異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第16節

「ニーサン、行くぞ」


「え、行くってどこに?」


「言っただろ。実戦だ」


 俺は訳も分からないまま立ち上がり、ブラッドに付いていく。後ろからはファットも付いてきた。


「支部の近くにあった模擬戦場程の規模じゃないが、一応このビルの地下にもそれっぽいのは作ってあるからな。元々は地下駐車場だったんだが、そこを改良して模擬戦場にしてある」


 エレベータに乗り込み、ブラッドは地下の階数を押す。


「でも、地下ってことは暴れすぎたら地上に影響が出るんじゃ……」


「最初は俺もそう思ったんだが、お前の力で異空間を作れるって話を思い出してな。その空間で戦ったら外に影響は出ないんじゃないかって仮説が立ってな」


「ニーサンの力は僕も支部長から聞いてるよ。試す価値はきっとあると思うんだ」


「まぁそういうなら」


 と言われるがまま頷きつつ、手を口元に当てカオスにこっそりと聞く。


「カオス?」


「どうした?」


「あの異空間の事だけど、あれって再現できるか?」


「……あの後、あの空間について我も考えていた。我の考えを先に言えば、アレは我にはできぬ魔術だ」


「カオスにもできない?」


「ああ。元々、我の世界には我と時間と空間のみがあった。そして、我は時間と空間に干渉する魔術は使えぬ」


「ってことは?」


「あの魔術は貴様だけの魔術だ。これは推測の域を出ぬが、貴様が持つ異能力とやらの種類は昨日の話を聞く限り、空間に作用する物なのだろう? 我ら魔術の理と貴様の異能力の理、それらの複合した産物があの空間であるならば、まだ納得できる」


「なら、あの空間は俺が自力で生み出さなきゃいけないのか?」


「そういうことだ。助言をするならば、キッカケはお前が紅蓮と呼ぶあの男が『マカハドマ』と唱えた直後に魔力の奔流を感じた。貴様の強い意志に反応したためだろう」


「そうなのか?」


「ああ。それに生み出された空間はあの謁見の間、貴様が魔王と戦い、決死の一撃を放ったあの場所だ。身の危険を強く感じ、それに打ち勝とうとした時、貴様の中で強い意志が生まれている」


「そう、なのか?」


「ああ。魔力の流れに関しては我は貴様より熟知している。まだ貴様の知らない魔術や魔力の性質もあるのだぞ?」


「なら、教えてくれよ」


「追々な。まずはあの異空間を生み出す方法を考えることだ」


「考えるっつったって、この後すぐ使うんだぞ」


「……仕方ない。魔力の量は我が補おう。ただし、あの魔術は貴様にしか使えん。あの異空間を作ることに集中しろ」


 エレベータが地下に到着する。


「ここが模擬戦場だ。かなり丈夫に作ってあるし、天井も分厚いが、それでも地上に影響が出ないとは限らん」


「ここで俺が異空間を作ればいいんですね?」


「ああ」


 ブラッドの返事を聞き、本を取り出し、息を整え、目を瞑り、集中する。
 体内を巡る血の流れに乗せ、魔力を身体中に漲らせる。カオスの補助もあってか、魔力は充実している。
 思い描くのは強敵との対峙。渾身の一撃に全てを賭けたあの時を思い返す。
 魔力の巡りが強くなり、少しだけ息が乱れる。心臓が早鐘を打ち、微かに体が震える。
 体内を巡っていた魔力は次第に体外へ漏れ出す。それはゆっくりと周囲を飲み込んでいく。
 俺はなんのために戦ったのか。
 アイリスを抱き締めて泣くロージーを思い出した。
 アンバーとジェイドが抱き合う姿を思い出した。
 ニールが照れた様子でフランと握手をした姿を思い出した。
 セシルと祝杯を挙げた夜を思い出した。
 薬師を目指すと言ったアニーの決意の表情を思い出した。
 俺が大切に思っている人達がたくさんいた。


「これが……異空間か?」


 ブラッドの声で目を開く。
 茜色に染まった俺の屋敷の庭だ。
 あの日、俺の心が向こうの世界に居座った日の景色と同じだ。


「これで、いいですか?」


「……ニーサン。これがニーサンの力なんですか?」


「そうらしいです。ファットさんはこういった能力を持ってる人を知らないですか?」


「……僕は知らないなぁ。もしかしたら、ニーサンだけしか持っていない能力なのかも」


「まぁ何でもいいさ。少し時間がかかったが、自分の好きな空間を作れるんだろ? 紅蓮さんが言っていた西洋の城って雰囲気じゃねぇし、作れる空間ってのも固定じゃないみてぇだな」


 ブラッドは門に向かい、門を潜ろうとしたが、何かに阻まれて外に出れないようだ。


「ふーん。空間にも限界があるみてぇだな」


 ブラッドが壁沿いに歩く。


「やっぱり幻覚の類じゃなさそうだな。この空間の方が馬鹿でかい」


「なんで分かるんですか?」


「歩数だよ。大雑把だが、大体の距離は分かる。間違いなくこの空間はあの地下室より広い」


「ってことは?」


「実戦訓練には持って来いってことだよ」

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