異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第252節

 気を失ったカズキは丸一日床の上で倒れていた。苦悶の表情を浮かべ、蒸し暑く閉め切った部屋の中で血と汗で汚れた体のまま。
 このまま目が覚めず、衰弱死しても誰も気が付かないのではないか。それほどまでに一日と言う時間が経過した今でも何一つ変わったことは起きなかった。
 陽が昇り、陽が沈み、再び陽が昇り、二度目の日没に差し掛かった頃、カズキのポケットから低く唸るような音が数十秒に渡って鳴り続けた。しかし、カズキが目を覚ますことは無かった。こうしてまた陽が沈んだ。


 カズキが生来の世界に戻って三日目。流した血も乾ききり、傷口は厚いカサブタになっていた。
 蒸し暑い室内で時計が室温31℃を表示している。三日も飲まず食わずの人間がこんな蒸し暑い中にいれば誰だって疲弊するし、衰弱もする。それが怪我人ならば尚更だ。
 時が経つにつれ、悪臭も漂いだす。
 カズキが緩やかな死を迎えようとした時、やけに大きな高音が室内に響いた。


「神崎くん、おる?」


 三日目にして初めての訪問客。カズキの知人であろう男の声がする。
 少し間を開けて、再び大きな高音を響かせ、扉をガチャガチャと扱う。


「鍵開いてるやん。不用心やな」


 ドアがそっと開く。三日振りの新鮮な空気がスーッと入ってくる。


「うわ、くさっ!」


 光明が見えたかと思えばバタンと唐突に閉められる扉。


「でも、生ゴミって感じやないな」


 扉がもう一度開かれる。
 坊主頭にメガネをかけた男が口元に手を当てたまま、中に入る。


「神崎君? 靴あるし、いるやろ?」


 男は恐る恐るといった様子で中に入ってくる。
 カーテンは締め切られ、光源もない中でも僅かに差し入るカーテンの隙間からの光。男はそちらに歩み寄り、カーテンを開く。
 三日ぶりに室内が光で満たされ、倒れていたカズキも照らされる。


「神崎君!?」


 入ってきた光でカズキに気がつく男。
 傷だらけ、腫れだらけ。床には乾いた血のカスがこびり付いており、ただ事ではないと一目瞭然の惨状だ。
 男はカズキの息があることを確認した後に自分の手に負えないと判断し、一度外に出る。
 しばらくすると、一定のリズムを発する騒音が接近してくる。男は何者かを連れ、室内に招くと男達は手際よくカズキを外へと運び出した。


「神崎さん、意識はありますか?」


 馬無しの馬車、車に乗せられたカズキは返事をしない。気絶している。
 同行する坊主のメガネ男は心配そうにしている。
 車は馬の鳴き声とも違う音を立て、黒く舗装された道を進む中で、男達はカズキの状態を手際よく調べ、悪臭源を取り除き、応急処置を施した。
 そうした経緯の末、カズキはこの病院と呼ばれる医療施設に搬送されたのだ。

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