異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第12節

 どれだけ魔力を操れるかは意志によって決まる。普通に戦うだけなら今魔術に使っている魔力の総計が俺の平常時に使える魔力の合計だ。そこに必ず勝つという意志を加えることで上限が引きあがる。
 要は負けず嫌いこそが魔力を操れるってことだ。


「ほう。魔術の使い方が分かってきたようだな」


「まぁね」


 実際、本格的に魔術を使ったのはこれが初めてだ。今までは単発的な魔術ばかりだった。火柱のように体外で持続的に魔術を発動し続けるというのは本当に初めてだった。


「貴様は時折、魔術を声に出して発動させていたが、アレは明確な意志となり一時的に操れる魔力の上限が引き上がる。魔術師としての訓練では初歩にもあたる技術だ」


 マジか。呪文を唱えるって単なるポーズだったんだけど。まぁ結果オーライだ。
 そんなやり取りをしている間にも火柱は刻一刻と冷気を飲み込み熱気を巻き散らす。


「神崎さん。大学に通っているあなたならば比熱という言葉を知っていますよね?」


「比熱って物の熱しやすさ、冷めやすさを表すやつですよね」


「そうです。そして、私の能力はその比熱、つまり物質の特性に関わらず温度を下げることができます」


 はぁ?


「それってどういうことですか」


「そのままの意味です。大気であろうと、液体であろうと、私の能力によって容易に温度を下げられます。このように」


 紅蓮がそっと手を動かすだけで微小量の液体が床に落ちる。


「今のは液体酸素や液体窒素の混合液です」


「……それってマイナス200度の世界の話ですよね?」


「その通りです。そして、通常の火ならば私が触れるだけで即座に消えます。何故だかわかりますか?」


「……燃焼するための熱そのものを奪うからか?」


 燃焼とは化学反応による発熱。その熱によって更に燃料が燃焼する。その連続によって起こるものだ。その炎の根本の部分、発熱の一切を奪われたら火は消える。


「その通りです。ですが、不思議なことに神崎さんが生み出したその炎は消せません。これは非常に重要なデータです」


「重要なデータ?」


「カンザキさんが生み出した火は普通の火ではないという事です」


「…………」


「そもそも火を使う能力者でも能力条件がいくつかあります。例えば、燃やしたい対象に触れる。あるいは自身の体表上のみである。または自身の身体を代償とする。そのような可燃物を燃やすという能力者は少なくありません。しかし、神崎さんの能力は可燃物を必要とせず、私の能力で消すことも出来ない。そういった能力者は私の知る限り、一人しかいません。また、その能力に対する能力条件は本に触れること。これは破格ともいえます」


「……つまりどういうことですか?」


「神崎さんの能力は希少レア中の最希少レアということです。少なくとも、私が管理しているこの支部において神崎さん以上に希少な能力者はいません」


 まぁ実際は能力じゃなくて魔術だからな。


「能力の質、幅、ともに高い水準にあります。あとはその能力の上限がどこにあるかということです。神崎さんの提案通り、どちらの能力がより高みにあるか比べあいましょう」


 紅蓮がそう言った直後、床面が凍結するピシピシといった耳に痛い音が立て続けに発生し、俺の周囲と背後以外、そして観覧席の一部を除いた全てが氷結していた。
 俺も負けじと火柱の火力を上げる。氷結と融解、拮抗した状態が容易に見えた。
 だが、時間が経つにつれ違和感を覚え始めた。その違和感は徐々に大きくなり、耳鳴りや眩暈となって表れてくる。息は乱れ、視界のピントが僅かにボケている。


「驚きました。ステージ7でやっと体調の変化ですか」


「ステージ7?」


「ステージ7こそ私の能力名の由来となった『ハドマ』の領域。並の人間ならば呼吸をするだけで気道が凍傷にかかり、皮膚は裂けて正気を保てないレベルです。並の能力者ならば、既に倒れていますよ」


「並の能力者じゃないですからね」


 並の能力どころか、能力ですらない。魔術なんだから。


「では、ラストステージに映りましょうか。ブラッドさん、皆さんを外へ避難させてください」


「しかたねぇな!」


 観覧席に居た面子はブラッドの先導に従い外に出る。この場に居る人間は俺と紅蓮だけだ。


「今までラストステージの中、生き延びている人間は私を除けば数名の支部長クラスの能力者しかいません。もし、この攻撃に耐えられたならば私の推薦で神崎さんをネームドに格上げするよう交渉しましょう」


「言いましたね?」


「ええ。アマテラスは能力者集団。能力によって評価されますから」


 紅蓮は大きく深呼吸し、そっと一言唱えて見せた。


摩訶鉢特摩マカハドマ


 拮抗していた境界が、急激に迫り、火柱の足元まで襲ってきた。単純な熱量の勝負ならば、冷気と熱気では熱気が勝る。だが、紅蓮の能力はその理屈、理論、この世界の理を覆す能力だ。
 それでも俺は負けない。俺だって世界の理を覆す力を持っている。世界を創造した魔神の力を使ってる。なら、俺だって世界の理を覆せる。世界の理を塗潰せる。俺だけの世界を創造できる。
 氷結した世界が揺らめく。その揺らめきは徐々に大きくなり、俺を中心に床を飲み込み、火柱を飲み込み、凍結した床、壁をも飲み込み、紅蓮さえも取り込んだ。そして、大きな揺らめきは氷結した世界の像を歪ませ、異なる像を結んでいく。それはあの日の再現だった。


「ココは……」


 石造りの広い部屋。太い柱が何本も伸び、天井にはステンドグラス。背後には大きな扉があり、正面には紅蓮。その紅蓮の背後には玉座がある。


「あの城のようだな」


「これは一体……」


 余裕を見せていた紅蓮もさすがに驚きの色を隠せない。
 俺はまさかと思い近くの窓から外を見る。しかし、外はフェンスが見えるだけだ。


「どうやら、あの部屋という空間を別の空間に作り替えたようだな」


「ってことはココはあっちの世界じゃないのか?」


「そのようだ。我が行った世界創造を小規模にした魔術といった所か」


 俺がこっそりとカオスと話していると、戦闘態勢を解いた紅蓮が近づいてきた。


「神崎さん、これもあなたの能力ですか?」


「……そうですね」


 もう一度窓の外を見るとフェンスの向こうには海が見える。やはりここは日本だ。


「神崎さんの能力名は確か、創作具現化……まさか、空間さえも具現化することができるのですか?」


「……いや、俺にもまだ良く分かってないです」


「そうですか。戦闘中に上位能力に目覚めることはあります。この空間もその一種なのかは調査するとしましょう。ところで、この部屋は元に戻せますか?」

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