異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第262節

 川上に移動し、馬を近くの木々に括り付け、いざ川遊び。とは言っても、ゲイリー達は鎧を着ている。さすがに馬の疲労を考えてかチェインメイルではなく局部を金属で覆った中級冒険者のような身なりだ。そして、川にそのまま入るというのである。
 ちなみに俺はまともに泳げないので着衣水泳は勘弁願った。
 下着一枚になり、服は全てIGBを介して現代に送る。また、IGBが濡れないようチャック付きの密封袋に入れて持ち運ぶ。改めて思ったが、俺の能力は紙を媒体にしていると水にめっぽう弱い。破れたり、折り目がついたり、汚れたりもだめだが、水に濡れるのもダメだ。これに関しても何か対策を考えなくてはならない。撥水性の紙に印刷するとか。
 ともあれ、川に入りゲイリー達と共にサニングに向かう。泳げずとも、浮く程度なら俺にもでき、川の流れに身を任せれば自然と運ばれる。
 川はサニングを貫くように東から西へ流れている。
 ところでゲイリー達はどうして泳げるんだろうか。海は忌避されており、海水浴なんてないはずだ。それとも兵役中の訓練に水練でもあるのだろうか。
 ゲイリー達の泳法はクロールや平泳ぎといった俺が知っている一般的な泳法ではなく古式泳法、立ち泳ぎみたいな格好だ。俺も具体的な立ち泳ぎの仕方は分からないけれど、あれだけの装備をしているにも関わらず沈みもしない。
 一応、川中に魔人が居ないかはクララに見てもらっている。なにせ泳げない俺は水中で目を開けられないからだ。痛いから。
 俺が水面をプカプカと漂っているうちにサニング外壁近傍まで近づく。ゲイリーの話の通り、外壁の下を川が通り、鉄格子で人間は入れないようになっていた。
 鉄格子の向こう側は普通の街並みが広がっており、地下水道みたいなファンタジー感のあるダンジョンにはなっていない。
 ゲイリーの部下の一人が川底まで潜水し、数十秒もすれば鉄格子の向こう側に現れた。
 俺らもそれに続く。俺は水中で目を開けられないから、手探りでだ。
 何とか川底と鉄格子の隙間を潜り、サニングへと侵入に成功する。
 周囲に人気は無く、俺が川から上がり着替える間に誰も見かけなかった。視界内にある全ての家屋の雨戸は閉められ、誰も出歩いていない。住民も魔獣も魔人もだ。


「まるでゴーストタウンだな」


 乾いたタオルで髪や体を拭いて清潔な服に着替える。他の連中にもバスタオルを渡したが、気休めだろう。
 東から侵入した俺達は外壁に沿って南に向かう。孤児院を見つけるためだ。
 周囲を警戒しながら物音を立てないよう移動し、アンバーの言っていた通り背の高い建物が視界に入る。
 俺達は隊列を組み、孤児院らしき建物へ近寄る。
 他の建物と同様に雨戸は閉められ、扉には鍵がかけられている。
 壊すにしても音が気になる。


「ノーマン、この扉はどうやったら開く?」


 俺は小声デノーマンに聞いてみた。


「その扉はシリンダー錠じゃな。壊すか外すか、好きにせい」


 シリンダー錠って言えば、スライドして鍵をする簡易的な鍵だ。それなら簡単に開ける。
 IGの媒体となる紙を隙間から差し入れ、腕を扉の向こう側に伸ばして手さぐりでシリンダーを開ける。
 ゲイリー達には俺の特殊な魔術だと説明しているが、もはや俺自身、隠す必要性を感じなくなり、隠蔽もおざなりになってきた。まぁいい。
 中に入るとアンバーの話通り、使われている材木の種類が違ったり、色が違ったり、日焼けの仕方が違ったりと棟の新旧の度合いは俺でも分かる。その中でも一際ボロい、もとい年季の入った棟を見つけた。そこは押入れか物置か、かなり物がごちゃごちゃしており、中を歩けば俺がビビるくらいに床が軋み音を上げた。
 部屋の四隅の内、三つが物が置かれており、一か所だけ埃が積もった層が薄い床があった。壁際には片手の四本指が入るかなといった程度の隙間が設けられており、そこに指をひっかけて持ち上げると床は簡単に持ち上がった。


「随分と頑丈な作りですね」


 ゲイリーがそういうのも無理はない。
 年季の入った家屋の地下に石造りの頑丈な壁と階段があるからだ。

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