異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第247節

 白い顔の男。第一印象は異様に白い肌を持つ男だという事。第二印象が貼りつけたような笑顔、というより極太の黒のマジックで描かれたようなフォルメされた表情を浮かべていた。
 男は周囲に俗にいう鬼火のような青白い炎を漂わせ追従させている。
 他に付いてくる者はおらず、その男一人だけのようだ。
 男はゆっくりとした足取りで南に向かっている。
 少しずつ近づく男の顔はまるで株のように丸く、白く、大きかった。
 異形の姿。
 俺が知り合った魔人はどれもアベル人に似ており、少なくとも俺には区別がつかなかった。しかし、この男は違う。白く丸い顔。毛髪の一切は無く、マジックで描かれたような笑みを崩さない。初めは遠目で分かりにくかったが、かなり背も高く、手足が異様に長い。たぶん、直立したら指先がふくらはぎに届くぐらいはあるだろう。


「……魔王です」


 アイリスが小さく囁いた。
 なんで分かるのかといった問答をするつもりはない。それこそ時間の無駄だ。
 魔王と分かれば手加減はいらない。
 本からバールを取り出し、構える。
 悦楽の王は鬼火を従えたまま南に進み、段々と背を向けていく。
 俺は三人に見えるように指を三つ立てた。
 奇襲のチャンスだ。これなら震撼の力を使われる前に首を落とせる。
 指を一つ折る。
 悦楽の王の身長は二メートルと四十センチ程。首元まで約二メートル。バールの先端を奴の後ろ首に突き立てるだけで終わる。
 指を一つ折る。
 保険の王水もいつでも取り出せるようにしてある。最悪、これを投げつければ逃げる時間ぐらいは稼げるだろう。
 最後の指を折る。


 俺とフランは走りだした!
 アイリスとハリソンが光魔術を行使し、俺とフランの影が悦楽の王へと伸びる。
 先行するフランはその剣に炎を纏い、その切っ先で悦楽の王を貫こうとする。


「やぁ」


 悦楽の王は俺達に背を向けたまま、貼り付けられたような笑みをこちらに向けた。
 こいつ、首が百八十度回ってやがる!
 フランの勢いは止まらず、そのまま悦楽の王の体を貫こうとした。が、その切っ先は悦楽の王が左手を後ろに回した指先一つで止められた。
 チッ、これが消擊の力か!
 フランが身に纏っていた炎は悦楽の王に吸い寄せられ、消え去った。
 クソが!! 吸魔の力かよ!


「裏方が動いていると聞いてみれば――」


 悦楽の王が口上をたれようとしているが、無視して攻撃を仕掛ける。
 悦楽の王から見れば、フランの背後から突然俺が現れたように見えただろう。全力全霊のフルスイング。悦楽の王のフザけた顔を吹き飛ばすための暴力を振るった。


「――どうやら役者の方だったようだね」


 悦楽の王はバールを防ごうと、まるで後頭部でも掻くかのように右手を後ろに回して顔面を守ろうとする。しかし、フランの攻撃とは違い、俺の攻撃は止まらなかった。
 その右手ごと吹っ飛ばしてやる!!
 確かな手応えを感じる。


「いや、もしかしたら君が今回のメインキャストかな」


 悦楽の王の笑みが消えることはなかった。
 バールは悦楽の王の右手こそ破壊できたが、その破壊された手を媒介に消擊の力で威力が殺された。


「笑え」


 悦楽の王が何かをした。


「……クックック」


 フランの肩が微かに震える。


「……クスクス」


 背後から可愛らしい笑い声が聞こえる。


「……ハハハ」


 背後から男の乾いた笑い声が聞こえる。


「なるほど。やはり君はオーディエンスではなかったようだね」


 悦楽の王はバールをギュッと握る。よく見るとその手は人間の手ではない。藁で編まれたような枯れ草の手だった。


「メインキャストはロト・サニングかと思っていたが、いやはや。メインキャストが二人とは思わなかった。少し脚本の手直しが必要か。さて、黒髪の異人。カズキ・カンザキ」


 やばい。これはやばい。


「君に相応しい役柄は悲劇の主人公ということでいいだろうか?」


 悦楽の王が左手をゆっくりとフランへと伸ばす。
 俺はフランの腰に手を回し、後ろに飛びながらバールを手放して王水を投げつける。
 起爆用に瓶の中に魔石を入れており、その魔石を爆発させ、その中身を周囲にぶちまける。


「カズキ」


 いつの間にか俺の隣に立った悦楽の王は耳元でそっと囁く。


「メインキャストは小道具に頼りすぎてはいけない。それではこの演目が陳腐なものとなってしまう」

「異能力で異世界充実 ―非現実の扉―」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く