異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第270節

 扉の先は広い白い床や壁、高い天井。そして、赤い絨毯が細道のように玉座の手前まで続いている。左右には太い柱が天井まで無数に伸びており、陽の光がステンドグラスを通じ、この部屋を照らしている。
 玉座にはあの日見た腹の立つ笑みを浮かべた悦楽の王。そして、その背後にはアイリス達が椅子に座らされ眠っている。


「ようこそ。カンザキ・カズキ」


 俺に対し拍手を送る悦楽の王。王冠を被り、赤いマントを身に着け、自らが王とでも言いたげな身なりだ。


「必ず君は来ると思っていたよ。なにせあの退場だ。ドラマチックじゃないかい? 瀕死の最中、少女に助けられた。きっと君は何らかの形で一命を取り留め、私への復讐を誓い暗い炎を目に宿しやってくるか、彼女らを助けるため勇気の炎を目に宿しやってくるか。どう転んでもドラマチックだ。そんな君へささやかな催しを準備してある」


「御託はいい! お前をぶった切って、俺の奴隷共を返してもらうだけだ!」


 カオスの切っ先を悦楽の王に向け、喧嘩を売る。


「そう言うな。キャストを起用するのに私もいささか苦労したのだ」


 悦楽の王はパンパンと手を叩く。すると、俺のすぐ右隣の柱の影から見覚えのある人物がやってきた。


「紹介しよう。メインキャストを引き立てるためのライバルとして私が用意した。レオ・ルーカス君だ」


「…………」


 レオは苦々しげな表情を浮かべる。いつも浮かべていた笑みではない。綺麗に磨かれていた鎧も今ではくすみ、男にしては綺麗だった髪もほつれている。僅か数日にも関わらず、その相貌は様変わりしていた。


「さぁレオ君。君は彼と戦うんだ。そうすれば彼女は返そう。勝とうが負けようがどちらでもいいよ。ただし、決して手を抜いてはいけないよ? 人を感動させるためには本気でなくてはならないんだ。その姿を見て、皆は感動を覚えるんだから、分かるよね?」


「……ああ」


 怒気を孕んだ返事。


「彼女ってクリスの事か?」


「…………」


 反論はないが、目は真っ直ぐに俺に向けている。


「お前にとっての大事なお姫様だからな。それを守るために剣を振るうってのもしょうがないよな」


「…………」


 深い皺がレオの眉間に刻まれる。


「俺は説教をするつもりもないけど、忠告はしておくよ」


 カオスを両手でしっかりと握り、構える。小細工無しの真剣勝負だ。どうすれば楽に勝てるかなんて考えはとうに捨てた。
 目の前にいるのは武術において格上の存在。小細工無しで勝てるはずもない存在。本気を出した奴に俺の切っ先が届かないことは自明の理だ。小細工を施した所で余裕を持って躱し、笑っているだろう。
 でも、今なら奴に届く。俺に力を貸してくれると言ったカオスがいる。俺の命を助けてくれたアイリスがそこにいる。俺が助けたいと思うやつらがこの国にいる。そして、助けたい奴は俺の目の前にもいる。助けたい奴より弱くちゃ話にならない。


「俺はお前より強くなったよ」


 先に仕掛けてきたのはレオだった。いつものレオなら俺の動きに合わせ、カウンターのように綺麗な剣技を見せてくれる。それだけ事を急いているのだ。
 レオの身体からは熱が発せられているのか、レオの体が陽炎のように微かに揺れている。
 俺の剣と奴の剣がぶつかる。するとレオの体表を覆っていた陽炎のような物が消失していく。


魔朧マジックヘイズ! この人、本気よ!」


 クララが教えてくれた。要は本気の証のようなものなんだろう。


「クッ……」


 俺の剣、カオスと剣を交わしたレオは自身の身に起きた異変を察知した。
 例の部屋を数歩歩いただけでジェイドが倒れるほどの吸魔の力だ。これだけの至近距離で魔力を吸われればレオもタダでは済まないだろう。
 しかしそれでも、レオはクララが言う魔朧を身に纏い剣を振るった。
 俺はそれに合わせ、カオスでガードをする。それだけでレオは辛そうだ。


「こやつ、足りぬ魔力を己が体で補っておる」


「それってどういうことだよ!」


「言葉の通り、肉体を魔力に変換しておる。このまま吸い続ければ、意識が無くなる前に命を落とすぞ」


「チッ、カオス。もう魔力は吸わなくていい」


 本気ってそういう事かよ。本当に命を懸けて、クリスを守ろうとしてるのか。
 レオは俺と剣を交わし、これ以上魔力を奪われないとみるや、猛攻を仕掛けてきた。
 縦横無尽に襲いくる刃。それを物理障壁とカオスで弾き返す。
 魔力を奪えば勝てると算段していたが、これでは勝てない。
 レオを戦闘不能にするには意識を奪う必要がある。意識を奪う直接的な手として、魔力枯渇状態に陥らせればよかった。でも、それを封じられた。
 レオを救うにはレオを生かしたまま戦闘不能にしなければならない。でも、戦闘不能にするには俺ができる手として、魔力を奪う意外にない。しかし、魔力を奪えばレオは死ぬ。


 手詰まりだ――。


 レオは魔朧を全身に纏い、床や壁、柱を蹴り、目にも止まらぬ速さで俺に襲い掛かる。
 あまりの速さに目が慣れず、時折ステンドグラスを通って降り注ぐ光を反射する剣や鎧の軌跡でなんとか付いていけてる。けれど、これも時間の問題だ。


 ――いや、手はある。


「カオス、剣以外の形も取れるか?」


「今より大きな形状にはできん」


「なら、小さければ形を変えられるんだな」


 俺はカオスにある形状に変形するよう頼む。


「その形ならば可能だ。だが、変形中は我が身を武器として振るうことはできんぞ」


「分かった。なら、タイミングはこっちで指示する」


 レオの猛攻を何とか防ぐが、その勢いに押され、壁際まで追いつめられる。だが、縦横無尽に飛び回り、前後上下左右のどこからでも切り掛かってくるレオに対して背を壁に預ける形になったのは正解かもしれない。これならば襲い掛かる方向も少しは制限できる。ただし、俺自身も後退する事ができない。こうなれば、迎え撃つしかない。
 レオもそれを分かってか、猛攻の勢いを僅かに鈍らせた。


「カオス!」


 俺の呼び声と共に剣の表面が波打ち、形状が変化していく。その隙を逃すようなレオでもなく、瞬時にこちらに走り寄ってくる。だが、直線的に向かってくるレオならばまだ捕捉しやすい。
 レオの振るった剣を再びカオスで受け止め、手首を強い力で捻って剣を拘束・・し、切っ先を壁に突き立て、左肘でへし曲げた。


「カズキ! その武器なんなの!?」


 クララが驚きの声を上げるが質問に答える余裕もない。
 武器を破壊され、体勢を崩しつつも退こうとするレオの手首を捻って、カオスで絡め捕り床に突っ伏させる。
 レオはそれでも拘束から逃れようとジタバタと暴れまわる。その拍子に拘束していた片腕の骨が折れたが、それでも拘束から逃れようとする。


「この! 野郎!!」


 危険だとは分かりつつも、レオの後頭部にカオスを振り下ろす。加減はしているが、それでも意識を混濁させる程度には力を入れている。
 動きが鈍くなったレオの首を絞め、どうにか意識を奪った。


「カズキ!!」


「……ああ、これな」


 レオの猛攻に神経をすり減らした俺は現実逃避と休憩がてら、クララに説明してやった。


「これは十手って言って、敵を殺さずに捕縛する俺の国の武器だよ。ほら、さっきみたいにココで剣を受け止めて捻ってやれば簡単に抜けなくなる。今の俺の力なら、並大抵の奴に力負けしないからな」


 それに十手という武器がこの世界に存在しなかったって言うのもデカイ。レオが十手を知っていたなら、俺がレオの剣を拘束した時点で手を放していただろう。
 本来の十手の正しい使い方なんて知らないし、俺の力が弱ければレオの攻撃を受けきれず、その刃が肩を切断してただろう。
 色々な運が重なった結果だと思う。なにせ、レオが相手でなければ武器を破壊するなんて発想が出なかったかもしれない。
 武器を破壊すれば勝利。
 確かにレオはそういった。そして、現に俺は勝ったんだから。


「素晴らしい! カンザキ・カズキ!」


 これほど腹の立つ称賛の声もないだろう。


「私の知らぬ武器、そして攻撃を受け止める度胸、そして追いつめられた末での逆転! 素晴らしい! ライバルとして起用した彼も自らの役割を見事に演じてくれた! 私は非常に満足している!」


 どこからか音楽が流れてくる。


「さぁ! クライマックスを演じよう! 演題は『雌雄』! キャストは私と君! 観客は彼ら!」


 その呼びかけでアイリス達が目覚める。


「カズキ様!!」


 真っ先に俺に気が付いたのはアイリスだった。続いて、アイリス、ハリソンが目覚める。


「さて、このクライマックスに彩るに相応しい音楽を私は決めかねている。何か良い演奏は無いかね?」


 この期に及んでどこまでも緊張感の無い立ち振る舞い。しかし、それは全て本気なのだ。本気で演劇の脚本を仕立てあげ、演者を選出し、舞台まで立ち上げ、現にこうして俺達は舞台に上げられている。バカバカしい。バカバカしいが、バカの一念だ。敬意の一つも表してやらんこともない。


「だったら、とびっきりの一曲を聞かせてやるよ」


 俺が大好きなアニメの一曲だ。俺がこの世界に来る切っ掛けとなったあのアニメのクライマックスで流れる一曲。血沸き肉踊り、何でもできると思える一曲だ。
 音楽アプリを起動してその場に置き、イントロが流れる。


「行くぞ。悦楽の王。舞台の準備は十分か?」


 両手剣の形状となったカオスを悦楽の王に向ける。


「ああ――」


 BGMがサビに入る。


「――幕は開かれた」

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