異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第5節

「めちゃ広いね!」


 両手に紙袋を抱えた水城が部屋に入ってきた時の第一声である。


「ベッドも大きい! うちの三倍ぐらいある!」


 水城は紙袋を床に置いてベッドにダイブした。
 フカフカベッドは水城を受け止め、代わりに枕がジャンプし、水城の後頭部にヒットする。


「水城、何か飲むか?」


「うん。何がある?」


「えーっと、これに載ってるやつなら無料みたい。ジュース類やら酒類やら、あとは軽食とかも頼める」


「それじゃ、オレンジジュースで」


「分かった」


 俺は紙袋を机の上に置き、備え付けの電話で飲み物を注文する。


「それじゃ神崎。夕食まで何しよっか」


「何しよっかって、あの紙袋の中身の書類を見るんだろ」


「そんなの後でいいよ。それより、汗かいちゃったしお風呂に行かない?」


 確かに今日は陽が照っており、気温が高い。あまり汗をかかない俺でも汗ばんでいる。俺より少し厚着な水城ならもっとだろう。


「分かった。えーっと、ホテルのお風呂とかってどうなってるんだろう?」


「ちょっと待ってね。ホテル案内がたぶんここに」


 水城はベッドから跳ね起き、引き出しを開いてサービス一覧を取り出す。


「ああ、お風呂なら室内にあるみたい。それもかなり広いやつ」


「なら、水城が先に入る?」


「神崎が先でいいよ。私が先だと、神崎がかなり待つことになるしね」


「んじゃ、ささっと入るな」


 なんとも色気の無い会話。水城はもともとさっぱりした性格だから、こういう所で不必要に恥じらったりしない。
 そういや、お泊りセットとか持ってきてないなと思っていたら、バスローブを発見。とりあえずこれでいいかと風呂支度を済ませて風呂に向かって適当に済ませる。
 風呂の感想としては湯船に浸かるまでは勝手が分からなかったが、湯船に入ればリラックスできた。この部屋も随分と高い所にあるようで、風呂場から眺めた茜色に染まった街の景色は綺麗だった。
 風呂から上がり、バスローブに着替えた。


「神崎、お風呂どうだった?」


 女物のスーツ姿から部屋着に着替えた水城は髪を解き、後ろ髪で束ねている。
 ポニーテールはグッとくるものがある。ストレートも好きだが、ロングも好きだ。


「慣れない感じがして落ち着かなかった。それと、茜色に染まった景色が綺麗だった」


「なら、私も入ろうかな」


 水城は立ち上がりお風呂セットを手にする。


「そういえば、聞こう聞こうと思ってたんだけど、その手どうしたの?」


 ちょっとだけギクリとした。このタイミングでそこを指摘されるとは思わなかったからだ。


「……ああ、まぁ色々とね」


 ついはぐらかすような言い方になってしまう。


「単純な日焼けじゃないでしょ? 神崎の手ってもっと細かったし、指だって細かったのに」


 男と女では見る場所が違うとは聞くが、そこまでハッキリわかるものなのか。


「意外と良く見てるんだな」


「なんかつい目がいっちゃうんだよね。それも能力の影響?」


「そんなところ。紆余曲折あったけど、今はこれが俺の手」


 褐色の手は未だに俺自身もまだ見慣れないが、動かすことに支障がない。それどころか、力を籠めようとすれば自然と魔術的作用によって力が増すぐらいだから、使い勝手もいい。


「そっか。まぁ神崎の能力はそのうち聞かせてもらうね。一応、アマテラスの主なルールとかが乗ってあるやつを机の上に置いておいたから、私がお風呂に入ってる間はそれを読んでて」


「ああ、あれか」


 机の上には二冊の冊子が置いてある。


「色々持ってきたけど、あの二冊さえ読めば大まかに分かると思うから。それじゃ、行ってくるね」


 そういって水城は風呂に向かった。なんというか、水城は俺を男として扱っていない気がする。まぁそれも仕方ないか。
 椅子に座って冊子を手に取る。手帳サイズのマニュアルブックみたいだ。


「クララってこっちの言語はもう覚えたか?」


「そうね。主に貴方の言葉だから、少し男口調になるかもしれないけれど、意思疎通ぐらいはできるつもりよ」


「読み書きの方はどうだ?」


「それはまだね。こっちの文字は多すぎるし、音と文字がまだ全てリンクしていないわ」


「なら、適当にテレビでも見て覚えてよ」


 この時間帯でテロップが出そうな番組といえばニュースが妥当か。
 テレビの電源を入れ、チャンネルを地方局のニュース番組に合わせる。CMの入りでアニソンが流れる印象的な番組だ。
 ニュース番組ではちょうど指定暴力団の抗争が云々といった内容が流れている。随分前にロケットランチャーを押収されたという過激派の暴力団だったか。
 ニュースをBGMに冊子に目を通す。
 まず、日本特殊能力組織の目的に目を通す。大まかに言って赤坂が言っていた内容と相違ない。異能力者を管理することにより秩序を保ち、社会システムを維持することが目的で、その手段として日本国内に存在する異能力者を発見し、交渉あるいは捕縛する。また国外から流入してくる異能力者を監視下に置くこと。
 次に目を通したのは組織の構成だ。組織は内閣の国家公安委員会という管轄下に置かれている。自衛隊が防衛省に所属するように、アマテラスは国家公安委員会に所属するといった感じらしい。一応、ネットで検索しながら読み進めた。
 アマテラスの本部は東京にあり、各都道府県に支部を設置しており、そこから何か事件があれば能力者を派遣し、事件の解決に動くとのこと。
 能力者の総員は一万人を超える。全員が日本人というわけではないが、47の都道府県に均等に配置したとしても各都道府県に200名はいる計算になる。
 この事実に俺は少し驚いた。日本だけで一万人だ。一億ちょいの人口に一万人ということは単純計算で世界に六十万人の異能力者がいる計算になる。中には俺と同じような異世界にわたる能力を持つ人間がいる可能性だって十分に考えられる。
 推測の域は出ないが、頭の片隅には置いておこう。
 次に目を通したのはアマテラスに加入した際の待遇だ。赤坂の言い方を借りるなら権利の部分だ。
 アマテラスに所属すれば、身分上は公務員扱いとなり、月給やら年金やら、有給休暇だってくれるらしい。優れた成果を出せばボーナスだって弾んでくれる。また、犯罪歴の削除や懲役刑を受けた身内の解放といった通常の手段ではできない報酬も希望できると、婉曲な表現で記載されていた。
 つまり、アマテラスに所属すれば終活はしなくていいことになる。それはとても魅力的だ。
 次に目を通したのは異能力者としての仕事。赤坂の言い方を借りるなら義務の部分だ。
 まず、アマテラスに所属すると定期連絡の義務が発生する。一週間に一度は所属する支部へ自分の状態やら何に携わっているかといった現状報告だ。そして、任務に就いている場合を除き、一か月に一度は支部を訪れなければならない。また国外への渡航の制限も受ける。まぁ俺には関係ないけど。
 あとは何らかの任務に就く場合だ。この任務の項に関してはもう一つの察しの方で詳しく書かれているらしいが、概要としては国内の秩序に関わる任務。他の異能力者の教育。国外活動。その他諸々の任務があるらしい。
 一冊目の大体に目を通し、もう一回読み直していた途中で水城が風呂から上がってきた。


「やっぱり広いお風呂は気持ちいいねー。手足広げてリラックスしてら、眠たくなってきちゃった」


「風呂で寝ると危ないから気を付けろよ」


 俺は風呂上りの水城に冷蔵庫に入っていたオレンジジュースを手渡す。


「ありがとう。どれぐらい読み終わった?」


「一冊目は大体読んだから、二冊目に目を通そうかなって」


「もうそんなに進んだんだ。やっぱり神崎って読むスピード速いよね」


「まぁ斜め読みだからね」


 俺も一息入れ、飲み物を冷蔵庫から出す。


「あ、またこの事件ニュースになってたんだ」


「ん?」


 ニュース番組ではさっきも見た指定暴力団系の報道がされている。


「このニュースがどうかした?」


「この暴力団に異能力者が所属しているらしいんだよね。なんでも、大陸系のマフィアがこっちに流れてきたみたいで、抗争が起きてるらしいんだけど、その抗争に異能力者が介入しているらしいの」


「へぇー。ってことは異能力者って裏社会だとわりと知られてる存在とか?」


「どうだろう。本人は能力に無自覚な場合って少なくないからね。周りの人もちょっと変わった人ぐらいに思われてることもあるし」


「そうなんだ」


「まぁ時々、都市伝説的な噂話でなんとなく知られてるって場合もあるんだけどね」


 そういって水城はベッドに座る。なんとも色っぽい。


「もう少ししたら夕食だけどどうする? 今から二冊目に目を通しても中途半端になるだろうし、それより下に行ってみない? なんか色々と買い物できるみたいだし」


「んー、そうだな。それじゃあちょっとショッピングに行こうか。じゃあ着替えないと」


「あ、そういえば支部長から替えの服を預かってたんだった。ちょっと待ってて」


 水城はさっきの紙袋の中から下着やらシャツやらを出して俺に手渡してくる。
 まるでオカンみたいな支部長だな。まぁ俺にはオカンはいないけどさ。
 俺は早速着替えて水城と一緒にホテルでちょっとしたショッピングをすることにした。

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