異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第10節

 紅蓮に連れて来られた場所はビルから離れた埋め立て地。立ち入りを禁ずるフェンスが埋め立て地の全周に設けられ、その敷地の中央に体育館のような施設がある。


「ここはアマテラス専用の訓練施設の一つでして、主に対人戦闘の訓練をするための場所なんです」


 聞いても居ないのに紅蓮が説明してくれる。
 今俺達はマイクロバスの中だ。運転手はもちろん万能お姉さん。
 唯一の出入り口と思われるゲートで手続きをして中に入る。


「これから神崎さんにはブラッド君と模擬戦をしてもらい、実力を見せてもらいます。骨折程度の負傷であれば、問題なく治療できますので安心してください。ただし、脳の負傷や神経系の負傷は後遺症が残る可能性があるためご注意ください」


 そんなことを言われても、腕を切り飛ばされてその日中に腕が生え変わった経験があると普通に受け入れられるのが怖い。


「能力の制限ってあるんですか?」


「データ採取のため、可能な限り使える能力は全て使っていただきたいですが、代償系能力、例えば寿命を削ったり、視力を低下させたり、体重を減らすような能力は使わないでください」


「了解」


 俺の能力、というより魔術の場合は魔力を消費するけどそこまで大きな代償じゃないからいいんだろう。


「ブラッド君は斬撃系の攻撃を使わず、打撃系の攻撃を使ってください」


「分かってるよ」


「では、中に入りましょう。他の皆さんは観覧席に向かってください」


 紅蓮に付いていくのは俺とブラッド、万能お姉さんに付いていくのが水城を含めた他の面々。
 施設の中はコンクリートの床にコンクリートの壁、コンクリートの柱と照明がたくさん。それだけのシンプルな作りだった。
 一応、他にも部屋があるようだから着替えとかシャワーとか医務室もあると思いたい。


「一応、模擬戦だけど勝ち負けが目的じゃないからね。制限時間とか勝敗条件とかは無し。これから十分間戦ってもらうよ。神崎さん、戦闘時間の十分間って長いから気を付けてね」


 それぐらい肌身に感じて知ってるよ。


「では、お互いに礼!」


「お願いします」


「お、お願いします」


 なんでこんな時でも礼をするのか。いや、武道場の作法だ。きっとそうだ。
 俺はIGBを構え、カオスに話しかける。


「カオス、剣以外というより長物以外で良い武器ないか?」


「長物以外か……あの魔王から奪い取った手袋はどうだ。かなり丈夫だぞ」


 あの白い手袋か。トラウマが蘇りそうだが、自分で使えば克服も出来そうだ。


「頼む」


 次の瞬間には赤黒い手袋が出現し、俺はそれを嵌める。


「その手袋の赤黒いの……血だな?」


 ブラッドが目敏く指摘してきた。


「そうだけど。それがどうかしました?」


「いや、なんでも」


 とりあえず、放出系の魔術はまだ使い慣れていないから近接戦闘でどれだけ戦えるか試してみよう。
 身体強化系の魔術をかけブラッドに突っ込む。


「はやっ!?」


 ブラッドもさすがに驚いたようだ。
 俺はそのまま左ジャブを打ち込む。ブラッドもそれに反応し、顔面を両手でしっかりガードする。俺は体重を乗せずに手だけで軽く打ち込む。少し変な感触がしたが、気にせずにそのまま空いた脇腹へ右フックを叩き込む。やっぱり、感触がおかしい。まるでコンクリートの壁を殴っているような感じ。全く弾力の無い手応えだ。


「チッ、容赦なしかよ。お前、少し戦い慣れてるな?」


 ブラッドが声をかけてくるが、そんなやり取りには付き合わない。
 あの感触は紛れもなくブラッド自身の能力によるもの。水城曰く、体内外を問わずって事は今流れてる血液を操作できるってことになる。血液の操作をどこまで指すか分からないが、硬化の能力は間違いなくあると見ていい。それに、紅蓮とのやり取りからして、血を操って斬撃や打撃も行えるってことだ。それに近い能力を使う漫画キャラは知っている。とすれば、血を弾丸として放つ事も考えられる。
 向こうの世界ならば多少の攻撃は無視できたが、こっちの世界の攻撃はそれなりに効いてくる。だから、全部をまるっきり無視していいわけじゃない。だけど、ポイントポイントなら防御はできる。
 追撃でもう一度同じ攻撃、左ジャブからの右フックを繰り出そうとしたとき、左ジャブのタイミングでカウンター気味にブラッドの左肘から赤い何かが襲ってきた。それを視認した直後、物理障壁を展開。赤い何かが一瞬硬直した所でもう一度、左ジャブを決め、右フックを刺した。相変わらずコンクリートの壁のように硬い。手の甲がヒリヒリしている所から、たぶん出血したようだ。


「くっそ! 赤坂さん! こいつの能力って何なんだよ!!」


「それを調べるのが、この模擬戦の目的です」


 ブラッドが紅蓮とやり取りをしている間に手の甲をカオスの魔術によって治癒させて、攻撃を続行する。


「この野郎! 手が痛くねぇのかよ!」


 この程度は痛いうちに入らない。
 だが、向こうもあまりダメージを受けていないようだ。腹にそれなりのスピードを持ったジャブを打ち込んだつもりだが、まるで効いていない。
 再び左ジャブをフェイントにして、ブラッドのカウンターを誘い、もう一度物理障壁を展開し、今度は右ストレートをブラッドの胸に打ち付ける。ただし、今度は加重の力を加えての力だ。ブラッドの体内で何かが折れるような感触を覚えた。これがろっ骨を折る感触だろうか。
 ブラッドはその場に倒れ、せき込み、手をパーにして俺に向けている。
 だが、まだ試合が終わった訳じゃない。加重の力をそのままにし、ブラッドの足を踏み折ろうとした。


「神崎!!」


 水城の声が聞こえた。


「おっと……」


 ……危うく、本気で殺しかけた……本当に殺そうとした。


「神崎さん、大丈夫ですか?」


「え……あ、はい。全然余裕ですよ」


 喉がすっかり乾いて、少し声が掠れていた。


「模擬戦は中断しましょう。ブラッド君、大丈夫ですか」


「いや、中断じゃねぇぜ。中止だ中止。そいつ、イカれてやがる」

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