異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第4節

 ホテルに着き、天照の名前でチェックインをする。
 通された部屋は俺の自宅より広く、調度品も豪華で色々と驚いた。聞けばなんと、一泊十万以上もするとんでもないプランの部屋をあの赤坂は用意してくれた。そして、それらよりももっと驚いたのは部屋に置いてあるベッドの大きさだ。改めてプランをボーイさんに聞いてみると、お二人一泊コースだった。
 ……つまりはそういうことだ。
 嵌められたとかそういう感慨よりも、どうすればいいんだろうという戸惑いの気持ちが先行する。
 あっちの世界ならあまり意識しなかったが、それなりに昔馴染みの女性と一夜を共にするというのは……何とも言えない気持ちになる。
 とはいえ、いつまでも突っ立ってるわけにもいかないので荷物を下ろし、ベッドに横になる。


「カオス」


「なんだ?」


「この世界についてどう思う?」


「我の世界とまるで違うようでいて、同じ所も多々ある。人が居て、木々があって、水が流れる。魔力を必要とせず、文明の力でこのような発展を見せるこの世界はとても興味深い」


 カオスはこの世界に対し、好意的に捉えているようだ。


「たぶん、これからこっちの世界でゴタゴタがありそうだけど、魔力の貯蔵は大丈夫か?」


「それならば心配はいらん。あの魔王を取り込んだ時に相当量の魔力も一緒に取り込んだからな」


「それなら安心だ」


 あの赤坂の口振りからすると、こっちの世界ですら戦う機会があるかもしれない。


「そういえば、もっと魔術が使いこなせるようになりたいんだけど、どうすればいい?」


「基礎的な部分で言えば、魔導の力を鍛えることだな」


「魔導の力?」


「ああ。我が世界の人間は血管を流れる血液のように魔力も体内を流れているという考え方をしているようだ。それは間違っていない。だが、それだけではない」


「そういや、魔力ってそもそもカオスが生み出したものなんだっけ」


「そうだ……折角だ。少し昔話をしてやろう」


「昔話って?」


「我が世界を創造する前の話だ」


「それ、私も聞きたいな」


 いきなり話しかけてくるクララ。前振りがないため、急に話に交じってくると体がビクッと跳ねる。


「よかろう。我が世界の創造を語らせるのに貴様は適任だからな。では、話を始めよう。我が自我を得た時、我と時と空間が有った。音もなく、光もなく、感触もなく、熱さや冷たさもない。その時はそういった概念も知らず、自分が生きていると感じることすらもなかった」


「なんか怖いな」


「人が語る死の世界とはああいう物だと実感して思う。そして、何も無い空間でただただ時だけが流れる中で、我はたった一つの光を見つけた。比喩でもなく、たった一つの光だ。夜空に浮かぶたった一つの星のような光。その時、我は我以外の『何か』を知るきっかけとなった。その光を知り、我は『闇』を知った。『闇』を知り、『明暗』を知った。たった一つの光で『我』と『時』と『空間』以外の多くの事を知ることができた。そして、次第に『我』と『それ以外』という『区別』が生まれ、世界で我は確立した。そうするうちに我のように自我を持つ『他者』を『探す』ようになった。それが我が初めに抱いた欲求だろう。しかし、その『他者』は見つからなかった。初めに見た光もいつからか見えなくなった。そして我は他者探すことをやめ、生み出すことにした。それが我による世界創造の始まりだ」


「たった一つの光が始まりだったのか」


「そうだな。あの光に関しては未だに我も分からぬ。あの何もない空間において、何かが現れたとするならば、貴様が現れたように別世界からの干渉によるものかと、今では思っている」


「ああ……そういう可能性か」


「初めに生み出したのは自らの位置を定める大地。何もない空間において、自らがどこにいるかを知るための大地だ。地を作り、地に結び付けるために重力を生み出した。それはいつしか星と呼ばれるようになった」


 重力を生み出すってとんでもない話だな。


「星は当時の我と同じ、球形をしていた。その当時は『形』という概念が無かったのでな。そして、いくつかの光を生み出した。さすがの我も一度で望む物が作れず、試行錯誤した結果だ。これが我が世界における太陽や月、星の創造になる」


「え、地球の創造レベルの話じゃなくてか」


「ああ。あの世界に存在する物は空間と時間以外は我が創造したといっても過言ではない。例外は我があの時見た星のような光だけだ。そうして、我が望む理想の大地を得た。しかし、失敗作の大地に与えた重力が影響しあい、我が理想とした大地は凸凹になった。その時に初めて我は『形』の概念を得た。我以外の『形』というものを喜び、理想の大地に様々な手を加えた。それが山や海の受け皿となる溝だ。そうすると斜面が生まれ、大地の欠片が転がるようになった。これがまた面白くてな。我が何もしておらずとも、何かが転がる。それが面白く、様々な物を流した。地を作り、飽きかけた頃に地以外の物として流れる物。水を生み出した。それを流し過ぎた結果が海となった」


 世界創造が何となく子供っぽい理由な物が多い気がする。楽しいとか面白いとか。


「すると我が生み出した大地や水が混ざり合い、泥が生まれた。これが『混合』の概念を知った時だ。何かと何かを混ぜると別の性質が生まれる。様々な物質を創造し、混ぜ、形を整え、世界に散らせる。これが大地に現れる鉱物や大気といった物になる。そうして、世界を彩ったが本来の目的である他者の創造はなかなか出来なかった。何かの物質に自我を与えようとすると、我と同じ性質を持ち、最終的に我と同化してしまうからだ。それを何度も繰り返し、いつしか我は失敗の連続の末、我自身の否定をするようになった。それが我以外の自我の欲求だった。その結果として我以外の自我を持つ物質が生まれた。それが魔族だ」


「なんか意外な誕生なんだな。自我の否定から魔族が生まれるって」


「そうだな。だが、それでも我が意志によって生み出され、我の体の一部を分け与えた存在だ。人が子に抱く感情に近い物を我はその時感じた。達成感や幸福感に近いものだ。そして、我が生み出した魔族の自我は我の身体の一部である魔石に宿り、その魔族自身の体内に存在する」


「ってことは、魔族の魔石の全てはカオスの体の一部なのか」


「そうだな。我が生み出した魔族は我の意志、他者を生み出すという意志を色濃く受け継ぎ、更に数を増やしていった。その度に自身の魔石の一部を分け与えるという形でな。だが、自我の否定も多少受け継いだため、自身の魔石を分け与えにもかかわらず、全く同じ存在にはならない」


「そういえば、前に魔人は双子は生まれないって聞いたことあるな」


「未だに我が意志が受け継がれているからだろう。そうして、魔族が生み出された。我は我以外の存在、魔族と触れ合う内に更なる存在として人族を創造した。我が肉体の一部たる魔石を宿さず自我を持つ存在」


「ってことは、初めに魔族を創造して、次に人間を創造したんだな」


「そうだ。初めに生み出した人族は後にアベル人と呼ばれる存在となった」


「トール人とかシーク人とかタイン人とかもか?」


「いや、他の種に関しては我が直接生み出したのではない。そうだな。それについても語ろう。数多き魔族と新たに生み出した人族が出会った時、我は想像だにしなかった結果となった。魔族と人族との争いだ。我は何とか仲裁をしようとしたが、人族は我の言葉に耳を貸さなかった。それもそうだ。人族には我の言う事を聞かない自由な存在として創造したのだから。そして、魔族の方は我が言葉に耳を貸した。そこで当時、人族が作り出した『社会』を模倣し、魔族を統べる存在として『魔王』を生み出し、自己を防衛する場合を除き、争わないよう言い含めた。だが、我の考えは甘く、魔族は数を増やすために人族と争う事となった。その結果、人族は絶滅寸前にまで追いやられてしまった。さすがに見かねた我は人族に力を貸すことで何とか人族は土地を自分達が暮らすための大地を手に入れた。我は二度と争いが起きないよう魔族が住む土地と人族が住む土地を離すため、大地を切り裂きいて海を作った」


 それが海から魔族がやってくるという言い伝えに繋がるのか。


「数を減らした人族は次第に独自の進化を見せた。アベル人しか居なかった人族は多くの種族に分かれ、アベル人、トール人、シーク人、タイン人やそれ以外の種となった。アベル人は数を増やし、より環境へ適応できるように。トール人は数こそ少なくともそれぞれの個体が優れた魔力を持ち生存能力を高めた種へ。シーク人は数こそ少なくともそれぞれの個体が優れた体力を持ち生存能力を高めた種へ。タイン人は身を隠し、少ない食料でも生存でき、独自の技術を持つ種へ」


 まるでダーウィンの進化論みたいだな。


「この間の戦争の切っ掛けの話を聞いたが、やはり自己の防衛のための争いという命令は未だに生きているようだ。あのロトとかいう小僧が魔大陸へ侵攻するという宣言は魔族が争ってもいいという許可証ともなる。いずれ、別の魔王が再びサニングへ戦争を仕掛けにくるやもしれん」


「でも、カオスの言う事なら聞くんだろ? なら……いや、それなら悦楽の王とも戦わなくてよかったよな」


「我が本来の力を取り戻していないからだ」


「結局そうなるんだな」


「さて、話を戻すが。全ての創造の源は我が肉体の一部たる魔石、その魔石に宿る魔力こそ魔術の源。この魔力は創造の力だ。現象を起こし、物質を創造する。今話した通り、魔力さえあれば星さえも生み出すことができるのだ」


「なるほどな」


「魔力とは本来、魔石に宿っている状態こそが最も安定している。魔族ならば魔石にだ。だが、人族には魔石が無い。では、人族の魔力はどこに宿っていると思う?」


「どこってそりゃあ……どこだ?」


「自我、つまり意志だ。意志が強い者こそ強い魔力を操れる。これは魔人にも共通するが、人族のそれは魔人のそれ以上だ。あのレオとかいう小僧も強い意志によって魔力を操り、自らの肉体を崩壊させながらも魔力を吸い上げていた。あの域になるならば、文字通り命を賭す程の意志が必要だろう」


「さすがに俺にはそれは無理だな」


「何を言っている。あの魔王と戦った時、貴様は間違いなく命を賭した覚悟で最後の一撃を決めたのだ」


「そうだったのか?」


「無自覚だったか。まぁいい、意志を強くする方法は他にもある」


「え、なにそれ。教えてよ」


「自信を付けることだよ」


 カオスの言葉を受け、俺はちらりと今座っているベッドを見た。

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