異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第256節

 俺はIGを通じてまたこちらの世界に来ることができた。
 埃っぽい狭い空間。村長宅の屋根裏だ。
 危なかった。もし、雨漏りや鼠に齧られたりしていたら、本当に二度とこちらに来ることができなかったに違いない。


「よいしょっと」


 久しぶりにこの村に来る。最初の頃はアニーの診察のために何度か訪れたが、最近じゃ全く来ていなかった。
 俺が使わせてもらっていた部屋の天井板に相当する部分を持ち上げて飛び降りる。もちろん、音を立てないよう加重の力は使っていない。
 ガラス窓の無い建物も懐かしいな。
 雨戸を開き、外を眺める。戦争の欠片もない牧歌的な雰囲気がゆったりと流れている。
 ここのゲートを思い出すまで随分と時間がかかったせいか、既に朝になっている。
 よかった。ここまで戦禍は伸びてないみたいだ。
 俺は雨戸から飛び降り、あたかも今、村に入りましたとばかりに振る舞う。


「おお! カンザキさんじゃねぇか! 久しぶりだなー!」


 クワを手にしたおっちゃんが俺に気が付いた。獣除けの柵越しで距離が遠いので大声でのやり取りだ。


「ああ! 久しぶり!」


 おっちゃんも軽傷を負ってたと思うが、すっかり治っているみたいだ。


「アニーちゃんなら村の外で薬草を摘みに行ってるはずだー! 時間があるなら迎えに行ってやったらどうだー!」


「分かった! ありがとう!」


 そんな悠長に時間を使うのもどうかと思ったが、少し顔が見たくなった。もしかしたら……いや、考えるのはよそう。悪い想像は悪い現実を引き寄せるって言うし。
 それに、俺はこの村からサニングまでの道程を知らない。あの時はセシルの馬車を利用して、過程を飛ばしたからな。少しでも道を教えてもらえれば助かる。
 早速、おっちゃんが指さした方向にある森に向かう。遠くから見て、そこまで広い森でもなさそうだからすぐに見つかるだろう。


「カズキ、そのアニーって誰?」


「俺が初めてこの世界に来た時に助けた女の子」


 自分で言っててなんだが、かなりヒーローっぽい。


「カズキって英雄願望でもあるの?」


「英雄願望か……いや、俺のは英雄願望じゃないな」


「あら、そうだったの? 人間が好んで読み聞く物語の英雄みたいだと思ったのに」


「俺は英雄になりたいんじゃなくて、主人公になりたいんだよ」


「主人公?」


「ああ」


 昔からの願望だ。物語の主人公になりたい。きっとそれは憧れだ。巨悪に打ち勝つ主人公、知恵を振り絞る主人公、葛藤する主人公、皆から愛される主人公、皆から忌避される主人公、あらゆる物語、アニメや漫画、小説。それらに登場するキャラクターになりたいと望んだ。でも、現実では巨悪なんて存在はせず、ヒロインなんてのも居ない。群雄割拠の戦国時代でもなければ、未知の技術を駆使する宇宙開拓時代でもない。
 俺は童心を捨てられずに大きくなった子供大人だ。
 そしてこの世界に迷い込み、その童心から憧れが生まれた。俺は主人公になりたい。自分で好きな選択をできる物語の主人公に。そして、俺の中の小さな主人公がアニーを助けたんだ。


「それが悦楽の王を倒すって決心させた理由?」


「そうだよ」


 今なら恥ずかしげもなく言える。命懸けの決心なら誰に笑われようと、俺は最後まで好きに選択した主人公でいられる。


「なら、私が語り部になってあげるわ」


「語り部?」


「主人公の活躍を語り継ぐ語り部。きっと、私が貴方と巡り合ったのはこのためだったんだと思うわ」


「なるほど。なら、さぞかし格好良く語ってくれるんだろう?」


「私、嘘は苦手なの」


 その答えに俺は笑った。きっと、クララも声に出さなくても笑ったと思う。

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