異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第3節

「なんで水城が?」


「なんかごめんね。神崎」


 ここがアマテラスって組織で、そのビルに水城がいるってことは……。


「水城って何かの能力を持ってるのか?」


「まぁそうだよ。私も神崎と同じ能力持ち」


「俺と同じ?」


 俺が水城と話している間に赤坂は秋月達を退室させ、室内には俺、水城、赤坂の三人だけとなった。


「では、本題に入る前に」


 そっと壁際に歩み寄る。


「少しクーラーを入れましょうか」


 そういえば、今は九月の末日。残暑もある中でビシッとスーツを着てたら、そりゃ暑いだろう。クールビズはどうした。クールビズは。
 赤坂は壁掛けのスイッチでクーラーに電源を入れ、涼しい風がダクトから流れ出てくる。


「寒くなったら言ってください」


「ああ、ありがとうございます」


 壁側の席に赤坂、入口の近くに俺、椅子一つ空けた俺の隣に水城。


「水城さん。前提を確かめますが、神崎さんは間違いなく能力者ですね?」


「うん。常時発動型じゃないからか今は力を感じないけど、自宅にいるときとか頻繁に力を使ってた」


「いいでしょう。話を続けます」


 俺への確認は無く、話を勧められた。


「神崎さんは無自覚に力を使っているのかもしれませんが、話は続けさせてもらいます。大事なのは神崎さんが力を所有しているという一点ですから」


 水城の話から察するに能力者を探知する力を持っているようだ。もっと推測すれば、能力を発動している時のみ探知できるっぽい。


「私達の組織は能力者を集め、管理し、場合によってはその能力を発揮してもらう。そういう組織です」


「神崎が良く見てたアニメとかに出てくる謎の組織みたいなやつね」


 すごいアバウトな要約を水城がしてくれた。


「神崎さんは力を所有している。よって我々の組織『アマテラス』に加入して頂きたいのです」


「力の有る無しの話は置いといて、それって強制ですか?」


「……実質、そうなるでしょう。私達の目的は能力者の管理。加入していただけない場合、この場で捕縛し、幽閉することになりますから」


「……念のために聞いておくけど、加入したら何か義務とか発生するのか?」


「そうですね。義務と権利の両方が発生します」


「権利?」


「何度も言うようですが、私達の目的は能力者の管理。そして、私達の手から逃れ、私欲のために能力を使う者達がいます。そういう者達を捕えるため、力を貸してもらう。その対価として金銭の類をご用意します」


「金銭の類ね……」


 正直言って、自分の能力を使うことで罪を犯すことなく金策ができる事を知っているため、そこまで惹かれる話ではない。


「失礼ですが、神崎さんは何らかの能力を使い、宝石の類を入手し、それを換金している事実を掴んでおります」


 チッ。折角、能力を使ってない体で話を進めてたのに、バレてたのかよ。


「重ね重ね申し訳ありませんが、どこからか盗んだ物かと思い、神崎さんの身辺を調べましたが、これといった盗難届等の事件化された物も無く、神崎さんの身の潔白が証明されております」


「能力を持ちながら犯罪を行っていない神崎さんを理性的且つ道徳的な人物だと判断し、少し強引ながら穏便な形でこのような席を設けさせて頂いた次第です」


「そういうこと……」


「ごめんね。神崎の身辺調査したのも私なんだ」


「ってことは俺の事をストーキングしてたのか?」


「……まぁね」


「いつからだ?」


「えーっと、私って元々こんな風に能力者を探して勧誘するためにこっちに戻ってきたんだけどさ。ちょっと実家に戻ってみたら、どこかで力を使ってる人がいるなーって感じて探してたの。それで、力の発生源っぽい家を見つけてさ。少しだけ監視してたら男の人が出てきて、スーパーに入るのを見かけてさ。気になって後からそのスーパーに入って、同じ服装の人を見かけてさ。それが神崎だって気が付いたら、つい声掛けちゃって」


「……それってあの時か!」


 久々に会ったあの時だ。ハリソンのためにワインを買いに行ったあの時。……そういえば、あの時はアイリス達にシャワーを使わせるため、長時間ゲートを開いていたけど、それの力を感じてたのか。


「騙し討ちみたいな形でごめんね。神崎がこういうの嫌いって知ってたのに」


「……いいよ。大体の経緯は分かったから」


 まさか、あの時点で俺が目を付けられていたとは思わなかった。


「でも、あの時は本当にびっくりしたよ。神崎の部屋にタメぐらいの男の人が来てさ、血相変えて出てきて救急車を呼んだ時。ずっと力を使ってるから、何かしてるんだとは思ってたんだけど、まさか酷い怪我をしたなんて」


「ああ、あれも見られてたのか」


 俺はそっとクララに聞いてみた。


「クララ、水城が言ってることは本当か?」


「確かに彼女は居たわね。部屋からあの車に運び出される間だけだったから、単なる野次馬の一人かと思ったけれど」


「どうかした? 神崎?」


「いや、なんにも。それより、水城も能力者って話だけどさ。どんな能力なんだ?」


「申し訳ない。神崎さん、そこから先は『アマテラス』に加入してからの話となる。まず、その返答を聞かせてもらいたい」


「えーっと、なんか『アマテラス』に所属するとこういう義務と権利がありますよって書類みたいなの無いですか? 一つ一つ質問して答えるより、そっちの方が早いでしょうから」


「……いいでしょう。今までだと加入するかどうかを決めてから話しをするのが常だったので忘れていましたが、神崎さんが言う通り、それが普通の社会ではそれが正しい順番でしょうね」


 赤坂は無線機のようなものを使い、誰かに指示を飛ばす。すると、例のエレベーターガールだと思っていた女性が思った以上に厚いファイルを持ってきてくれた。


「目を通すのにも時間がかかるでしょう。近くでホテルを借りますから、そこでじっくりと目を通されるといいでしょう」


「ホテル!?」


「ええ。ホテルですが、何か問題がありましたか?」


「いや、明日から大学が始まるんで……」


「それなら気にしないでください」


 赤坂は淡々と当然のように言って見せた。


「神崎さんには休学していただくよう、こちらで申請を出していますから」


「……え、それってどういうこと?」


「もし、神崎さんが私達の一員となった暁には大学を卒業するための必修科目の単位をご用意いたします」


「え!? ……あ……いやいや!! ……え!?」


「神崎さんは自力で金銭を得る手段がある以上、こちらも金銭によって神崎さんに報いることはできませんからね。もし、神崎さんが『アマテラス』に加入していたでけるのであれば、まずは神崎さんが進級するのに必要な単位を私達の力を用いてご用意いたします」


「いやいや、講義を受けてきちんとテストを受けて合格しないと単位はもらっちゃダメでしょう」


「……神崎さんは思ったより律儀な人なんですね」


「思ったよりって、いったい俺をどういう人物だと思っていたんですか」


「神崎って変な所で真面目だったり頑固だったりしたけど、今でもそういう所は変わってないんだね」


 水城のその言葉に少し胸がチクリとする。


「しかし、困りましたね。神崎さんが欲しがるようなものが他に思い当たりません。この世の中は金銭で手に入る物が圧倒的に多いですから、通常ならば報酬を金銭によって支払うのが常なのですが……」


 欲しい物という点で言えば、人間の欲求には有名な分類法として『マズローの欲求5段階説』ってのがあったっけ。詳しくは忘れたけど、生理的欲求から始まって、社会的欲求やら尊厳的欲求やらがある。このほとんどを満たしてくれる世界を俺は手に入れている。だから、欲しい物といえば俺自身も思いつかない。小説やらゲームやら、そういった物欲はあるが、それらは別に『アマテラス』に所属するからこそ手に入るというものでもない。
 まぁ意外と一番欲しい物がすぐ近くにあったりするんだろうけど……さ。


「……とりあえず、その件は保留して俺は一回書類に目を通しますよ。どうせ、後期はどうしても取らなきゃいけない単位って無かったですからね」


 本当に進級するためにはたった一つの必修単位を落としただけだから……。


「分かりました。書類の内容の中には『アマテラス』に所属している者でないと分からない内容もありますから、水城さんを同行させましょう。内容で分からない点があれば、水城さんに聞いてください。水城さんもよろしいですね?」


「私は別にいいですよ。その代わり、スイートルームにしてくださいよ? 今回の件、私結構頑張ったんですから」


「仕方ないですね。その代わり、部屋が埋まっていた場合は我慢してくださいよ」


「んー、その時は潔く諦めます」


「では、今から手配しましょう。すぐにチェックインができるようにします。少し待っていてください」


 再び赤坂は無線で誰かに指示を飛ばしていた。やっぱりあのエレベーターガールの女性かもしれない。


「部屋の予約ができました。ここからも見えますが、あの背の高い建物ですね。予約者の名義は法人名としてお天道様の天に照明の照で『天照あまてる』で取っています。それでチェックインができますよ」


「『アマテラス』で天照ですか。分かりました」


「神崎さんは先にホテルに向かってください。下に車を用意してありますから、そちらをお使いください。書類関係は水城さんに持たせて後で向かわせます。今までのところで何か質問はありませんか?」


「いえ、大丈夫です」


 ずいぶんと準備がいいというか、待遇がいいな。
 俺は赤坂に軽く礼を言い、この支部を出て、車でホエルに向かった。運転手はやっぱりエレベーターガールの人だった。

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