異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第258節

 行きとは違い、アニーの歩調に合わせているためのんびりとした帰路となった。


「しばらく村に滞在するんですか?」


「いや、すぐにでもサニングに戻らなきゃいけなくてね」


 俺がそう答えると、アニーは少しだけがっかりした様子だ。


「そうなんですか……」


「ああ。どうしてもやり残したことがあってね。サニングに戻る必要があるんだ」


「今から出発するんですか?」


「そうだな。アニーの元気そうな姿も見られたし、早めに出ようとは思ってる」


「少し寂しいですね。折角会えたのに」


「まぁ野暮用が終わったらまた来るさ。その時には色々と土産話を持ってくるよ」


「楽しみにしてます」


 アニーは本当に素朴で愛らしい女の子だ。健気で愛らしくて良く笑ってくれる。きっと、モテるんだろうなぁ。


「ああ、もう村に着いちゃいました」


「そうだな」


 名残惜しいが、これでしばらくはアニーとも会えないか。と思った矢先、村の入り口を数台の馬車が入ってくるのを見かけた。そのうちの一台は俺が知っている馬車だ。


「アニー! 悪いけど、ちょっと行ってくる!」


 俺はアニーに詫びながら村の入り口へ駆ける。
 間違いない。あの馬車は俺の馬車だ。人目を避けるための幌が付いておらず、車体も焼けこげているが間違いない。見慣れた青毛の馬に御者に座っている小柄な女性、やっぱりだ。


「ロージー!!」


「ッ!? カズキ様!?」


 やっぱりロージーだ。荷台にはアンバーもいる。そして――


「あら、カンザキさんじゃないですか」


 荷台に何故かリコが乗っている。


「なんでリコさんがここにいるんだ?」


「ここが私の故郷だからよ」


「カズキ様! どうしてカズキ様がここに!? アイリスは! アイリスはどうなったの!?」


 そこを尋ねられると辛い。ロージーにはアイリスを守ると約束した手前、引け目を感じる。


「悪い。色々とあって、アイリスとはぐれちまった。これからすぐにサニングに向かう」


「カズキさん、今はサニングに戻られない方がいいですよ」


「なんでだ?」


「魔王軍がサニングに攻め入っているからです。私達は一時避難として、こうして村にやってきたんです」


「ああ、疎開みたいなもんか。今、サニングはどういう状況なんだ?」


「魔王軍がサニングのすぐ近くに現れてから、私達はすぐにサニングを出たので今どうなっているかは分かりませんが、モリス王子の親衛隊が籠城戦をする準備をしていました」


 ここでリコがトーンを少し落とし、魔宝石を取り出す。


「彼に聞いた所、戦況は良くないらしいです。それで私達だけでも国を離れて脱出をしようと。ロージーさんも魔王軍がサニング周辺に現れる前から戦場の方で何か異変が起きたと言って準備をしていましたし、いち早くサニングを出ることができたんです。それでも、魔獣に襲われて馬車が傷ついてしまったんですけど……アンバーちゃんが居なかったら、あのまま魔獣に殺されていたかもしれません」


「そういや、アンバーは今どうしてるんだ?」


 荷台をもう一度見てみるとアンバーは眠っていた。


「夜警で見張りをしてもらっていたので、移動中ぐらいは休んでもらっているんです」


「そういうことか」


「カズキ様、これからすぐにサニングにお戻りになるのですか?」


 初めはアイリスのことで取り乱したロージーだったが、今は俺がサニングに向かう事を念頭に置き、確認する口調で聞いてきた。


「ああ、そのつもりだ」


「でも、お一人では危ないですよ。誰か護衛を付けないと」


「でも護衛なんて居ないだろ」


「それなら私共がお供しましょう」


 どこから湧いてきたのか懐かしい顔のゲイリーがそこにいた。


「村に入ってきた者のチェックぐらいは警備の務めですから。立ち話を盗み聞いたと思わないでください」


「ああ、それはいいんだけど。ゲイリーさん達が俺の護衛に?」


「はい。現状であれば、村に数名を残せば安全でしょう。この隊の指揮権は私に委任されていますから、問題はありません。サニングの窮状に赴く事に我が主は咎めはしないでしょう」


「全速力でここからサニングまでどれぐらいかかる?」


「今から向かったとして、途中の宿場町で馬を交換すれば今日の夕方には着くでしょう」


「……分かった。なら、頼む」


 伸ばされた手を振り払う程、俺に余裕はない。使えるものは何でも使う。それぐらいの気持ちでないと、あの魔王に再戦すら望めないかもしれない。


「俺も移動手段を確保する必要がある。そっちは準備ができたらココで待っててくれ。俺もすぐに準備でする」


「分かりました」

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