異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第271節

 悦楽の王の開幕宣言と共に周囲の空間が歪み始める。


「カズキ様!!」


 俺の心配をしてくれるアイリス。どうにか立とうとしているが、縄で縛られているわけでもないのに椅子から立てないでいる。


「紳士淑女の皆様! 大変長らくお待たせしました!!」


 悦楽の王は不躾に玉座の上で立ち上がり、口上を述べた。すると、外からも悦楽の王の声がしてきた。


「ただいまより上映いたします演目は『雌雄』! 主演は彼! 『黒髪の異人』の名で知られるカンザキ・カズキ! そして、お相手を務めますは私、悦楽の王! ここから先は筋書きの無い大活劇! 彼が勝てば、ハッピーエンド! 私が勝てばバッドエンド! 再演無しの大一番! しかと目に! しかと心に焼き付けてください!」


 窓辺に近寄り、空を見上げる。そこには空を覆い尽くす半透明のスクリーンがあった。そのスクリーンには俺を中心とし、この場を映し出していた。
 明らかに悦楽の王の魔術によるものだ。その魔術による影響か、俺が鳴らしているBGMもあのスクリーンを介し、この街全体に響き渡っている。


「カズキ、遠慮はいらない。君の一挙手一投足に国民全員の視線が注がれ、君の振るう剣には国民全員の願いが乗っているんだ。そしてそれを私が打ち砕く。なんとも痛快じゃないか! アッハッハッハ!!!」


 ここにきて、悦楽の王は口元を醜く歪ませた。目の前の悦楽の王、空に映し出されている悦楽の王。その二つの笑い声が不協和音となり、俺の神経を害する。


「うるせぇ!!」


 全力で踏み込み、悦楽の王に切りかかった。


「さて、私も衣装替えをしなければ」


 悦楽の王は俺の攻撃を余所にその場でクルリと一回転して見せると、黒光りする鎧と剣を手に持っていた。手甲や兜まで被っており、全身ガチガチの装備だ。
 俺はその剣や鎧ごと真っ二つにするつもりでカオスを振り下ろすが、悦楽の王はそれを受け流した。


「ほう、その剣から奇妙な力を感じる」


 俺が持っている武器が魔神であると知られてはいないようだが、吸魔の力にはさすがに気が付かれた。俺は悦楽の王に蹴りを入れ、距離をとる。


「こやつ。我が分身をその身に宿しておる」


 カオスの分身っていうと吸魔石のことか。まさか、魔王の核が吸魔石で、その正体が魔神の分身とは恐れ入った。


「なら、奴の体からその核を奪えないのか?」


「それには我が直接触れる必要がある」


 ってことはどっちにしろ、奴の体をカオスで貫く必要があるってわけだ。


「その剣、どこか哀愁を感じる。なぜだ……こんなにも心躍る舞台で! どうしてこんなに寂しさを感じるのか! アッハッハッハ!! 訳が分からない!!」


 何かを感じ取った悦楽の王は兜の持ち上げ、顔を手甲で覆い、笑いながら奇妙な表情を浮かべる。泣きながら笑うピエロのような矛盾した顔だ。


「良い! 実に良い!! 君と出会って私は退屈しない!!」


 悦楽の王は愉快気に楽しそうに悲しそうに泣きながら剣を振るう。それをカオスで受け止め、自ら跳んで勢いを殺す。


「もっとだ! もっと感じさせてくれ!!」


 悦楽の王は熱に浮かされたように舞い上がっている。だが、そのふざけた言動とは裏腹に攻撃は重たい。


「カオス、奴の魔力を削り切るのにどれぐらい必要だ?」


「我と奴で互いに魔力を奪い合うのは愚策だ。ハッキリ言って底が知れん」


 結局、こいつとも剣技で雌雄を決するしかないわけか。確かに演題は見事だ。


 そうとなれば、覚悟は決まった。


「カオス! 魔力全開で頼む!!」


 カオスを両手で握り締め、悦楽の王と対峙する。


 悦楽の王の体がぶれたと思った刹那、俺の眼前に現れ、黒剣を振り下ろす。それをカオスで受け、力技で押し返す。
 結局の所、俺が他人より優れている部分はこの力だけだ。魔力も持たない、魔術も自分の力じゃ使えない。剣の才能があるわけでもなければ、修行に費やした時間もない。原始的な力だけが俺自身の武器だ。
 悦楽の王の鍔迫り合いに難なく打ち勝ち、弾き飛ばす。
 カオスによる魔力供給全開状態は常の比じゃない力が発揮されている。


 俺は弾き飛ばした悦楽の王との距離を詰め、その腹立つ顔を斬り飛ばそうと試みる。だが、俺の単調な攻撃を受け流されそうになる。そこを力技で強引に攻撃の軌跡をズラし、受け流されない形となる。再び鍔迫り合いだ。
 腹立つ顔が眼前にある。
 今度は弾き飛ばさず、壁際に悦楽の王を追い詰める。加重の力も加わって、力相撲で負けるつもりもない。


「驚いた。まさか、君がこんな力を持っていたなんて。その体のどこにそんな力があるんだい」


「愛と勇気と希望だよ」


「――アッハッハ!! そんな真顔で言われちゃ、笑えないね!!」


 悦楽の王の雰囲気が少しだけ変わった。

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