異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第263節

 地下へ続く階段。覗き込むと階段は緩いカーブ状になっており、階下まで視認する事は出来なかった。しかし、微かに壁が灯りによって照らされており、不規則に揺れている。蝋燭や松明といった炎による光、独特の動きだ。
 ゲイリー達も気が付いたようで、このまま降りるかどうかと顔を見合わせ、初めに俺が階段を下った。
 階段は意外に短く、三十段も下れば地下室が見え始めた。


「ジェイド、いるか?」


 俺の呼びかけにジェイドではない子供の声がしたかと思えば、すぐに止んだ。誰かがいるのは間違いない。というか、孤児院なんだから子供がいてもおかしくない。
 子供の声を聞いてか、俺の緊張は警戒と共にすぐに解けた。


「ジェイド、俺だ。カズキだ」


 階段を下りきり、地下室に入ると中には思った以上の人数がいた。
 子供を庇うようにこちらに警戒の視線を向ける女性や、冒険者然とした男達、そしてメイド服の少女。


「ご主……カンザキ様……」


 躊躇った様子でジェイドが出てくる。


「良かった。ここに居たんだな」


 もしココにジェイドが居なければ無駄足となっていた所だ。


「カンザキ様、どうしてここに?」


「アンバーから聞いたんだ。お前が孤児院の地下室で隠れ潜んでいるって」


「……姉様が……」


 安堵するジェイド。そこに冒険者然とした男が現れる。


「よお、旦那じゃありませんか」


「フィル!? なんでココに!?」


「いやぁ、例の件を調査している所でこちらの兄さんと知り合ってね」


 フィルが振り向いた先で座っているのはニールだった。


「なんで、ニールさんがここに?」


「ここは俺の家だ」


 そういや、ニールって孤児院の出身だったか。


「俺も孤児院の出身でこそないが、親無しでな。こういった子供らを見てると何かしてあげたくなるのさ」


 そういってフィルは器用に傍にあった暖を取るための薪をポンポンと投げ、ジャグリングを披露してくれる。それに子供達は反応する。警戒していた様子も薄れ、場が少し和んだ。
 フィルは子供の相手をしている間、少しニールと話すことにした。


「ニールさんはこの地下室の事を知っていたんですか?」


「いや、知らなかった。この地下室を知ってるのは王族とその近しい者、それから院長ぐらいらしい」


「そうか」


 俺はすぐ傍に立っているジェイドを見下ろす。


「外は今どんな状態なんだ?」


「まず、門が全部開放されてるから魔獣やら魔人が自由に出入りできるようになってるな。外は奴らが徘徊していた。俺達は特殊なルートで来たから奴らに見つからなかったけど。それと街中も少し見たけど、住民は誰も外に出てないし、魔族連中も見かけなかった」


「街中に居なかったのか?」


「ああ」


「旦那、奴らなら城の方に向かってましたぜ」


 ジャグリングが一段落付いたのか、フィルが地面に座り込む。


「フィル、知ってたのか?」


 ニールが少し棘のある口調でフィルに聞いた。


「ああ。食糧もいつまで持つか分からなかったからな。腹が減っても俺なら数日は我慢できるが、こいつらは違うだろ? だから、こっそりと調達しに行ってたんだ。今朝食べた干し肉だって知り合いから譲ってもらったんだぜ」


「そうだったのか」


「二人とも、話はそれぐらいで。で、フィル。魔族連中が城に向かったってのは確かなんだよな?」


「ああ。不思議な事に街中で逃げ回る住民を魔族連中は襲わなかったんだ。まぁ攻撃しようとした血の気の多い奴は返り討ちにあって死んじまったけどな。そんな調子で、大通りを通って城に向かってる姿は実際に俺は見たぜ」


「住民を襲わなかったのか?」


「ああ。どうしてか分からないが、奴らに攻撃する素振りさえ見せなければある程度は身の危険はない」


「なら、なんでこんな地下に潜ってるんだ?」


「それなんだがな。魔族連中に関しちゃ、危険はないって言ったんだが人間の方が厄介でな」


「人間?」


「ああ。今なら憲兵もいないし、盗みや殺しもし放題ってな状況だ」


 火事場泥棒みたいなもんか。


「一応、冒険者稼業の奴らが自警として街中を見て回っているって言う変な状況ができちまってるわけさ」


 城には魔族連中が巣食い、街中では暴漢連中が発生し、それを冒険者連中が警邏している。なんともまぁチグハグな状況ができちまってるわけだ。
 たぶん、住民を襲わないってのはあの悦楽の王の趣向なんだろう。観客が居てこその喜劇。奴とは一分程度のやり取りしかしてないが、クララの説明を聞いた上での悦楽の王の人物像を描けば、魔族連中の不可解な行動も説明がつく、というか筋が通っているように感じる。
 さて、これで困ったことが一つ。あの城の中には大多数の魔族が住みついており、俺は今からそこに侵入しようとしているという点だ。


「……さすがに連戦はキツいか」


 正直、サイクリングの後に水泳でトライアスロンにでも挑戦してんのかってほど疲れてる。
 俺は院長に断りを入れ、一晩ココで休ませてもらうよう交渉する。代わりに食糧やらなんやらは提供するという条件でだ。それに院長も快く了承してくれた。


「それじゃ、ジェイド。夕食の準備は任せた。これが持ち込んだ調味料を美味く使えるのはこの場でお前だけだからな」


「ッ! はい!」

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