異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第245節

 俺がこっそり画策した後、しばらくしてから戦場、そして基地で大きな異変が起きたとの報告が俺の耳に入った。
 俺の知らないところでハリソンが動いてくれていたようで、他の兵と交流をしながら情報をもらっていたらしい。聞いてみれば、酒やら肉やら香辛料やら、俺が現代から持ち込んだ物品でそこそこの人脈を広げていたらしい。
 さて、そのハリソンからの話だがロト陣営やクリス陣営に所属する兵士や隊員の一部が離反したというのだ。まだ公には知らされていないが、親衛隊の中でもトップの者、あるいは基地内において自由に動けるハリソンぐらいしか知らない情報だろう。
 ハリソンから更に話を聞くと、離反した者の共通点はなく、前触れもなく、足跡もなかったらしい。証拠はないが、外部からの手引きがあったとするならば、間違いなく悦楽の王からの攻撃だろう。
 さっきのトニのようにアベル人の姿をした魔人が基地に侵入して悪さをしたのかもしれない。その目的までは分からないが、良くない流れだ。
 戦術、つまり剣術や魔術といった戦う術とはもう一つ上の次元。戦略級の仕掛けを施されている可能性がある。
 前線を維持できている今、人間側の有利だと思われたが、魔人側も何もしていないわけじゃなかった。
 俺がこれに対し、どう対処するかといった問題ではない。これは隊長たるロナルドや副隊長たるレオがどう動くかといった問題だ。言ってしまえば、この件に関して俺がなにか動くつもりはない。


 それ以外の所では動くんだけどね。


 俺は他の三人を集め、会議を開いた。


「俺達にチャンスが巡ってきた」


「チャンスですか?」


 アイリスが可愛らしく小首をかしげる。


「ああ。もしかしたら、悦楽の王自らやってきてくれるかもしれない」


「主、それは本当か?」


「上手くいけばだけどな。そうじゃないとしても、かなりの手練れを連れてきてくれるかもしれない。それを倒せば、更に戦争が有利に進む」


「それは、カズキ様を狙ったという女の魔人の件ですか?」


「そういうこと。命を奪わず解放する代わりに魔王に虚偽の報告をするっていう物。それなりにリアリティを持たせたネタをね」


 三人とも納得がいった様子だ。


「魔王が相手なら俺が出るし、それ以外ならフランに任せる」


「主が魔王と!?」


 この中でだれよりも驚いたのがフランだった。


「ああ、というか俺以外の人間だと震撼の力のせいで全力が出せないんだろう?」


「……確かに、震撼の力を防ぐ術をアタイは持ってない。けど、主だって……」


「いや、俺には震撼の力は効かないんだ」


「カズキ様、それはどういうことなのでしょう?」


「ああ、理屈としては簡単な話なんだ。震撼の力ってのは相手の感情を無理矢理引き出す力のこと。じゃあ、どうやって引き出すのかっていえば魔力の干渉なんだ。あらゆるものは魔力を持っていて、人間も例外じゃない。その人間が持つ魔力に干渉した結果として感情が引き出される。でも、俺は魔力を持っていない。アイリスなら分かるだろう?」


「確かに、カズキ様の魔力は極端に少ないですけど」


「だから俺には震撼の力は通じない。そして、消撃の力。これにも攻略法はある』


「カズキ様、それは本当ですか?」


 これにはハリソンも懐疑的だった。


「ここまで見てきたところ、魔獣や魔人は酸素を必要としていた。それを飛躍させれば魔王ですら、無酸素環境であればダメージが通る可能性がある。他にも手はある」


 俺は茶色いビンを一つ取り出した。


「主、これが他の手ですか?」


「ああ。王水と言って俺の国じゃ金属すら溶かすって言われてる禁忌の液体だ。今回の作戦のために特別に用意した」


 特別に用意=窃盗なんだけどな。


「金属すら溶かす……もしやそれは賢者の水ですか?」


「ん? 賢者の水?」


 聞きなれない言葉をハリソンが口にした。


「ええ、森の国では禁忌とされる物の一つです。歴史上、魔王を倒すために創造されたとされる賢者の水、今では生み出すための魔術も失われたため、遺失魔術の一つとして伝説上の物として扱われていますが、まさかカズキ様がそれをお持ちになっているとは」


 もしかしたら、過去の偉人も魔術や武術といった術だけじゃなく、科学を使って魔王に対抗しようとした歴史があるのかもしれない。でも、なんで今では失われているんだろう。


「まぁハリソンが言う賢者の水と性質は似てるかもな。でも、俺の国でこれは王水、あるいはアクア・レギアって呼ばれてる代物だ」


 ビンに『aqua regia』と書かれている。たぶん、こっちが王水の正式な名称なんだろう。


「アクア・レギアですか」


「ああ、他にも濃硫酸、硝酸、塩酸といった俺の国ではメジャーどころの劇薬も用意した」


 メジャーな劇薬ってなんだろうな。自分で言ってて訳が分からない。


「分かりました。主の覚悟、しかと受け止めました」


「分かってくれてよかった。今日の夕方にはここを出る。皆、作戦準備をしてくれ」

「異能力で異世界充実 ―非現実の扉―」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く