異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第8節

 翌日。
 目が覚め、重い体を起こす。さすがに深夜まで外に遊びに出かけたのは失敗だったか。
 水城は隣でまだ寝ている。寝相は悪くないようで、規則正しくスヤスヤと寝息を立てている。
 起こさないよう静かにベッドを下りて伸びをする。
 この自宅でない所で目が覚めた時の不思議な空気は自分が自分でないような感覚に陥る。
 窓から外を見渡すと既に街は動き始めている。
 時間にして午前八時。通勤中の労働者諸君。ご苦労様。
 ルームサービスで二人分の飲み物を頼み、ソファーに座る。また眠気が襲ってくる。


「朝食はっと……」


 出しっぱなしにしていたサービス一覧を手に取ると午前7時から午前10時まで利用できるようだ。
 まだ少し時間はあるな。
 普通の朝食ならばビュッフェ方式みたいだが、俺らはきちんと料理が運ばれてくるようだ。スイートルームさまさまである。
 チラリと水城を見る。まだ起きる気配はない。


「……ハァ」


 まぁ手を出す気はなかったから後悔している訳ではないけど、とことん水城から男扱いを受けてないことが堪えてくる。
 いや、もう俺と水城は付き合ってるわけじゃないんだし、気にしすぎてたら女々しい男っぽい……いや。実際そうなんだろうな。
 アイリスを俺の手元に置く理由になったのも、心の隙間を埋めるためだったかもと思った事もあったし。


「いっそのこと……」


 ここで襲ってしまうって手も……ないか。
 俺が水城と付き合ってる時だって、そういう事はしなかった。手を握るかハグをするか。それ以上のことはしていない。
 だって、一線を越えたらもう責任が出てくる。いや、責任を果たせるなら、俺だってやりたかったさ! そりゃあ、男だもん! やりたいことはやりたいさ! でも、結婚しなきゃダメでしょ! 子供出来たらどうするんだよ! みたいな理性も俺の中にある。で、結局はそういう行為に及ぶことなく別れてしまった。今ではそれが自分が臆病だったからなのか、責任感が強かったからなのか分からなくなっている。
 そして、今でもその答えは出せず、あっちの世界においても機会はあっても行為には及ばなかった。


「ハァ……」


 溜息が出る。
 男女二人屋根の下一夜を共にして間違いが起きない。いや、間違いが起きたら問題なんだけど……世間ではこれが不健全なんて言われることすらある有様。挙句の果てに男色家やら不能やら言われる有様。もっと本能に従って行動をした方がいいのか、理性的に振る舞えばいいのか分からなくなる。
 ハッキリ言ってしまえば、俺は今でも水城の事が好きだ。
 もう一度、改めて水城に思いの丈をぶつけてしまって玉砕してしまって晴れ晴れとした気持ちで新しい恋に生きるのもいいかもしれない。
 まぁそんなに簡単に割り切れられるならとっくに解決してる話なんだけど。


「ハァ……」


 溜息が出る。
 そもそもなんで水城を好きになっちまったんだろうな。その理由はもう忘れた。好きになる理由は要らないけど、好きになった理由は覚えておきたかった。見た目は可愛いし、性格も明るくて一緒にいて楽しい。遠慮のない物言いとか、好きだし。容姿、性格、仕草から可愛くて好きだって思えた。
 好きだから可愛く思えたのか、可愛く思えたから好きになったのか。
 朝から頭がこんがらがってくる。
 結局、俺は水城に好かれる努力はしてこなかった。それが俺の出した結論だったはずだ。だから、俺は人から好かれる努力はしない人間だって思ったんだ。そして、そう振る舞ってきたんだ。自分がしたいようにする。誰のためだじゃなく、俺は俺のために行動する。一番好きだと思っていた人間に好かれる努力すらしない人間。それが俺だ。


「よし、落ち着いた」


 思考の闇に囚われかけたが、自分が出した歪な理論武装。これでまた水城とも普段通りに接することができる。
 ルームサービスがやってきた。飲み物を受け取り、テーブルに置く。


「水城、そろそろ起きろ」


「……んー……あれ? 神崎?」


 そういや水城って寝起きは悪かったっけか?


「昨日のこと覚えてるか?」


「えーっと、あれ……ここは……」


「ホテルだよ。喉乾いてないか?」


「ちょっとだけ」


「ほら。オレンジジュース」


「ありがとう……」


「いや、まずは起き上がれよ。そのまま飲む気か」


「起こしてー」


 くっそ。可愛いなコイツ。
 俺の理論武装が早くも溶けそうになる。


「ほら、手を出せ」


 俺の言葉に従って腕を俺に差し出す。


「引っ張ってー」


「よいしょっと」


「神崎、力つよーい」


「バカ、つよくねーよ」


 また倒れそうになる水城の背中に手を回し、オレンジジュースを手に持たせる。


「ありがとう」


 ゴクゴクとオレンジジュースを飲む水城。ちょっとと言いながら、一気に飲み干すあたりかなり喉が渇いていたのかもしれない。


「朝食、十時までだから九時には朝食に行くぞ」


「今何時?」


「八時半」


「あと30分か……びみょいなぁ」


「化粧とかしなくていいのかよ」


「私、あんまりメイクに時間かけないからなぁ……二度寝しちゃおうかなー」


「ジュース飲んですぐに横になったら体に悪いぞ。ほら、顔でも洗ってこい」


「りょーかい」


 のそのそと起き上がり、ふら付きながら洗面所に向かう。


「タオルならさっき俺が出しといたから、近くにあるぞー」


「分かったー」


 さてと、俺も準備しますかね。

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