異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第17節

「ほら、準備する時間ぐらいはくれてやる。昨日は本気で相手できなくて俺も不満タラタラなんだよ」


 ブラッドは右腕を俺の方に伸ばし、その手から赤い刀を形成して見せた。勝手に名付けるとすれば、血刀か。


「剣ぐらいなら俺だって作れるんだよ。ニーサン、あの時の剣を出せよ」


 ブラッドの要求に応え、魔剣カオスを生成する。そして、カオスが気を利かせたのかあの時と同じ防具を俺に纏わせた。


「それがお前の戦闘服ってわけか。俺と手合わせした時は本気じゃなかったってことだよな? 舐められたもんだぜ」


「そういうつもりじゃなかったんですけどね」


「どういうつもりでもいいさ。さぁ、かかってこいよ」


 ブラッドは半身になり、俺へ真っすぐ血刀を向ける。右半身を前に出し、左半身を後ろ。両手剣の構えではなく片手剣だ。片手を浮かせているってことは何かを仕掛けるためか?


「行かせてもらいます」


 前回の教訓から言えば、俺が魔力供給を断ってもこの空間は暫く持続する。今はただ、戦いに集中するんだ。
 身体強化の魔術を最大まで上げ、本を懐に仕舞い、互いの視線が絡んだ瞬間のタイミングで俺はブラッドに斬り込んだ。


「今度は驚かないぜ」


 ニヤリと笑うブラッド。カオスを真正面から受け止め、俺を弾き返した。
 ありえねぇ。今の衝撃を何で受け止められるんだよ。ってか、あの時よりスピードは出てたはずだぞ。


「オラァ!!」


 ブラッドは俺を殺す勢いで切っ先を俺の胴に向けてきた。それを物理障壁で受け止めた。


「その手品は知ってんだよ!!」


 ブラッドは左手に血の短刀を作り出し、間髪入れず攻撃を仕掛けてきた。
 俺が使ってる物理障壁は連続の使用はできず、どんなに魔力を供給しても4~5秒はクールタイムが必要だ。それを昨日の僅かなやり取りで見抜かれていたらしい。
 俺は防具の頑丈さを信じ、革のグローブを嵌めた左腕を差し出した。
 鉄パイプで殴られたような痛みが腕を走り、火傷をしたような熱感を覚え、痺れた。


「チッ、思ったよりその装備、頑丈じゃねぇか」


 確かに、完全に不意を突かれ、咄嗟に差し出した結果としては良好だ。もし素手だったなら、腕がまた切り落とされていたかもしれない。


「カオス、腕の修復はできるか?」


「やめておけ。戦闘の片手間にできる程簡単ではない」


「そうか」


 やっぱり、そううまくはいかないか。


「何独り言を言ってやがる!」


 ブラッドが再び襲い掛かってくる。今度は最初から二刀流だ。変則的で厄介な動き。一本の剣で二本の長短の刀を捌くのは綱渡りで、何撃か既に貰っている。速さ重視で体重が乗っていないおかげか、あの不意打ちの時ほど重いと感じる攻撃はない。だが、もしも防具が無ければ既に無数の切り傷を負っていたに違いない。
 防戦一方でじり貧だ。
 それにしても、ブラッドの動きは昨日のそれとは違う。それに心底戦いが楽しそうに見え、常に笑みを浮かべている。まるで戦闘狂だ。


「カズキ」


 急にクララが声をかけてきた。気が逸れ、またブラッドから一撃を貰ってしまう。
 反撃とばかりにブラッドへ攻撃を仕掛けたが、軽い身のこなしで距離を開けられた。


「どうした。クララ」


「ちょっと気になる事があったんだけど、聞く?」


「それ、今じゃなきゃダメか?」


「今じゃないとあまり意味がないから」


「…………」


 本を取り出す。


「ファイアストーム」


 俺を中心に炎の渦が巻き起こり、少しの間だが周囲と断絶することができた。


「どんな話だ?」


「あの子、陽の光を嫌がってるみたい。眩しそうにしてるもの」


「眩しそう?」


 それはおかしい。ブラッドはサングラスを掛けてるんだぞ? それもカンカン照りの太陽じゃなく、多少は直視しても平気な夕日だ。普通の人間なら……。いや、普通じゃないのか。
 クララの話を聞き、わずかな時間の中で思考を巡らせ、答えを導く。真実は簡単に手に入らないが、事実はわりと簡単に手に入る。
 普段からサングラスを掛けている。水城はそれを能力による影響と言っていた。その時に水城は俺の両手のようにと言っていた。だから俺は勝手に目の色が変わったのを誤魔化すためだと思っていたが違った。サングラスの本来の用途は遮光だ。ブラッドは強い光が苦手なんだ。


「サンキュー。クララ、これで勝てるぜ」


 俺は本を開いたまま、ファイアストームを消し去った。


「どうした? 態勢の立て直しは十分か?」


「いや、そういうわけじゃないですよ」


「チッ、つくづく腹の立つ奴だ」


 ブラッドは血刀を消し、その代わりに血で出来た爪を両手両足に生成する。勝手に名付けるとすれば血爪か。


「その防具、斬りには強いが、突きならどうだ?」


 たぶん、貫かれるだろうな。その手段をもっと早くに取られていたら、俺はクララの助言を聞くことなく倒れていただろう。
 ブラッドは地面を走り刻みながら、俺へ手刀による突きを放ってくる。


「フラッシュ」


 俺の詠唱と共にブラッドの眼前で眩い発光が炸裂した。俺へ目掛けていた攻撃は容易く避けることができ、地面に倒れ込んだ。立ち上がろうとするが、二立歩行が困難なようで本当の獣のように四つ足で立っていた。


「試合終了ですね」


 俺が追い打ちを掛けようとしたところにファットが割って入ってきた。

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