異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第259節

 現代から自転車を持ち出し、異世界に向かう。正直、馬に乗るのは未だに苦手だ。馬は好きだけど、それを操るのはとても難しい。よくもまぁハリソンやロージー、アイリス達はできるもんだと今更ながら感心する。
 装備を整え、村の入り口に向かう。IG用のコピー本―呼びにくいからIGBと呼ぼう―も何枚かだが復元している。
 村の入り口には俺を見送るため、リコとロージー、それから寝起きのアンバーがいた。


「カズキさん、これを持って行ってください」


 リコから魔石を一つ受け取る。透明な石、綺麗に磨かれた石英のようだ。


「きっと役に立ちます」


「これは?」


 リコが少し小声になる。


「この中にノーマンさんの一部が入っているんです。数日程度なら鑑定の力をカズキさんも使えますよ」


「え、いいのか?」


 というか、そんな能力があるのか。


「いいんじゃよ。まさか、店に突然現れた小僧がこれから魔王に挑むと聞けば、見てみたいと思うじゃろう?」


 突然、ノーマンの声がした。


「分かった。とりあえず、世話になる」


「何もせずとも一週間はこの石の中に居続けられる。用があれば呼ぶといい」


 そういってノーマンは静かになった。
 俺は魔石をポケットにしまう。
 次はアンバーだ。
 アンバーは俺のすぐ近くまで歩み寄り、俺に耳打ちをする。


「カズキ様、もし城に忍び込むのであれば孤児院をお尋ねください」


「孤児院? なんで孤児院なんだ?」


 アンバーに釣られ、俺も小声になる。


「そこに今、ジェイドがいます。ジェイドは城への隠し通路を知っています」


 ジェイドか……。
 急に冷める心をどうにか制御する。何でも利用するって決めたんだ。それが気に食わないやつでもだ。


「分かった。孤児院だな」


「はい。南門を抜けて、壁に沿って東に向かえば背の高い建物があります。そこが孤児院です。増築を重ねているので古い場所と新しい場所がありますが、その中でも一番古い棟の床の角を調べてください。そこに隠し部屋があり、その中にジェイドがいます」


 一応、IGBの余白にメモをとる。この世界で俺しか読めない字だから、もし紛失しても大丈夫だろう。いや、汚い字とかいう意味ではなく日本語だからって意味で。


「その隠し部屋が城と繋がってるのか?」


「はい。隠し部屋の中に隠し扉があり、中はトラップが配置された迷路になっています。カズキ様ならば、お一人でも抜けられるかもしれませんが、ジェイドの案内があれば無用な危険も避けられるでしょう」


「隠し部屋に隠し扉に迷路にトラップ……まるでRPGだな」


「? 本当ならばサニングの外へ通じる通路もあるのですが、そちらは数年前に崩落し、復旧されなかったそうです」


「そっか。まぁ城に入るための隠し通路があるだけでも儲けもんだろ」


 俺は笑って答えたが、アンバーはいつもの澄まし顔ではなかった。


「カズキ様、どうかジェイドとクリスティーナ王女様の事をよろしくお願いします」


「……ああ」


 そういえば、クリスはどうなったんだろうか。一応、あの時は基地にいたはずだが、無事にサニングまで逃げられたんだろうか。


「カズキ様」


 今度はロージーだ。言われることは分かってる。


「アイリスの事は俺に任せろ」


 それ以外に言える言葉が無い。今の俺にとってアイツは奴隷である以前に命の恩人の一人だ。助けなきゃ男が廃る。


「お願いします」


 きっと、ロージーは俺に対して怒っているだろう。それでも、俺を責める言葉は口にしなかった。ただ、お願いしますとだけ。
 俺はそれに行動と結果で応えなきゃいけない。何としてでもアイリスは救い出す。
 俺は自転車に跨り、俺達に遠慮していたゲイリー達に視線を向ける。


「準備はいいか?」


「ああ、いつでも」


「それじゃあ、いくぞ!」


 俺は自転車のペダルを踏みしめ、村を出る。それに続き、ゲイリー達も付いてくる。

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