが技を発動しようとした瞬間、ファットの姿がぶれ、いつの間にかブラッドの胸に手を押し当てていた。さっきまでの俺とブラッドのスピードを軽く凌駕している。
 ブラッドはそれ以上言葉を続けることなく、その場に膝を折り倒れた。
 まだ魔術が使えなかった時に魔王と遭遇した時を思い出す。あの時もいつの間にか距離を詰められ、殴られていた。ちょうど今のブラッドのようにだ。


「危ないところでした」


「危ないって、ブラッドさんはそんなにやばい技を使おうとしてたんですか?」


「そうです。今の予備動作からして『血のブラッド・レイン』。広範囲へ血の針を飛ばす技ですね。もう少しでブラッド君を貧血にするところでした」


「危ないってそっちですか」


「たぶん、ニーサンなら軽いけがで済む程度ですよ。ブラッド君は頭が血が上りすぎてて、冷静な判断ができなくなっていたようです」


「ブラッドさんってキレやすい人なんですか?」


「キレやすい人というよりも、能力の性質としてキレやすくなったって所ですね」


 能力の性質?


「どういうことですか?」


「ブラッド君の能力は血液操作、血を色んな形にできるのはニーサンも見ての通りですけど、実は血中の成分をある程度操ることができるんです」


「血中の成分?」


「そうです。例えば、血中に豊富な酸素があれば息切れしにくくなったり、アドレナリンを多く含めば痛覚が麻痺したり、そうした血液成分の操作もブラッド君はできるんです」


「それってすごいことなんじゃないですか?」


 俺が思った以上に血液操作の操作って意味が幅広い。色んな使い方が出来そうだ。


「そうですね。でも、逆にアドレナリンの分泌量を誤ると興奮状態に陥って見境が無くなってしまうんです。それに、アドレナリンを過剰分泌させると普通であれば眩しくないものが眩しく感じてしまうんだ。そういった点ではまだまだブラッド君も未熟なんですけどね」


 ブラッドは未だに倒れている。息はしているから死んでいるわけではない。


「自然操作系能力の一種で水を操る能力者もいますが、血を操り武器を形作るのも、水を操り武器を形作るのも大きな差はありません。ですが、身体操作系能力の血液操作は例えば切り傷による流血を防いだり、自然治癒能力を高めたりと、攻防ともに優れた点があります。僕のような能力よりずっと便利なんですけどね」


 そういいながら、ファットは服を着なおす。


「ファットさんの能力って脂肪を代償に身体能力が上がるんですよね?」


「そうですよ。脂肪を代償に素早く動ける能力なんですけど、それだけの能力なんですよね。昔は他の能力者の人達が羨ましかったですけど、もともと体を動かすのは嫌いじゃなかったので、今ではこの能力を気に入ってます」


 汎用型の能力じゃなくて特化型の能力か。体術だけに特化したキャラとかすげー燃えるな。中年太りのおっさんじゃなかったらだけど。


 

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