異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第11節

「赤坂さん、俺はコイツの面倒は見れませんよ」


 ブラッドは頭を掻きながら赤坂に半ば抗議的な口調で言う。


「そいつ、殺す気で攻撃してきたぜ。俺の能力を知ってた上での攻撃ならまだ分かるけど、そいつは俺の能力なんて関係なく、最初から俺に殺意を込めて攻撃してきた。あれじゃあデータ収集じゃなくて死闘だ。俺が倒れた後に追いうちを掛けようとしてたのがその証拠だ」


 ブラッドはそういうが俺にはそんなつもりはなかった。


「神崎さん、この模擬戦が貴方のデータを収集する目的で行っているのは理解できていますよね?」


「はい。だから本気で仕掛けました」


 紅蓮は俺に実力を示せといった。可能な限り全てと。だから、俺の本気を見せた。


「……失礼しました。私の要求の仕方が悪かったようですね。模擬戦では相手を殺さないように気を付けてください」


「でも、あれぐらいじゃ人は死にませんよ」


「……赤坂さん。やっぱりそいつおかしいぜ。能力に目覚めただけの甘ちゃんじゃねぇ。少なくとも『戦い』を知ってるぜ」


「……ブラッド君がそういうなら、そういうことでしょう。しかし、神崎さんは色々とイレギュラーが多い方ですね……」


「神崎!!」


 水城が観覧席から降りてきて、こっちに向かってきている。


「水樹さん。神崎さんは昔からこのような性格でしたか? 喧嘩っ早かったり、人を殺すことに抵抗がないような」


「そんなわけないですよ! 神崎は変な所で頑固で自己中ですけど、人を傷つけたり嫌がることをするような人じゃないです!」


「それって、俺をフォローしてるのか?」


「だって、本当のことじゃない」


「……まぁそうだけどさ」


 紅蓮は顎に手を当て考えている仕草をして見せた。


「神崎さんの能力は水樹さんから少しだけ伺いました。本を持つことで能力が使え、身体強化や火や水を生み出し操ることができると」


「ハァ!? 赤坂さん、それ俺聞いてないぜ!?」


「お互いに能力を知らないフェアな条件を想定していたのですが、少し想定外でした。ブラッド君。すみません」


「……チッ」


「ブラッドさんの実力であれば、このような状況になるとは思っていませんでしたが……戦闘能力の評価は保留にしておきましょう。今日は能力そのものの評価にのみ焦点を当てましょう」


「そうしてくれや。そいつが手加減ってのを覚えたなら、面倒は見てやってもいい。一応は仕事だしな」


「分かりました。では、神崎さんのお相手は私が務めましょう」


 そういって紅蓮はスーツを脱ぎ、ネクタイも外し、クールビズ仕様になった。


「おい、猫娘! 上に行くぞ!」


「あ、うん!」


 ブラッドは水城を連れて逃げるように上に向かう。


「神崎さん、連戦となりますがお疲れではないでしょうか?」


「全然疲れてないですよ」


 むしろ、不完全燃焼な気さえしていた。


「では、始めましょう。試合開始は神崎さんのタイミングでどうぞ」


「分かりました」


 一応、念には念を入れIBGを構える。


「カオス。耐熱魔術とかあるか?」


「あるぞ」


「なら、それを発動・維持してくれ」


 カオスに指示を出すと俺の体表を覆うような膜が形成された。目に見えないが、知覚できる。これがもしかしたら、魔力感知というものかもしれない。
 それと紅蓮が炎を操るならば直接触れる可能性が出てくる。それならとカオスをいつもの形状。両手剣に変化させた。


「俺の能力で生み出せるなら武器を使ってもいいですよね?」


「ああ、構わない。ただし、刃は潰してくれよ」


 赤坂の指示に従って刃を鈍らせる。とはいっても、カオスの主力はその刃の鋭さではなく、重さにある。カオスを振り、重量の調整を行う。カオス自体にはそれほど重みが無いため、加重をかけて頻繁に使用していた超重量メイス相当に調整する。


「では、参ります」


 身体能力向上の魔術は持続したままだ。武器を持って多少動きが鈍く感じるが、それでも常人の速さは超えている。
 挨拶代わりの一撃を紅蓮に叩きつけようとし、紅蓮はステップで簡単に避けた。


 なんだ?


 攻撃をしかけた時、俺の体に何かがチクチク当たるのを感じた。その何かは分からなかったが、初めは雨、次にみぞれを思い出させた。チクチクとした刺激とは別に冷たさを感じたからだ。
 チラリと足元を見る。
 ちょうど紅蓮がさっきまで居た場所に霜が降り、寒気を感じる。
 改めて紅蓮を観察すると、紅蓮の周囲にキラキラとしな光る何かが析出し、それがゆっくりと地に落ち、ちょうどドライアイスの煙のように地を這っている。
 そこまでくれば俺だって分かる。紅蓮という名前から炎を連想していたが、その実は冷気使いだ。


「カオス。耐冷魔術を」


「ああ」


 先ほどとは異なる膜を体表が覆う。先ほどまで感じていた寒気も無くなった。だが、先ほどから体表をチクチクと刺激してくる何か。おそらく微小な氷の破片が鬱陶しい。
 ポーズとしてIGBを取り出す。


「カオス。さっきの手袋みたいに他に装備って出せるか?」


「あるぞ。昔、ある人間が愛用していたものだ」


「ならそれを」


 カオスが俺に着せた服は向こうの世界で言う革装備。丈夫で動きやすく、ナイフ程度の斬撃ならば素材の力のみで防げる優れもの。それに緑のマントも付随している。


「全て何らかの形で魔石を含んだ装備だ。あらゆる干渉を緩和する効果を持つ。それと我の一部を素材とした繊維を織り込んだ決して破れないマントだ。使ってみろ」


「こんなもんがあるなら、魔王戦の時に出して欲しかったな」


「奴を吸収したからこそだ。あの時の我では貴様の補助と武器化するので手一杯だ」


「まぁありがたく使わせてもらうよ」


 カオスを構え、紅蓮と対峙する。ここまで装備が整ってくると現代なのに西洋ファンタジーの世界にいるようだ。氷を操る魔王に挑む勇者の構図になってくる。


「神崎さん。それも君の趣味かな?」


「趣味と実益を兼ねてますよ」


 もう一度こちらから仕掛ける。今度は先ほどよりスピードを上げてだ。
 紅蓮の面前で踏み込む。が、足元が滑る。
 クッソ! 路面凍結かよ!
 咄嗟に無属性魔術を発動し、反動を利用して勢いを殺す。加減を忘れ発動させた魔術の弾丸はコンクリートの壁を陥没させ、罅を走らせる。
 改めて床を見ると、紅蓮を中心に床が凍結していく。


「神崎さん。私の能力を改めて紹介しよう」


 紅蓮が腕を動かすとキラキラと光る氷の粒子が舞う。あれがダイアモンドダストと呼ばれる現象だろうか。それがちょうど、フランが炎姫と呼ばれていた煌きに対比しているように思えた。


「私の能力名は『ハドマ』。由来は仏教における地獄の一つを表しています。その地獄は冷気により皮膚が裂け、流血し、紅い蓮の花を描く程の寒さだそうですよ。だから私は『紅蓮』というコードネームが与えられています」


 まさか、ミスリードじゃなくてちゃんとした意味があったのか。


「私の能力はその地獄、『八寒地獄』に倣って八つのステージに分類されます。今はステージ1『アブダ』。無防備に私に触れれば凍傷になる程度の能力です」


 初期段階から凍傷レベルってそれ以上はどうなるんだよ。


「ステージを上げるごとに悲鳴を上げる痛みが走り、口がきけなくなり、皮膚が大きく裂け、最後には蓮の花のように全身が裂けます」


 今はまだカオスの耐冷魔術で対抗できているが、どこまで耐えられるか本当に分からなくなってきた。


「神崎さんはどのステージまで耐えられるでしょうか」


 この野郎、俺の耐久能力でも見る気かよ。
 IGBを取り出し、対策を考え、一瞬にして一番短絡的で効果的な結論を導く。
 昔から氷には炎で対抗するって相場が決まってるんだよ。


「炎よ!」


 俺を囲うように四つの火柱を立て、周囲を加熱させる。


「カオス、耐冷魔術の上から耐熱魔術を掛け直してくれ」


「注文が多いぞ」


 そうは言ってもカオスは律儀にかけ直してくれた。
 魔術の火は、通常の火が薪を燃料とするように、魔力を消費する。だから、維持をするだけでも大量の魔力を消費する。並の魔術師ならば、魔力切れも時間の問題になる。しかし、俺の場合は無尽の魔力を内包するカオスをこの体内に抱えている。従って、魔力切れの心配はない。だが、保有魔力量と放出魔力量は比例しない。今の俺が出せる最高出力の魔力流量は身体強化+耐熱・耐冷魔術+火柱四つ程度になる。これを上回る能力を紅蓮が持っていたらじり貧だ。


「驚きました。神崎さんの能力による火力は火炎使いの能力者に匹敵します」


 紅蓮の口ぶりはかなり余裕そうだ。
 足場を溶かし、近接戦闘に持ち込むつもりだったが、紅蓮の体捌きを見るに普段のレオのような余裕を残した風だ。


「なら、俺の熱気と紅蓮さんの冷気、どっちが強いか比べましょうよ」

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