異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第265節

 翌朝。朝食をとり、戦の支度を始める。武器よし、魔宝石よし、仲間よし。


「ジェイド、案内を頼むぞ」


「はい。カンザキ様」


 ジェイドの案内で地下室の中でも奥の方に向かい、通路の真ん中ででジェイドが奇妙なポーズを取ると皆が一様に驚いて見せた。


「どうかしたのか?」


 ニールになんで驚いたのか聞いてみた。


「突然、壁が無くなったんだよ」


「は? 壁なんて最初から無かったじゃないか」


「いやいや、さっきまでここに!」


 ニールが宙に見える方の片腕を伸ばし、ココだよココと言っているがさっぱり分からない。


「先程の壁は幻の壁です。ただ、壁があると知覚している者には本当にそこに壁があるような質感を感じる特殊な魔術なんですよ。でも、カンザキ様には効かなかったみたいですけど。ちなみにこの床とこの壁を同時に触る事で一時的に魔術が解けるんです」


 さっきの奇妙なポーズはそういう意味だったのか。


「この先にもいくつか機械的な罠や魔術的な罠がありますから、決して私から離れないでください」


 ジェイドの指示に俺達は大人しく従う。
 道中、ジェイドの指示に従いながら地下迷路を踏破していきながら、この地下迷路についてジェイドから教えてもらった。
 基本的にこの地下迷宮のギミックは全て一つの吸魔石によって作動しているらしい。周囲の魔力を蓄え、条件を満たしたときにだけ罠が発動するというもの。これは魔石学、つまりタイン人の技術を使った仕掛けらしい。例えば、特定の床を踏むとスイッチがオンになって罠が発動する。俺の知識の範疇で例えるなら、回路に近いだろう。
 ともあれ、ジェイドの案内によって無事に城に辿り着く。


「ここは城の一階、城門とは真っ反対にある物置部屋です」


 ジェイドが言っている通り、掃除道具やら庭道具なんかが整頓され、並べられている。


「フィル、外」


「あいよ」


 フィルは気配を殺し、周囲と一体になった様な物音一つ、息遣い一つ聞こえない挙動で物置部屋の扉を開き、外を伺う。
 指を一本立て、続けて二本立てる。視認できるだけで十二体いるってわけか。


「手筈通り」


 俺は他の面々に声を掛け、ジェイドだけを抱えて連れて部屋を飛び出た。それに続き、ゲイリー達も飛び出て俺とは違う方向へと向かう。


「突き当たりを左に!」


 ジェイドの指示に従い、廊下を左折。ピカピカに磨かれた床で足を取られそうになるが、壁に肩をぶつけて転倒を回避する。
 そのまま廊下を駆け抜け、途中で遭遇する魔獣を文字通り蹴散らしながら初めてクリスと出会った広間への扉に辿り着く。中からは魔獣の唸り声が無数に聞こえてくる。


「ジェイド、支援任せた」


「はい!」


 IGBから超重量メイスを取り出し、扉をぶち破る。蝶番から外れ、扉は床に倒れ、けたたましい音を立てる。
 視認できるだけでも魔獣の数は二十を超えている。しかし、どの個体も俺が村で倒したような四足歩行をする牙と爪を持つタイプだった。素手で勝てて、装備を整えた俺が負ける道理が無い。
 奇襲に不可視の質量体を打ち出す無属性の魔術を放ち、手近に居た魔獣はそれで地面を転がる。だが、転がるだけで魔石にはならず死んでいない事は分かる。そこに追撃でメイスを振り下ろし、魔獣の息の根を止める。
 あまりにもあっさりと魔獣を倒せ、少し笑いそうになる。気分が高揚してくる。


「かかってこいや!!」


 俺の声に呼応するように獣達は一斉に飛びかかってくる。それをメイスを振り回す形で薙ぎ払い、床に魔石が散らばって行く。一拍遅れ、俺が隙を見せた所に魔獣が続けざまに襲い来るが、矢のような物がその魔獣を貫き、また一つ魔石が転がった。


「やるじゃん!」


 ジェイドの魔術は的確に魔獣の頭を貫いている。
 僅か十秒ほどの攻防で魔獣の数を十体以上も減らしている。
 警戒し、距離を置こうとする魔獣に遠慮なく無属性魔術を撃ち放ち、次々に転倒させ、それに対してジェイドが止めを刺す。もはや戦いですらなく、ただの射的ゲームとなり三十秒もすれば魔獣を全滅させた。


「ジェイド、行くぞ!」


 メイスをIGBに仕舞い、ジェイドを抱えて再び走り出す。
 例の俺だけに見える鉄扉はもうすぐそこだ。
 廊下を駆ける途中、窓の外で魔獣や魔人の集団がどこかへ向かう姿が視認できた。どうやら、ゲイリー達の陽動が上手くいっているようだ。
 作戦の手応えを感じ、更に速度を上げて扉を探す。そして、例の扉を見つけた。
 周囲に誰も居ない事を確認し、ジェイドを下ろす。


「ここだ」


「ここですか?」


「クララ、お前にも見えないのか?」


「ええ、どこにあるのかしら。貴方の視線の先にあるのはただの壁よ。少なくとも私にはそうにしか見えないわ」


「ノーマン、お前にも見えないのか?」


「ああ。周囲と同じ壁の材質、経年劣化も周囲と変わらぬ。染み一つからしても単なる壁にしか見えぬわい」


「マジか」


 触ってみるとヒンヤリとした鉄の感触が伝わってくる。叩いてみれば、金属特有の高い音がする。


「どんな音がする?」


 ジェイドに聞いてみた。


「どんな音といっても、小さくカツカツといった壁を叩く音以外に聞こえませんが」


 驚いた。どこまで隠蔽されてんだこれ。


「カンザキ様? 本当にここに扉があるのですか?」


「……ああ。地下迷宮にあった幻の壁みたいなもんだろ」


 俺はその壁を見てないから、確証は持てないが原理としては同じ気がする。ともあれ、この扉を開かなきゃ話が始まらない。
 鎖や魔石で装飾された扉を遠慮なく、あらゆる手段を使って破壊し尽くし、一般人では開けないような重い扉を俺の全力を持って開く。


「本当に扉がありました……」


 扉を開き、初めてジェイドが扉を認識した。
 扉の中は光源が無く、真っ暗闇。今まで誰も踏み入ったことが無さそうなのに、不思議と埃が積もっていたり、カビくさかったりする雰囲気は無い。むしろ、一切の穢れが無い、端的に言えば聖域に近い雰囲気がある。
 ちょっとした畏れを抱きつつも、中に踏み入り、それにジェイドも続こうとした――。
 ジェイドは声を上げることなくその場で倒れた。


「おい! ジェイド!?」


 側頭部を床に打ち付け、気を失っている。


「カズキ、ここ危ない。魔力、吸われて――」


 クララも言葉尻が弱く、それ以上話さなくなった。


「おい、クララ! ノーマン!」


 ノーマンからの返事もない。
 なんだよ一体!
 とにかく、クララの言葉によれば魔力が吸われてるって事だ。部屋に踏み入るだけで転倒するほどに急激な魔力の消失。一秒だってこの場に居させちゃいけない。
 素早くジェイドを部屋の外に連れ出し、横たわらせる。


「クララ!」


 吸魔石によって魔力を分け与え、クララに呼びかける。


「――おはよう、カズキ。あれからどれぐらい時間が経った?」


「十秒ぐらいだ。それより、今のはなんだ?」


「あの部屋の中、魔力が一切ないわ。カズキの世界みたいに魔力が空っぽなの。その上、魔力を持つモノから根こそぎ魔力を奪っているわ。今の一瞬で、カズキが持っている魔石の魔力、ほとんど持っていかれてるわね。その吸魔石にだけ、まだ魔力はあるようだけれど」


「マジかよ……」


 あの扉の向こうには一体何があるんだ?
 俺はノーマンが宿った魔石にも魔力を与え、ノーマンの意識を甦らせる。


「ノーマン、大丈夫か?」


「……ああ。この魔石に数日といられる筈だったんじゃが、今のでかなりの力を吸われたようじゃ」


「ノーマン、今のは何だったんだ? お前には分かるんじゃないか?」


「そう言われても、ワシの力は鑑定。実物が無ければ鑑定の使用が無い。ただ、言えるのは魔力を吸われていたあの時、懐かしい気分になった」


「懐かしい?」


「そうね。確かに私もそんな気がしたわ」


「クララもか?」


 聞けば聞くほど訳が分からない。魔力を吸われて懐かしいって気分が分からない。
 とにかく、ジェイドは放っておけない。俺自身は扉の中を早く確認したいが、コイツを放ったままでは気が散ってしまう。
 ジェイドを抱え、近くの部屋に入る。幸運な事に誰も居ない。
 客室であろう空き部屋のベッドにジェイドを預け、ついでにクララとノーマンも置いていく。どうせあの中じゃ魔力を吸われて役立たずだからな。
 さてと、それじゃ扉の中を確かめますか。

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