異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第274節

 魔王との激闘の翌日。
 満身創痍の上、両手を切り飛ばされた俺だったが、不思議なことに戦う前より活力がみなぎっていた。
 カオス曰く、不足していた血液を魔力によって補ったため、落ち着かない状態が続いている、とのこと。要はエネルギーが有り余っているらしい。
 そして、病的に色白だった俺の肌も腕だけは浅黒い……というより、時間が経つにつれ色が更に変色し、今では褐色にまで変わっていた。一見すれば、腕だけ日焼けしたように見えなくもない。
 カオス曰く、俺の腕を忠実に再現はできなかったため、カオスが人の形をしていた当時の腕を再現した、とのこと。要はカオスの腕が俺に生えて、俺の意志で動かせる。らしい。
 更には現代に戻ってみても魔力は体内に宿っており、カオスの指示に従って簡単な魔術を行使してみると現代でも魔術を使うことができた。また、いつでもこの腕から魔王と戦った時に使った武器を創造することができる。
 俺はこの事実に対し、ワクワクが止まらなかった。現代においてたった一人の本物の魔術師。それだけで自分が特別な存在にように感じた。
 俺の肉体はそう変化していた。半分は現代人の、半分は異世界人の身体的、魔力的特徴を併せ持つことになった。


 激闘から翌々日。
 サニング自体の状況も耳にするようになった。
 あの戦争によって数多くの犠牲が生まれ、死傷者は多数。ロトの指揮下にいた兵は大半が負傷し、四分の一が死んだ。アーサー親衛隊の十分の一が死傷、魔王軍への反撃を伺い、近くの森にて潜伏していたらしい。クリス親衛隊は半壊、クリス自身は魔王によって囚われていた。一人サニングで籠城していたモリスは健闘したが、兵数の違いや魔王の震撼の力もあり一日で落とされ、サニングを脱出。その後、援軍を要請するため、山の国と森の国に向かっていたらしい。
 ロトはあの戦争において、魔王と一度は対峙した。あの建国式典の演説で使った不思議な力は魔王が使う震撼の力と同類の物で、戦意を失わないための魔術だったらしい。それを使い、震撼の力に対処。ロト自身の陽の属性を持つ魔術で肉体を活性させ近接戦闘において健闘はしたものの敗北。クリスと同様に囚われの身となる。
 アーサーはロトが虜囚となった報を聞き、退却。魔王を討滅する策を練るため森に潜伏しながら、各国に援軍と物資の要請。さすがにこの話を時はアーサーの事を凄いなと俺は思った。
 クリスは囚われの身となり、数日の間はロトや親衛隊達と共に数多くの魔人の監視下にあったらしい。城の敷地内の地下には牢があり、その牢に全員が収容されていた。また、俺が戦っている姿はこの地下牢でも見れたらしい。
 レオは魔朧マジック・ヘイズという、禁術を使った代償にしばらく動けないらしい。肉体を魔力に変換するということは単純に言えば、血や肉、内臓や骨を少しずつ削るという事。それを補うには時間がかかるらしい。


 結局、魔王がサニングを占領して人族を積極的に殲滅するような事はせず、住民は観客として関与せず、歯向かう者はエキストラと称し殺害。実質、魔王との戦争で死んだ者は戦闘員だけで、非戦闘員の死者はいなかった。
 クララ曰く、悦楽の王は人の善悪の物差しで測るなら悪なのだろうけど、本人はただただ楽しみたかったらしい。行動理念は善悪ではなく、退屈か悦楽か。そして、それを共有することらしい。あの劇場型の戦争や戦闘は俺達が仲間同士で食事を共有するような感覚らしい。言われても共感は難しいが、そういうことだ。自分が楽しいから他人もきっと楽しいに違いない。そういう子供っぽい価値観を持っていたと俺の中では折り合いをつけた。


 激闘から三日目。
 あれだけの大きな出来事があったにもかかわらず、街は日常に戻った。
 街や住民に被害らしい被害もなかったため、買い物にでかければ街の活気がいつも通りで少し驚いた。
 もちろん、戦死した身内を持つ人々もいるのだろうが、そんな悲しみの様子は感じられない。そういう意味で街の力強さに少し感動した。
 そして、夕方になるとロージーとアンバーは屋敷に戻ってきた。


「おかえり、二人とも」


「ただいま戻りました」


 アンバーはいつものローテンションのまま、一礼をする。


「アイリス!!」


 ロージーは挨拶も忘れ、視界に入ったアイリスに駆け寄り、強く抱きしめた。


「アイリス、大丈夫!? 怪我はなかった!?」


「お母様、痛いです。私はこの通り無事ですよ」


「良かった……」


 涙声になりながらアイリスを抱き締め、頭をそっと撫でるロージー。


「姉さん!!」


 今度はジェイドが屋敷の中から飛び出してきて、ギュッとアンバーを抱きしめる。


「ジェイド、どうしてここに?」


「……ご主人様から、またここで働いてもよいと許可が出たんです」


 こちらも涙声になりながら、アンバーに事のあらましを語った。それは後日、俺も聞いた内容だった。
 一言で言えば、あれはジェイドの暴走だった。
 アンバーとジェイドの二人が俺に仕えるにあたり、ジェイドには特別な任が与えられていた。当たり前の話だが、俺の監視だ。そして、場合によっては俺を性的に誘惑して主導権を握るという物。そして、これを企てたのはクリスではなくレオだった。ジェイドはレオに複雑な感情を抱いており、レオはそれを知ってか知らずか忠実に応えるジェイドに任を与え、俺の傍に居させた。
 ただし、あの一件に関してはレオの指示ではなく、ジェイドの独断。
 まぁそういうことが俺の知らない所で色々とあったらしい。それを全て打ち明け、謝ったジェイドを俺は許した。
 それとジェイドに関して感謝している件がある。
 俺がレオと戦い始めた後、クリスが囚われていることを知ったジェイドは城内を一人で探索し、地下牢にたどり着いた。道中の魔獣や魔人に対してはカオスから供給を受けた膨大な量の魔力と、城内の特殊な仕掛けを駆使し、倒したらしい。
 地下牢は多くの魔人達がいたが、隙を見て地下牢を一つ一つ解放し、解放された兵士達が一定数になったところで一気に逆襲。結果的に俺が魔王を倒したタイミングで城内の魔人達も討滅され、安全な状況となった。そのおかげで、俺は戦後に安全な場所で治療を受けることができた。
 そんなこんなで、ジェイドは再び俺の屋敷で働くことになった。結局、元の鞘に収まるということだ。
 俺は取り戻した日常を噛みしめながら、現代に戻った。


 ここしばらく忙しすぎて、見なければいけないアニメがたまっていたからだ。それも九月の下旬には今クールのアニメの最終回が目白押しとなっている。これを見ずして、夏休み明けの大学生活は受け入れられない。
 こうして、いざアニメを見ようとしたところでピンポーンとチャイムがなった。


「神崎一樹さん。いらっしゃるんでしょう」

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