異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第232節

 白い海。それは高温の炎。平原を覆い尽くす黒き七千匹の魔獣を浄化する白炎。
 その正体はアルミニウムと鉄錆、ガソリンと石鹸を混ぜ合わせたテルミット式ナパームジェル。その火力は高い物で三千度に達し、鉄すら溶かす熱を生じる。


「カズキ! あれは一体なんなの?」


 俺の隣に立つ、ロイスは驚愕の表情を浮かべる。
 正直、俺も内心は驚いている。数百メートル離れたここにすらその熱の一旦が伝わってき、七千匹の魔獣は逃れるすべもなく倒れていく。


「あれは単なる高温の炎さ。ちょっと準備が必要な代わりにあれだけの範囲の生物の息の根を止める、だけじゃないか。炎に直接焼かれなくても俺らみたいに呼吸をする生物なら近づくだけで意識を奪われるし、あの熱で肺を焼く。とにかく、近づくなよ。あの周囲には目に見えない死神が踊り狂ってるとでも思ってくれ」


 悦楽の王ならそんな気の利かない言い回しをしそうだと思った。


「あれをあなた一人の力で……本当なの?」


「ああ。準備には骨が折れたがな」


「あんなの王宮魔術師でもできないわ」


「できるんだったら、こんな戦争は簡単に終わらせれるだろう」


「では、あれはなんだ?」
 広範囲で広がる炎は周囲の酸素を奪いつくし、それでも足りず周囲から貪欲に奪っていく。肥大する炎は次第に赤い柱を伸ばし、飛行する魔獣すらも貫くように伸びていく。
 火災旋風。炎によって生じた上昇気流により、結果として炎の渦が生じる現象だ。
 赤い柱は基地からでも見えるようで、クリス陣営だけではなく、ロト陣営の兵士ですらその柱に目を奪われていた。そして、アイリス達も同じだった。


「あれは火災旋風って言うんだ。俺も実際に見るのは初めてだけどな。とりあえず、一度降りよう」


 俺は櫓から降り、三人と合流する。ロイスも後から俺についてきた。


「主、あれは一体?」


「俺はテルミット式ナパームジェルって言う……兵器だ――」


 俺が言い終わらないタイミングで白き海で爆発が起きた。原因は分からないが、もしかしたら魔人が魔術で水でも掛けたのかもしれない。それによる水蒸気爆発、その爆風によって更に炎は広がり、あちらさんの被害は増していくようだ。


「今の爆発は?」


 ロイスからの質問が止まらない。好奇心の塊のような女だ。


「敵さんが火に油でも注いだんだろ」


 七千匹の魔獣はわずか一分の内に全て燃え尽きた。たぶん、魔石ですら残らないだろう。


「あんまり炎を見過ぎるなよ。目を焼くぞ」


「カズキ様、あんなに離れた火が目を焼くんですか?」


「あー、あの光を見るのは太陽を見続けるみたいなもんだ。だから、長時間見ていると目が痛むってこと」


 俺はアイリスの頭をポンポンとする。あれだけの現象を目にした俺の立っていた気が少し落ち着いた気がする。
 とりあえず、できる限りの事はした。一度レオ達に合流したほうがよさそうだ。

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