異能力で異世界充実 ―非現実の扉―

田所舎人

第231節

「魔族軍の侵攻を確認!! その数は二万匹の魔獣との報告が入っています!!」


「二万だと!?」


 戦隊副長の男が驚き声を上げた。戦争を知らない俺だって二万という数に耳を疑った。


「報告によりますと、魔獣は数十匹からなる小隊を組み、集団行動を取りながらこちらに向かっているとのことです!」


 例の知恵を持つ魔獣だ。
 クララから話を聞いた俺は確信を持った。訓練された兵士と同様の戦力になる魔獣が約二万だ。初期の戦力投入としては破格なのではないだろうか。


「レオ、どうするんだ?」


 今まで黙っていたが、レオに確認しなければならない。これからどう動くのか。
 レオはすぐに兵士に確認を取った。


「魔獣の群れはどのように動いている? どこにどれだけの戦力を投入している?」


 兵士は羊皮紙をめくり確認しながら報告をする。


「西に五千、正面に八千、東に七千です」


「七千か……」


 単純に言えば、七千匹と二千人の衝突だ。数の上では不利だが、ロナルドやレオのような一騎当千の者も居れば、ロイスのような範囲殲滅火力を持つ魔術師だっている。


「カズキ、もう一度確認するけどアレは一回しか使えないんだよね?」


「ああ」


 俺の短い返事にレオは即断した。


「アレの用意をしてくれ。可能な限り急いでだ」


「分かった。隊員は混乱するだろうから、事態の収拾は任せるぞ」


「もとより私の仕事だ」


 俺とレオは笑った。ただ、俺の笑いは少しだけ乾いていた気がする。


「フラン、アイリとハリソンを丘の上まで連れてこい。あまり見ることができない光景を見せてやる」


「? わかりました」


 この件に関してはフランにも黙っていた。魔人はどこに人間の振りをして近くにいるからわからなかったからだ。
 俺が出るタイミングで戦隊長がレオにどういうことかと尋ねていたが、レオ自身に全てを説明することはできないだろう。


「カーズキー、なーにするのー?」


 俺の後を追ってロイスがやってきた。


「ちょっとした化学の実験だよ」


「化学? それって錬金術みたいな物質を変換する魔術のこと?」


 マジでこの翻訳機の性能が分からない。かなり核心を突いた翻訳をしている。


「そうだよ」


 高度な科学は魔法と変わらないと言ったのは誰だったか。


「ねぇねぇ、どんな魔術なのー? ロイスちゃん、気になるー」


「百聞は一見に如かず、まぁ見ても全部が分かるとは限らないけど分からないことがあったら聞いてくれ。分かる範囲で答える」


 とにかく今は時間が惜しい。俺の策は敵味方を区別できるような策じゃない。その区域にいる生物全てを殺す威力だ。今は魔獣の侵攻で済んでいるが、戦闘に入ればこの策は使えない。
 丘の上に到着し、更に櫓に上がる。配置されていた兵士に状況を聞きながら、平原を見下ろす。
 七千匹という数の暴力は膝上にも伸びた草をその体で踏み潰しながら、かなりのスピードで進行してきていた。


「早いな。何匹か抜けてくるかもしれない」


「主! 二人を連れてきました!」


 櫓の下からフランの声がしたので俺は櫓から身を乗り出した。


「三人共、よーく見てろ!! もう二度と見れない光景を見せてやる!!」


 火属性の魔宝石と吸魔石を取り出して大きく深呼吸する。
 膨大な魔力を魔宝石へと注ぎ込み、平原にある一点を見つめる。
 百メートル先にある小さな目印。
 その目印にほんの小さな火を灯した。


 次の瞬間、緑豊かな草原は白い海へと変わった。

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